Rinda-Ring Event1:ゴースト屋敷「彼女に花を、私に筆を」 |
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5F 「画家ゾンビが絵筆を振るう廊下」MAP
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シロウを押し出すようにして階段をのぼった。 なんだか動悸がする。不整脈かも知れない。 「何で不整脈ですか! 冒険に対するドキドキワクワクな感動だと言ってください!」 「えー、うー、そうだけどぉー」 だってそう言ってしまうには、シロウのガチガチ緊張ぶりが面白すぎて。 シロウはゾンビ、スケルトン、ゾンビ、スケルトンと口の中で繰り返しながら階段を一歩一歩のぼっている。心の準備をしていたら怖くないって寸法だろうが、だけど、 「うわーーーーっっっっ」 やっぱり悲鳴を上げた。あらわれたのは「化け猫」。宙に浮いた猫がけらけら笑いながら鬼火を飛ばしてくる。しかしここのモンスター、和洋折衷だなぁ。鬼火っていうのが。まぁいいけど。(変なツッコミを入れるとRP上がりかねない) 化け猫は火の属性だったらしくノアの魔法が通用しなかった。 「ちょっと待って、そういえばなんでノアって氷属性の魔法もってないの!?」 「それはちゃんと買わないといけなくって……火と水と風と土の中で最初に選べるのは一種類だけなの。ギムダで吹雪魔法を修得する時間なかったしさ……お金もなかったし……あっ、シロウ危ない!」 シロウは悲鳴を上げながら剣を繰り出す。化け猫はひらりとかわす。 しかし、だけど、ほんとにもう。 「せちがらいなぁーーー!! でもノア、がんばろうね私たち!!」 「そうよね! なんだか私たち勇者にもなれそうな気がするわ!」 二人で手を取り合った。そうよ、こんなダンジョンは踏み台なわけよ。ここをさっさとクリアーして教会に付け届けの名を借りた賄賂を叩きつけて、目指すは……目指すは、えーと。 「て、今頑張ってるのは俺なんだけどーーー!!!」 シロウが悲鳴を上げた。 化け猫を倒すのにえらく時間がかかって、終わった後はシロウは怒っていた。 なだめながら階段を上り終える。 そして私たちが見たのは。 マップを見る。また、さっきと同じL字の廊下だ。しかし、さっきとはまるで様相が違う。壁一面にぐちゃぐちゃと絵の具をまぶしたような、はっきりいって胸が悪くなる雰囲気。塗り込められたのは怨念とか、恨み骨髄とか、死んで目にもの見せてくれるわ、とかそういうろくでもなさげな情念だ。壁が泣いているように絵の具が溶け落ちて、本当に気持ちが悪い。 シロウの後ろを歩いていく。なんだか「おじいちゃんはやく歩いて下さいね」なんて口走りたくなると思ったらシロウのやつ、目を閉じて「ここは俺んちここは俺んちここは俺んち」と念じている。 「あなたこんなところに住んでるの」 ノアが言うと、ちがーう! とカッと目を開いて振り返った。 「目を閉じて自分の家だと念じることによってこの気持ちの悪さをごまかそうと……ウッ、だめだ目を開けてしまった」 「あ」 私とノアは何と言っていいか分からず、指さした。 首を振って嘆いているシロウの肩をぽんと叩いたのは、振り返るシロウの顔をぐいっとのぞき込んでいたのは、目を見開くシロウの視界一杯にひろがる笑みをのぞかせたのは。 むき出しの筋肉も痛々しいゾンビだった。しかも、ベレー帽つき。 シロウはあっけなく気絶した。それはもう昔の漫画のヒロインみたいにあっけなくね。私は臨戦態勢をとり、ノアは杖を構えて目を閉じようとした。 「いや、違う違う、驚かせたならすまなかった……私は画家ゾンビ。生きている間の名前は忘れた。今はただ怨念を糧に生きているのか死んでいるのか分からない時間を過ごしている。この、呪われた館で」 ゾンビはぶるぶる首を振った。ビジュアル的に大変いけてないので、やめていただきたい。ゾンビはゾンビらしくおとなしく声もなく墓に入っていていただきたい……ゾンビだから墓から出てきたといえばそうなのかもしれないけど。 「私は戦いはしない……芸術家だから。どうしても戦いたいなら戦うが、死体が増えるだけだな」 「大した自信ね」 「私は強い……もし私を倒したら、この屋敷を全て網羅したマップと全ての扉を開く鍵、武闘家ならば銀の爪、魔法使いならば竜の髭のローブ、戦士ならば不滅の剣、そして希少価値のある死生大全の書が手に入るが、戦ってみるかね」 何と親切な敵であろうか。 いや、問題はそこじゃなくて? えーと。シロウは倒れてるし。ノアはレアアイテムの名に目を輝かせている。えーとえーと。 「サラっち」 「うわあ」 頭に止まっていたバッチョが前髪をつたって突然目の前に顔を見せた。これは不整脈どころの驚きじゃ、ない。 だけどバッチョは言ったのだった。 