Rinda-Ring

Event1:ゴースト屋敷「いにしえの遊技(だるま関係)」


4F 「喋る男の油絵のフロア」MAP




現在いる場所 扉・閉まっている
廊下・通れるところ 扉・開いている
大きな壺






 絶体絶命とかピンチだとかいう状況がまさに今。
 私たち、三人ともHPは1。敵は呪われ人形ご一行様。舌鋒最悪のマリア人形と、ピエロと……他にも強そうな大きな人形が数体。あと、小さな人形がたくさん。目があったミルク飲み人形が、べぇと可愛い舌を出す。永遠に見開かれたままの目に悪意が満ちている。
 一言で言うと、気持ち悪い。不愉快。怖いっちゅーの。
 つまり、一言で言えない。
 ノアの決断もまた、一言では言えない。
 これは……作戦というか、なりゆきまかせというのではなかろうか。

 でも、仕方ないよね。この世にRPGがあらわれたときから、魔法使いっていうのはクールなパーティのブレインなんだから。や、あらわれたときがどうだったかは知らないけど、さ。

 ノアは杖を構える。
 マリア人形は腰をふりふり、
「アッハ、まダ無駄ナ抵抗するノォ? 馬鹿ッテいやァん」
なんて言ってやがる。後ろでシロウはまだふらふらしてやがる。
 負けてなるものか!!

「行くわよサラ!!」
「オッケーいつでもどうぞー!!」

 人形たちはわっと声をあげてもりあがる。私たちが何をするか、子供みたいに目をキラキラさせて待ってる感じ? むかつく。
 かけ声たくましく、ノアは目を閉じた。口の中で呪文の言葉をつぶやいた、それはたぶん一秒かからなかったと思う。レベル2とはいえ、奇跡的な詠唱の早さ。
 ノアの構えた杖から炎が噴射された。
「アハッハハぁーー!! 効かナいッテ知ってるノニ、人間ッテばかぁ!!」
 マリアの嘲笑。そしてマリアは、私たちの予想通りの行動をとる。目を閉じ、馬鹿長い詠唱を唱え……

「今よ!!」

 孤立したマリア人形、彼女が目を閉じると周囲の人形は動かなくなる。

「馬鹿はあんたよ! あんたのくそ長い詠唱時間を、私たちが口開けて待っていると思うてか! ひっさぁつ!! ヒーローが変身してる間にショッカーが襲いかかれば、勝てるんじゃないか戦法!!」
長!! てか早くっっ!!」

 私は、シロウの入ってた壺を持ち上げた。それは案外な軽さで、ひょいと宙に浮く。そして、そのままマリアめがけて落とした。
 ……壺で攻撃、ではない。この中にマリアを閉じこめてしまおうという作戦。

 だいたいこんな部屋にこんな強い魔物がいることが変。
 そしてそんなに強い魔法で弱小レベルの私たちが全滅しなかったことが変。本当だったら最初のノアの魔法へのカウンターで全員死んでお釣りがくるって。
 ノアは言ったのだ。
 確かに、こんなに強い敵ってズルだと思ったけど、まさかこの戦闘そのものがイベントだとまでは思いつかなかった。

 どこーん! と音を立てて壺は地面に着地した。
 だけど、なんてことだろう。私、外してしまったのだ。外側にマリアが居る。うまく壺の口の中に奴を入れることができなかったのだ。
 ああホントにヤバイ状況って、これで私のせいで全員死亡、借金生活、もはや行く末は山賊、道をゆく冒険者から伝説の武器をかっぱらって生きていくんだ……てそれ、イイ感じ……?

「シロウーー!! マリアを止めてぇぇ!!」
 ノアが叫んだ。ふらふらぴよぴよしていたシロウはようやく人心地ついたところで、突然の命令に目を白黒させたが、あわわわわと行動にでた。
 マリアが詠唱を続けようと口を開いた途端、大きく右手の人差し指を振りかぶって思い切り相手に向け、叫ぶ。

「だ、だるまさんが、ころんだっっ!!!!」

 ぴた。
 と、マリアは止まった。
 たぶん、思わず。
 私も止まりそうになったもんね。
 そこで止まってたらマリアレベルのば・かだということだけど、そうではなかったので、動いた。もう一回壺を持ちあげて、マリアをその中に入れた。

 中でものすごい悲鳴を上げているのが聞こえる。
 こわごわ周囲を確かめたけれど、マリアが居なかったら他の人形は微動だにしない。あの薄気味悪い笑みをたたえたまま、ぴくりともせずにたたずんでいる。
 悲鳴は続いていた。
 そして、静かになった。

「ふぅ、これでだめだったら時計を戻さないとダメかって思ってたんだけど」
 ノアが汗を拭いた。
 次の手まであったとは、恐れ入ります。私なんて人形相手に戦うことしか考えられなかったもんね。シロウも胸に手を当てて息をついていた。
「びっくりしたよ……ほんとにあの人形、顔が怖かった。俺、夢に見そうだよ。ううっぶるぶる」
「ぶるぶるじゃないッッ! なによあんた、壺に入ってたくせに」
「別に入りたかったわけじゃないぞ! ……落ちただけだ」
「その調子で試験にも面接にも落ちるがいいわーって思ってたけど、ありがとうだるま」
「………」
「そうよね、ありがとうだるま」
 ノアもにーっと笑って続いた。
 感謝されてない……とシロウは呟いてがっくりと肩を落とした。



■ ■ ■ ■



「やぁみなさん、戦闘に勝利しましたナァ!! おめでとうございます」
「あー、どうなることかと後ろで固唾をのんで見守ってましたぁ……」
 ナビ二匹が後ろからあらわれた。
 ハムスターがシロウの肩のあたりからひょこりと顔を出し、
「信じてた……」
などとホラーチックに呟いたのでおそろしきこと中年親父のビキニ姿の如しである。

「この戦闘はノアさんの推理通り、戦闘ではなくて、戦闘っぽいイベントだったんですぅ。証拠に、みなさんHPを確認して下さい」
 あ、1じゃない。満タンに近い元の状態だ。
 つまり、夢の中で人形と戦っていたようなものである。
「あっ、いまこの怒りは何にぶつければいいかなって目でボクを見たでしょう!?」
「み、見てないよ〜、やだなぁ〜〜、バッチョくんたら、するどいっ! さぁこっちにおいでよ」
「イヤァァー」



 ぼーん、ぼーん、と時計がなった。
 そして、ばりばりと音を立てて壺が割れた。まぶしい光がそこから照射して、まるで幻が消えるようにたくさんの人形たちが消えていく。成仏する霊ってこんな感じかも? て、霊だったのかも。もともと。
 あらわれたマリア人形は、あの狂った感じではなかった。姿形にかわりはないけれど、ちゃんと知性を感じさせる眼差しで私たちを見回した。

「……わたくしの封印を解いてくれて、ありがとう」
 は? 封印? と問い返しかけて、私はノアに肘でつっつかれた。
 だるまさんで封印がとけたんじゃなぁ……なんて言いっこなし?

 マリアは一人立つ。毅然とした風貌にはもう人形らしさは見受けられない。
 どこか聖職者めいた雰囲気。

「この屋敷の呪いを解いてくれるのは、あなた方ではないでしょうか。
 ……私はマリア、この村の教会ではたらいていた、巫女です。今はもうない私の村。この屋敷で起きた惨劇で、わたくしたちは村を捨てることになったのです……
 あなたがたはもうご存じでしょう、聖女と魔女と、二つの道に分かれた姉妹の話を。少しだけ、話をいたしましょう。
 あの日、何が起きたかを」


 ……核心ぽい雰囲気?




next?
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