イベント2 淑女は眠る、イバラの中 |
2−2 あれもこれもない! |
猫語の教科書と引き替えに、恋のしおりをゲットしなければならない。 「自分で手に入れろってぇの! なに人こきつかってんだろ」 とノアがぶつぶつと怒っているけど、やっぱりゲームっておつかいからはじまるもののような気がする。 朝起きるとおかーさまに 「起きなさい、勇者。今日は王様に会いに行く日よ」 とか言われちゃって。一張羅を着て謁見に参上した暁には、 「ぼくは、魔王を倒す旅に出ます! 世界を救うために」 なーんちゃって。なーんちゃって。 んで可愛い僧侶の女の子と親友の戦士と供に旅に出る訳よね。最初はもちろん、隣の町に行って、そして町を襲うモンスターを倒してくれとか頼まれるの。んでがんばって対決してみるとスライム五匹セットだったりね。勇者が私ならもちろんみなごろしね。経験値ね。許してくださいってコマンドがあろうと、無視ね。無理ね。見ないフリね。つーか目に入っても関係ないわね。 「おつかいは基本でしょ! じゃ、スライムを滅殺する旅に出ようよ!」 「……サラ、妄想が耳からこぼれでてる」 というわけで酒場に突撃してみました。 町の酒場はみっつ。最初の酒場では戦士が二人ケンカしていた。 「お前なんか冒険者の風上にも置けねぇ!」 「風下で結構!」 「そういう問題かぁぁ!!」 巻き込まれたくなかったので早々と退散した。 次に尋ねた酒場で、巨大な胸をしたお姉さまがビール両手に(飲んでたわけではなく、運んでいた)トムだったらあれよ、と教えてくれた。 「会いたかったわトム!」 突然叫ばれてトムは持っていたコップをひっくり返すところだった。 トムは、ヴァイキングのひげもじゃのおじさんを想像していただけたら、その通りの人物だと思う。ちょっとけだるげにウィスキーをかたむける午後。午後? うーん、けだるげというか不健全と言った方がいいかもしれない。 トムは私たちを見て驚いたように目をきょろきょろさせた。 「だ、だれだあんたたちは」 「いいから。あなたがもってる恋のしおりが欲しいの。今世界で一番それを必要としているのはなにを隠そう、私たちなのね! で、耳をそろえてしおりを出していただけるかしら。できれば二、三枚くれると嬉しいわ」 「なぁ、サラ」 シロウがまじまじと私を見つめて言った。 「もうちょっと普通にお願いしよう、ていう気になれないのか?」 「普通に頼んでどうするの!」 囁き返した。 「ここは一発どかんと騒いで相手の正常な判断を失わしめたところでこちらの要望をするりと通そうっていう、冷静無比な計画じゃないの」 「…………」 モンタがでてきた。 「それ、冷静、言わない……」 片言になってまでつっこまないで頂きたい。 トムは私たちを眺め、恋のしおりってのはこれかい、とふところから取り出した。 わあ、そんなところに入れたらしおりがしめっちゃうじゃないのさ。 「お前たち……このしおりを狙ってやって来たんだな。この悪漢どもめ」 「悪漢? 言うにことかいて悪漢とはなによ。漢ていうのは男ってことよ。あなた私が男に見えるの?! 焼くわよ!」 ノアが脅迫すると、トムは首を縮めた。 「わああ、違うんで。言葉のアヤです。 えっと、恋のしおりはただで渡すことはできません。真珠の首飾りをいただきたいんですよ! 真珠の首飾りは、海に帰るためにどうしても必要なアイテムなんです」 「えー……」 私はノアとシロウを見た。 「ねぇ、私も海に帰ってみたい」 「帰るもなにも、行ったことないだろ……! どうせ今後海に出ることもあるだろうけど、そのときはそのときだ。ノア、真珠だからって私物化するなよ! サラ、トムさんを困らせない!」 私の頭の上のハチが、「よっ、シロウさんリーダーの風格」と褒め称えると、シロウはがくりと肩を落とした。なんでそこで肩を落とすんだろうか。解せない。 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
* * * * * * * |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
真珠の首飾りは、ノアがある場所を知っていた。 マハドールギルドのアイテム屋さんの中に、ちょっとだけ宝石を扱っている店があったのだ。いつ、どのタイミングでこの店のことを知ったのか、よく分からない。 客は私たちだけだった。カウンターの向こうでぼっさりしたお兄さんが、 「真珠の首飾りかぁ……」 とお品書きを指さした。 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
「この世界宝石コレクションを一部いただける?」 ノアはあっという間に本を買ってしまった。 「転ばせ系モンスターってなんなんだろ! いやだなぁー」 私はそのとき宿命の敵ともいえるウキウキ☆モンキーとの出会いを予感していた……なんて言ったら、まったくのウソになる。 「魔女の毛っていうのはどうなのよねー。怖いわね! うにょうにょ髪の毛が伸びていくの」 「どっちが悪者かって話になるわね。この体力の壺って、ノアが装備したらいいんじゃないの。魔法使いはHP少ないし。お兄さん、体力の壺ってどんなの?」 するとお兄さんはカウンターの上にびっくりするほど趣味の悪い壺をのせた。しかも、おっきい。ひとかかえくらいあるのではなかろうか。 「…………これ、装備するの」 「できれば頭に乗っけて。背中に縛り付けてくれても良いよ」 「却下」 ノアは満面の笑みで拒否った。そして魔法の指輪も一個買った。 「あの……そろそろ真珠の首飾りについて質問して良いかな……」 「あ、気を使わなくても良いのに。どうぞどうぞ」 シロウの肩ではモンタがまたぴっとりくっついている。こいつらどうしたんだろうか。なんなんだろうか。解せない。 首飾りについて訊かれて、お兄さんは答えてくれた。 「真珠の首飾りは、この町ではたぶんうちでしか手に入らないよ。でも今真珠の首飾りを買い上げて行った人たちがいてさ……顔の下半分ヴェールで隠した、アラビアンな雰囲気な人だったよ。泣きぼくろがある……」 「すごく思い当たる人物がいるわね、うふふふふ」 ノアが微笑んだ。こうなると素直に怒って欲しいとみんな思うだろう。私は思う。 「あれがそんなに必要?」 「ああ、はい。すごくすごく必要です。今世界で一番あれを必要としているのは私たちだと自負しています。もうすっかりあれがないと一歩も歩けない状態です」 すぱっと言い放つと、お兄さんはややたじろいだようだったけど、そうだったらまたつくってあげるよ、と言ってくれた。 「本当ですか!?」 「でも、材料がないんだよ……どこかで真珠と糸を手に入れてきてくれるかな? 何処にあるか分からない? えーと……たぶん真珠は海でとれるものだと思うけど。この町には海がないからね。どこかで手に入るんじゃないかな。糸? 糸は……高貴な女性が持っているはずだよ」 |