Rinda-Ring

Event1:ゴースト屋敷「そして、手に入れたもの」


5F 「画家ゾンビが絵筆を振るう廊下」MAP

階−
−段−



現在いる場所 大きな絵
廊下・通れるところ 扉・開いている







 その扉を開いたとき、夢を見た。
 夢というか、マリアに見せてもらったような幻想。

 雨が降っていた。窓から中を覗くような感じで私は誰かと視点を一体化しているみたいだ。誰かの見たものを、見ている。そんな感じで。部屋を見ている。
 金髪の女と黒髪の女が向かい合う。疲労困憊した様子で地面に両手をつき、金髪の女が呆然とした様子の黒髪の女を見上げている。疲れ果てた様子の金髪の女はしかし、勝利の表情を浮かべている。
「どうして……こんな………」
 黒髪の女が言う。
「どうして……あなたは、私を裏切るの。ようやく分かり合えたのだと……あの男、ギュンター! あの男の呪いを超えてようやく分かり合えたのだと思ったのに、あなたは、あなたは!
 強烈な叫び。小さな呟きのようでも含まれた思いがその声を聞くものの肌をあわだたせる。
「裏切り? そうかもしれない」
 金髪の女が言う。
「あの男が必要としたのは純潔のエアリエル。この身体が悪神に捧げられたとき、はじまりの封印は解かれる。……ならば私はそれをゆるすわけにはいかないのだもの」
 金髪の女は悲しげな眼差しで黒髪の女を見る。
「あなたはきっといつか、彼に封印を渡しただろうから。だから」
「……違う、あなたは私をねたんでいた! 私がギュンター様に選ばれたことを恨んでいたのよ!」
「違うわ」
 金髪の女は立ち上がる。匂やかに、嫣然と微笑みながら。
「あなたが愚かだから、仕方がなかったのよ。さぁ、行きなさい。あの男の所に行き、顛末を語りなさい。捧げるべき聖女はここにいる、と。聖女の心臓は、決して渡しはしないけれど」
「お前! お前は! お前など……、聖女では、ない! その資格をもつのは私」
「違うわ。私よ」
 金髪の女は黒髪の女を、その悲しげな微笑で威圧する。黒髪の女はぶるぶる震え、右手を相手に向けて叫んだ。
「聖なる光よ、悪を断て……!?」
「無駄よ」
 金髪のエアリエルは首を傾げる。
「使えたとしても、効くはずがない。私はエアリエル。最高位の巫女なのだから。そしてあなたは、最強魔法を修得した、魔女」
「く……!」
 魔女が身を退く。そして憎々しげに呪いの言葉を吐き散らそうとした、その顔に赤黒い筋が走り、美しい顔に亀裂が走った。……亀裂と見えたのは、痛ましい火傷の跡。魔女は苦悶に身をよじり、苦痛に耐えかねて膝をつく。
「あ、あああ……痛い、痛い、痛い!」
「その苦痛が私をも苦しませることを、どうか、分かって」
 その言葉に、魔女は激烈に反応した。
「………」
 呟きが聞き取れず、聖女は首を傾げる。そして、
「分かる、ものかーっ!」
 絶叫。窓から覗いていた少女はかたりと震え、逃げ出した。

 もちろんのぞいていた少女はドーラ。メアリー、と言うべきか。そして、メアリーは逃げだした。屋敷を出て、暗い森の中を。
 逃げる少女を捕まえるのは黒いカラス。カラスは少女の肩に止まり、意地悪く髪を引っ張った。メアリーは振り払おうとしてバランスを失い、転ぶ。そしてカラスから人間の姿になった女、魔女は冷たく少女を見下ろした。
「見たね」
 メアリーは声も出せない。
「お前たちは、村人は、いつもそうだ。いつも私の厄介事にしかならない。助けてくれとわめきちらすことしかできず……いつもエアリエルは苦しんでいたよ」
 メアリーは座り込んだままじりじりと後ろに下がる。だが、逃げられない。