「このゾンビはボルカノリストに載ってるモンスターですからね。イベントじゃなくてちゃんとした戦闘になりますよ。戦って勝ったら記録に名前が残るし、アイテムも貴重なものばかり」 「ボルカノリスト!? はひとまずおいとくとして、だけどさ、そんな奴私たちのレベルで倒せるの? あんた、私がもし戦うって言ったらなんて言う」 バッチョは前髪から手を離して飛びながら私の目の前で空中静止し、お得意の肩をすくめるポーズをした。 「あなたにつける薬はないですなぁ」 「……ありがとよ!」 お礼におにぎりにしてあげました。ノアも、キラキラしていたけれども、カンナの必死の説得によって諦めた様子。モンタはシロウを起こすのを諦めた様子。て、シロウは起きあがった。それからまたゾンビを見て悲鳴を上げたんだから、けっとばしてもお釣りが来る。RPがあがるので、いたしませんでしたが、おほほほ。 戦わない、と言うと画家ゾンビはそうかと言ってずるずると足を引きずり歩いていった。 |
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私たちはなんとなくそのあとをついていくことにした。とりあえずマップをなんとかしないといけない。 そして、見た。四階だとマリア人形の部屋に入る扉がある壁、そこに一面おっきな絵が描かれている。 節くれ立った枝。どんよりと曲がりくねり、まるで苦悶している老人のような有様の巨木。何の救いもない、何の望みもない、絶望だけがこの木と共にある。 おぞましいことにおおきな枝が隠すように描かれてあるが、女の足が描かれている。この足の持ち主はこの木に、ぶらさがったのだ。 どくろの言葉を思い出した。 聖女は絶望して首をくくった。この画家ゾンビが描いたのは、その光景だ。だが、女の足にまとわりつく女の衣服は漆黒。黒い服を着ている。 そしてもうひとつ、女の身体を見上げている子供の姿が描かれている。 ポニーテールにした金髪。この子供は…… 「この、足下に花を。私は描かねばならない」 ゾンビは一人でつぶやいていると言ってもいい。相手が私たちじゃなくても語っている。 「私の愛する彼女に捧げる花を。美姫と呼ばれた彼女に相応しいのは、宝石よりもレースよりも、なによりも、花だった。だが……私は絵筆を失ってしまった……」 私とノアは顔を見合わせた。 「絵筆!?」 「筆だって!」 「なんだよ、君たちまたなにか知ってるのか」 シロウはもう怖さがピークを超えてしまったらしい。ちゃんと目を開いて両の足で立っている。がくがくしてるけど。モンタを抱いてるけど。腕の中のモンタのたたずまいが、なんだかキノコのように生えたこけしのようだ。……いや、文句はないんだけど。 「私たちあんたと会うまでに、絵画になった男と戦ったのよ。無事倒せたんだけど……手に入れたのが、これ」 絵心のペン! なんじゃあこりゃあなブツだったけど、この次町に行ったら確実に売り飛ばすつもりだったけど、なんだイベントアイテムだったのか〜。 笑ったところで、カンナが呟いた。 「あ、でもイベントクリアーを途中で諦めて、手に入れたアイテムを売って生活している冒険者もいますよ。けっこういい収入になるみたいです。イベントアイテムは錬金術師さんたちのアイテム生成のいい素材になるらしいです」 「あのね、画家ゾンビさんが欲しがっているのは絵筆であってペンじゃないと思うのね」 即座に説得力に満ちた持論を展開させようとしたんだけど、 「違うでしょ、サラ! それは絶対渡すアイテムだってば!」 「今回諦めるつもりじゃないだろ!?」 二人から同時にツッコミが来た……。 |
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絵心のペンを画家ゾンビに渡したのはノアだった。私から、私から、奪っていった〜。有無をいわさず〜〜。 「当たり前だろ!」 シロウはぷんぷんしている。 ノアからペンを受け取った画家ゾンビは 「ああ、これだ……これがなければ絵を完成させることはできなかった」 画家ゾンビは嬉しそうにペンを受け取った。そして絵に向かい合う。 「お前たちは聖女と魔女を前にして何を思うだろう?」 語りだした。何を思うかって、なんかむかつくとかさっさとネタバレしやがれとか、一体これからどうなるのんとか。 「サラ黙って」 厳しく使命が下った。 「世間が見るのは彼女たちの仮面。本当の顔を隠すそれを見て人々は聖女だ、魔女だと。今はもう失われた彼女たちの名前。それは、花たちが知っているのだ」 画家ゾンビはぺたぺたと絵を撫でる。 「ここに花を描けば夢見る扉が開く……絵を、描いてあげよう。 ……………」 一本だけ花は描かれている。黒い花。これは、魔女が愛した漆黒の薔薇? 画家は悲しげにため息をついた。 「絵の具がない……」 |