Rinda-Ring Event1:ゴースト屋敷「三人よれば、意見分かれる」 |
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4F 「喋る男の油絵のフロア」MAP
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「この時が来るのを、長い、長い間待っていました。名を求める子供の封印が解かれ、夢見る鍵は花の絵の扉を開いた」 マリア人形は微笑んだ。 「ありがとう……この屋敷が眠りにつく日が、近づいている。そんな気がします。 あなたがたはこの場所でさまざまな真実をみたはずです。見るものが変われば世界は姿を変える……世界は合わないかけらを合わせたパズルのように、砕け落ちる日を待っている。 エアリエル様はあの男に封印を渡すことを恐れ、聖具のひとつホーリーワンドを使われた」 マリアはまた、私たちにイメージを伝えた。 見える。戦いが、人々の戦う姿の中のひときわ輝く存在が。傷だらけになりながら呪文を唱えている聖女の姿。 そして、魔女。 |
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「私は! 私は全てを憎む! 奪い、殺し、破壊する! 見よ……最後の炎を。ギュンター様、私に、力をォォッ!」 炎熱の中咆哮する魔女の姿。その後ろに黒い竜の姿がだぶってみえた。神のようにこの無惨な光景を見下ろし、三日月のように細い目で眺めて楽しんでいる。 聖女は絶望に顔を歪ませる。 「神よ、あなたに祈ります、ただ一度だけ、私の祈りを、どうか。呪わしい私の魂をあなたに捧げます、どうか、どうか!」 魔女は聖女を嘲るように高笑する。そして、最高レベルの魔法を唱えた。両手を踊るようにゆらりと上にあげ、両腕で輪を作る。そして。 |
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「……冥火……」 |
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一言。その一言で足りた。両手を天に掲げた身体の足下、地面が波うつように見えた。その衣服をはためかせて、火柱が立つ。その身体を芯にして立ち上がった炎はやがて巨大な鳥の形に変じる。 空を覆うほどの鳥がひとつの呪文なのだ。MPとHPを極限まで削り取る最高魔法。フェニックスは高い鳴き声を上げて地面を這うように飛ぶ。世界は真っ赤に染まる。巻き込まれた人々がばたばたと倒れる。それどころか、通りすぎたあとに残るものがない。全て灰と化す。 魔女は勝利に笑む。とても醜い笑み。 聖女は苦痛に睨む。とても綺麗な怒り。 「世界の円環は閉じていく。私が唱えるは神の名に非ず……リンダ。 はじまりにして終わりの巫女よ。どうか……奇跡を!」 聖女が手にしていたのはホーリーワンド。先端に女神像のついた杖……あの女神像は、私たちが手に入れた女神像だ。だけど、光を宿している。 それは、巫女の祈りを聞き届けた。いや、聞き届けたのだろうか。 「……なるものか」 北極の海を渡る息さえ凍らせる声。冷たく凍り、聞くものの背筋をすくませる。そんな声。意識を失う魔女の背後からあらわれたのは、黒馬。闇に紛れてその姿は一瞬見えない。だけど次の瞬間明らかになる、黒装束の騎士。男はそのまま一直線に巫女の元に走る。宙を飛ぶように、とはまさにこのこと。 ひるがえる剣が、巫女を狙う。 「お前などいらぬ。エアリエルの身体など、いらぬ。真に必要だったのは聖女の魂よ。だがそれは腐って堕ちた。もはや我はそなたらを必要とせぬ」 聖女は目を見開く。 「身体では……聖女の心臓では……ないと」 「そう」 暗黒公。ギュンターは薄く笑いながら頷いた。 「心臓は魂の比喩にすぎぬ。封印が血肉を貪ると思うたか? 我はいつでも手に入れることができた。だが、もはや役には立たぬ。愚かだな、人というものは。恋情ゆえに腐れ堕ちるとすれば、そなたらはなんのために他人を求めるのだ」 「ああっ!」 暗黒公の剣が聖女を斬る。そして、ホーリーワンドに亀裂が走った。杖は砕け散り、先端の女神像は地に落ちる。人々の血を吸った大地に接して女神像から光が失われて、そして聖女の祈りは狂った形で聞き届けられることになる。 聖女が祈っていたのは……昔に戻りたい、ということ。ギュンターがあらわれることのなかった昔に。 そして姉妹の住んでいた館は時を止める。迷う人々の魂を吸い込んで。 ギュンターはそれをみるとチ、と舌打ちし、闇の中へ去っていった。 |
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「私は、分からないのです。聖女様の苦しみを……どうして彼女はずっと苦しまれていたのだろう。何かがあったような気がして、ならないのです。ですが私には、分かりません。あなたたちならば……その魂を救うことができるのでしょうか」 マリアは言葉を続ける。 「さぁ。それをもって、この屋敷の外に出なさい。地下にある逆さになったゾンビを地に落とせば解放への道が開く。そして、太陽の下へ出ていくのです。そうすればこの屋敷は呪いから放たれるでしょう。ですが、この屋敷の、あの方の意志はそれを阻むに違いありません。ホーリーワンドを使われたあの方の哀しみ。それがあなたたちに襲いかかるでしょう。 正しく彼女の名前を呼んだなら、きっとあなたたちは救われる。だけど、違う名前を呼んだならば……彼女の哀しみがあなた達を、殺す。 聖女様の祝福が、あなた達にありますように」 そしてマリアは、ドーラが消えたように光の粒になって消えた。 私たちはしばらくシーンとしていた。顔を見合わせ、そして三人一緒に口を開いた。 「逆さゾンビが鍵になってるなんて、詐欺だわ!」 「暗黒公ギュンターってかっこいいなぁ……」 「あの炎の魔法、手に入れたい!」 一応、念のために言っておくと、私、シロウ、ノアの順の発言である。 ノアはイイとしよう。……シロウ。あんた。 「なにうっとりしてるわけ」 「な!? そんな、うっとりなんかしてないだろ! だけど、騎士っていいよなぁ……」 「あんた、騎士になるとか言わないでよね。却下よ! あんただけ馬に乗るなんて、ずるいじゃない!」 「なんだよ、いいじゃないか! いやでも、俺見てるだけで十分だよ……いいよ、あるくよ。いいよな、騎士って……」 ぽわわ〜んとしている。いかん。処置ナシだ。こいつは今臨界点突破している。止めるにはゾンビとかゴーストとか吸血鬼とかそういった方面の攻撃が必要だ。 「シロウって、仕方ないわねほんと」 言いながらノアも最高魔法への夢に思いを馳せている。 「なんだか将来の姿が忍ばれますなぁ。 百烈なんとかを会得しちゃったサラさん。 最高レベルの炎魔法を会得しちゃったノアさん。 騎士になっちゃったシロウさん。 ……回復役がおらんのか、と四方八方からツッコミが飛んできそうなパーティですなぁ」 誰がこんな私たちにしたわけよ。……自分たちで勝手に育ったんだけどさ。育ったというか最初から生まれついたというか。ああ。うう。 でも私たち、そんなうっとりしている場合ではなかった。 地下への道。ゾンビがなぜかうろうろしている地下フロアでうっかりゾンビにぶつかって戦い、シロウに使った薬草が、最後の一個だったのである。 |