Rinda-Ring Event1:ゴースト屋敷「こんにちは、エチゴヤです」 |
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B1〜3F 「地下ワインセラーのフロア」MAP
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ぽーけっとーをたったっくっとビスケットーがふたつ、とか言う歌があったなぁ。叩いて増えるならそりゃいくらでも叩くけど、そりゃ単にビスケット割れてるだけじゃあ、なんてつっこみいれてたことが懐かしく思い出されます。 食べちゃった薬草は、増えないしな。 HPを調べると、私たち今のところ全員満タンに近い。けど、これからたぶんラスボスがいるんじゃないかなぁ、とか思ったりするわけで。私たちの中に回復魔法所有者なんて探したって見つからないわけで。あ、回復系は魔法じゃなくて法力って言うんだっけかぁ。切なくなるほどこの先も私たちには関係なさげなんだけどね。 「シロウ、あんたなんでもっとたくさん薬草買っとかないわけぇ?」 「そうよ。私たちにはそれがなにより大事だって分かってたはずよ」 「な、なんで俺を責めるんだよ! 二人とも俺が薬草買いすぎだって責めてたくせに! 責めすぎじゃないか!?」 「まぁまぁサラっち、仲間割れは醜いですよ」 たとえどんなに正しくとも、ハチに諭されれば腹が立つ。これも一種のアナフィラキシーショックと言えようか。言えまいて。だけど敢えて言う。 「あ・ん・た、むかつくのよー!」 「ギャーッ」 しかししぼられればしぼられるほど嬉しそうなのは、気のせいだろうか。こいつの喜ぶことはしたくないのだが……痛めつけて喜ぶなら誉めれば嫌がるのか? こいつを誉めるなんて喜ばせるくらいしたくないんだが。ああ、もう。 ゾンビを倒してもアイテム手に入らず。レベルも上がらず。私たちは疲れながら逆さゾンビを引っ張った。私たち、というか私。引っ張った上に踏んづけてみた。すると、ガタンと音がして天井に穴が空き、するするとはしごがのびてきた。 そういうからくりになっていたらしい。 私たちははしごをのぼった。 逆さゾンビの階は地下一階。それから二階までのぼっていったことになる。ここのはしごはどこのも、長すぎっての! |
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ずぼっと顔を出した。するとそこは、宝箱のある小部屋だった。もちろんモンスターはいない。 なんとなく一気に元気がでた。宝箱はみっつもある。そして、天井にくくりつけられている呼び鈴があった。そして地面に円陣がかかれている。 「なにこれ。何かの謎?」 「はいはいはい、ナビの出番でーす!」 バッチョが突然元気になり、8の字に飛んだ。そして呼び鈴を手でつかんだ。 「これはリングワールドのダンジョンに必ずつくられている、『最後の呼び鈴』です。『お助けベル』とも呼ばれます」 そんなの聞いたらどっちで呼ぶか、決まりきってるじゃないか。 「ダンジョンは長いですね、険しいですね、冒険者たちは乏しい物資と能力の限りを尽くしてラストボスの所まで辿り着くわけです。ですが、ああなんということでしょう! もう、薬草がない! 武器が壊れてる! 仲間が死んでしまっている! しかし、大丈夫。このベルを鳴らすことによってあなた方は必要な人を呼ぶことができます。えーとあなた達はやさしめモードだから……呼べる人は二人! 司祭、生き返らせてくれます。暗黒司祭、生き返らせてくれます。商人、道具を売ってくれます。武器屋、武器を売るか修理してくれます。防具屋、防具を売るか修理してくれます」 「そんないいものがあったなんて!」 とうめくとバッチョはチチチと人差し指らしきものを左右に振った。なんでハチに指があるんだよ。 「いいことばかりではありません。こんなところまで来てくれる人たちですから、ちょっと普通の料金ではないのです。具体的に言うと二十パーセント増し料金ですな」 「サラ、私たちお金いくら持ってるの?」 「結構貯まってるけど。わ、820ゴールド! すごいすごい!」 一緒に感激したノアが「まだ8000には遠いよね」とか呟いたのが気になるところです。いや、それはさておき喜びはぬか喜びだった。 「お前ら、教会への寄付金を忘れるなよ」 モンタの声に北風さんが吹いて、私の心のコートは飛んでいった。 「ああ、ぼったくり……一人200ゴールド納めるんだったよね。私とノアで、400も……そしたら残りは420ゴールドしかないよ……私も暗黒神信仰にすれば良かった……」 最初はみんなそういうんですぅ、とカンナが耳をぷるぷるさせた。 「あ、宝箱開けてみようよ!」 一人ひとつ開けた。すると入っていたものは、 誓いの剣。 武闘家の胸当て。 体力増強剤。 私たち一人一人への、まるでプレゼントである。もちろん体力増強剤はノアに。シロウはじゃあ装備変えようか、といった。 |