「ギュンター様! どうか、私の願いを聞いて下さい。もう、なにもいらない。私は信じていたものに裏切られた。もう、なにもいりはしない……どうか。
 どうか、私の思い出の全てを、焼き尽くして!」

 その声は悲鳴に聞こえた。雨はいつの間にか、やんでいた。



■ ■ ■ ■



 はっと気がついたときには古ぼけた部屋に立っていた。
 扉をこえて、部屋の中に立っていたらしい。窓のない小部屋だった。
「ねぇ、今の、見た?」
 ノアもシロウもうなづいた。
「なんつーかこう……えぇと……見たのはいいけどどうすりゃいいのかな、みたいな……」
 シロウの言葉は私の感想だった。
「そう? 私は色々、分かってきたけど。妖精の言ったドーラは嘘をついている、というのも含めてね」
「嘘ついてるって言ってたけど、でもさ。あんな頭軽そうな妖精信じていいのかなぁ。私はどっちかってぇとドーラの方が信じられるような気がするけど」
「魔女は聖女に破れた、そして聖女は死んでしまったという言葉が嘘だとしたら、どうなるんだよ。反対になるじゃないか。聖女は魔女に敗れ、そして聖女は生き延びた? 無茶苦茶だよ!」
 私は頷いた。
「そうだよねぇ……」
 するとノアが言った。
「あ、宝箱」
 その際の私の振り返りは、わりと早かったと自負している。
 ノアの言葉は嘘じゃなく、部屋にはひっそりと宝箱がおかれていた。もちろん飛びついていったわけですが。

「わぁ、わぁ、宝箱だ! 開けていい?」
「うん、いいわよ!」
と即座に答えたノアの反応からしてトラップが仕掛けられている可能性を思い出した。そして、
「俺も開けたいなぁ」
と呟くシロウに微笑んでうなづく私であった。
 まぁ、しかしさまざまな段階を踏んでようやくのことで開ける宝箱である。そんな、まさかねぇ。トラップなんかで終わったら、まずはナビゲータを血祭りにあげることから反撃ののろしを上げることでしょう。
「……なんだか今、寒気がしたですよ?」
 カンナが言った。

「いいかい? ……それっ!」

 シロウは息を止めながら箱を開けた。その中に入っていたのは、古ぼけた部屋に相応しい古ぼけた女神像。
 光を失った女神像だった。



■ ■ ■ ■



 それは種の仕掛けもなんにもない女神像だった。銀でできてるんだろうか。にぶい光を持っている。けど、磨き忘れてる感なきにしもあらず。女神の周りに何かを差し込むような穴が五つ空いていて、それは何をさすかというと……
「これ、だよね」
 ノアが白い花を取り出して女神にあしらった。
 私たち女神像が爆弾か何かみたいに離れて、固唾をのんで見守ったけれど、何かが起こる様子もない。いきなり像が変身したりとか語りかけてきたりとか、ヒントになるような、なにもない。
「なんだってのー! あ、中に何か入ってるんじゃない? 壊してみようか」
「やめて、やめてくださぃぃ」
「あ、カンナ。んじゃなにをどうすればいいか教えてよ」
 するとカンナはプイとそっぽを向いた。
「それはナビの仕事じゃないです!」
「車のナビはちゃんと目的地教えてくれるじゃない! 近道とか! ヒントとか!」
 そりゃ違うとシロウがつっこんできた。カンナも心動かす様子なく、
「ゲームのナビは違うです!」
とはねつけた。
 ……ま、仕方ないか。
 花を指した女神像を手に入れた。そして私たちは、次の目的地について話し合う。
「えーと……最後の一本はやっぱり、最初に見た黒い薔薇の絵にある、んだよな」
「となると二階に戻る道を見つけないと……」
「えー、でもどこにあるっての!」
 ノアが言った。

「マリア人形の部屋に戻りましょ」




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