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そしてシロウがお助けベルを鳴らした。 リンリンリンと澄んだ音が鳴る。すると、床に描かれていた円陣がぴかっと光り、まばたきすると、そこに二人の男が立っていた。 一人は出っ腹を得意げに前につきだしている口ひげの男。商人だろう。だって、そろばん抱えてるし。魚屋エプロンには自分ブランドなんだろうか、ちゃんとした屋号マークと、飾り文字でエチゴヤと描かれている。 もう一人は眉間にしわを寄せた、苦悩しているかのような様子が人の気を引く男だった。司祭だろう。だって革表紙の聖典抱えてるし。 「まいどどうも! 呼ばれて飛び出てひっくり返る! だけど値下げは許しまへんで〜! いつもにこにこ現金払いのエチゴヤですがな!」 「……迷える子羊はどこにいる。どちらかといえば私の苦悩を聞いて欲しいくらいだが語るつもりはない。司祭のサイラスだ」 なんだか私たち、沈黙してしまった。こんな。なんというか。濃い? よね、たぶん。あらわれたら自己紹介するのがルールなわけね? だったら私は、ちょっと、円陣から現れたくない……かな。みたいな。 「死人はどこだ。特に棺桶は見あたらないみたいだが」 サイラスさんは腕組みしながら部屋を見回した。私たちを見ると、疲れたようにため息をついた。 「なんだ、お前たち。新入りパーティか、見たことがないな」 「新規開拓は商売繁盛へのゴールデンロードでっせ! なぁなぁあんたら、うちの商品みてってやぁ!」 エチゴヤは風呂敷から道具を広げる。私たちはなんだか黙って従っているのだった。 「あ、俺はシロウ。この子がサラ、こっちがノアです。えーとはじまりの町でパーティ組んで最初にこのダンジョンに来たんですが」 「最初にか。なんて乱暴な冒険計画だ。先が思いやられるな」 シロウはなんだか世間話に興じだしている。あんた、暗黒信仰のくせに善神の司祭と仲良くしてどうするよ。いいけどさ。特に死人はないのでサイラスさんは仕事がない。なんで牧師を呼んじゃったかというと、召還の円陣の周りにおいてある石をちゃんと呼びたい人の所におかないといけないんだけど、置き間違えたんである。 私のしたことだから、責めちゃいけない。一回しか呼び鈴、使えないみたいなんだけどさ。うっ……。 「ちょっと、ちょっと、薬草が一個25ゴールドですって! 高すぎよ! まけなさいよ。圧倒的にまけてくれたら私たちあなたのところからしか買わないわ」 ノアが元気に言い放った。値切ろうとして嘘ばかりだが、にこにこして隣に座る。エチゴヤはまるまるほっぺをくぼませる。 「へ。そんな、あんさん、さっきわて言うたやろ。値切りはききまへんで〜って」 「聞いてない」 「聞いてない」 「そんな、じゃあ今言うたやろ。薬草は二割増の値段やで! 出張費も入れな儲けでまへんのや」 「聞こえない」 「聞こえない」 「せ、殺生や。あんたさんら美人さんそろってんねんから、そんな我が儘言うたらアカン! 顔が曲がりますよってに」 「曲がっててもいい。こてこてのお世辞聞かせないで頂戴。魔法ぶっぱなしたくなるから」 「やめて、ノア!」 「うん、やめる」 「ね、私あなたの命の恩人だよ? まけなさいよ」 「んなアホな! あんたらなに言うてますんや!」 「分かりやすく言うと、なにがなんでもまけろ、と」 エチゴヤはこんな客冗談じゃないぃ、といいながら20ゴールドまでまけてくれた。あと彼が持ってたのは聖水。元気の粒。これは一定時間攻撃の強さがアップする、というもの。薬草を6つと元気の粒のセットで150ゴールドまでまけていただいた。 「あんたら、商売の邪魔もんやぁ!」 「苦労しているようだな、エチゴヤ」 サイラスははじめて快活に笑った。なんとなくこの二人いやいや一緒にいるんだろうか。と、思った。特にサイラスさんの方が。 「帰りまっせ! 今日はあと二つ三つ出張せな。取り返せまへんわ」 「待ってよ」 ノアがエチゴヤの肩をつかんで止める。そういうときの素早さと力強さは、歴戦の戦士並に頼もしい子だった。 「これから商売の後半が始まるのよ。さ、このシロウの使い古しの剣と、あやしげな『不思議な薬』、いくらで買ってくれる? けっこう値打ちものなんじゃないかなって思ってるんだけど」 エチゴヤの苦労にサイラスさんは顔を背けて笑い(彼にとってはその吹き出す程度なのが爆笑に値したのかもしれない)、私たちに祝福のサービスをくれた。 はじまりの町で、巫女のお姉さんがしてくれたミラクルの法力だ。 すると、私の運がひとつ上がり、カルマがひとつ下がった。 「な、なんでそんな行いでラッキーなんやぁぁぁ!」 エチゴヤはうめき、悔しがるまま帰っていった。 |