イベント2 淑女は眠る、イバラの中


2−6 使い尽くしましょう財布の底まで



 突撃してった宿屋は、両開きの扉の真ん前がカウンターだった。福々しいおじさんがもみ手でいらっしゃいませ、と招いてくれる。
「カジノ、ひとり!」
 思い切り飛び込んでった勢いでそう言うと、商人のおじさんは動じることなくついと右手を階段の方にさしのべた。
 宿屋の一階には休憩所みたいなテーブルが並んでいた。パイプをふかしている冒険者が何人かいる。そして上に上る階段が北側に。そして西側に、金貨をもったウサギの看板が天井から下がってて、その下に下り階段があった。

「いらっしゃいませ。カジノのみのご利用でも大歓迎でございます。どうぞ、ごゆっくり楽しんでらしてください……うへへへへ」

 この際おじさんの品のなさなど気にしている余裕などこれっぽっちもない。私は軽い足取りで階段を下りていった。後ろでなにか言ってるのが耳にはいるけど、気にしない気にしない!
 実のところわたくしカジノがダイスキなのである。
 特に、スロットなど心が躍る。
 でもポーカーは嫌いです。できないからね、ポーカーフェイス。

 ぎしっとなる床を踏んで、来てみました『カジノ ホワイトラビット』! 白いウサギの耳と尻尾をつけたバニーガールのお姉さんがさっそく私を迎え入れてくれた。
「いらっしゃあい。女の子ひとりってめずらしいわね、ようこそぉ! 楽しんでいってね! 説明はいるかしら、いらないかしら〜?」
 一人って。
 後ろを見ると、誰も続いてきてなかった。上で、宿屋に泊まる算段でもしてるのかしら。ま、いいや。
「説明、してください!」
 バニーガールは私ビビっていうの、と名乗った。
 金髪の髪がくるくるとカールしている。バニーガールといったらうかぶそのままの姿。完璧に着こなしている。たれ目で、口元にほくろがあって、それが色気たっぷりだ。声も可愛い。

「うちはリングワールドに21店舗を誇る世界一の店なのです。その名もホワイトラビット。白いウサギがアナタにラッキーを届けるって意味なの! 類似点にご注意くださいね。ちなみにねー、カジノの経営権を得るのってすごーく大変らしいの」
「え、どんなのなんですか」
「お金だけでもー、50万はいるんですって! あとは王様と会ってー、伝説のアイテムを手に入れて、世界一の商人になるためにうちの店主頑張ってるんだけど、そのための条件が『勇者を助ける!』なんですって。でもまだ勇者って現れてないでしょ〜、だから大変みたい、商人の世界も」
「ビビさんは商人じゃないよね。バニーガールって」
「遊び人よ〜。ウフフフ。元は巫女だったの」
「ごっつい変転ですなァ」
 ハチが口を挟んだのでビビさんはびっくりし、私は慌てて頭を下げた。ハチはずるっと下に落ちた。
「いいのよ〜。ウフフ、秘密の情報教えてあげるぅ。巫女が踊り子のスキルを手に入れると、すごいことが……!」
 囁かれたとたん、ピピーッ! と笛を吹く音がした。ビビさんの肩に現れたのは、黄色いインコ。インコのナビだ。可愛い。ちなみに笛じゃなくて、鳴き声だった。
「もうビビさんは、遊び人になってから口が軽くて困るよ! この子どう見てもまだレベル10いってないだろ!? その情報はまだ教えちゃダメだって、前言ったよね。リンダポイント上げるからね!!」
 あわわわ。聞き覚えのある効果音とともに、ビビさんのリンダポイントが上がった。
「あはははは、また上がっちゃった〜。気にしないでサラちゃん。
 えっと案内を続けるわね。こちらはホワイトラビットの21号店になるわけだけど、まだできたばっかりだからあんまり施設が充実していないの。本店とかに行ったら伝説のスロットとかあるんだけどね〜」
「なんですかそれ」
「リンダポイントを、賭けるの!」
 詳しく訊こうとしたところ、ビビさんがインコににらまれたので遠慮せずにはいられなかった。本店がどこにあるか訊きたかったんだけど……、まぁ訊いても分からないかもしれないしね。
「真ん中のテーブルにお兄さんがいるから、ポーカーをしたいときは彼に挑戦してね! いろんなゲームもあるわよ。魔法使いだったら的にファイアー当てたりとか。あなた武闘家さんだから、鬼ごっことか」
「ううん。スロットしかしないつもりです!」
 鬼ごっこ、て……。
「スロットはあちらよ。えーと、基本的にふつーのスロットなんだけどね、リンダリングのカジノって、リンダポイントが微妙に関係しているらしいわ。偶数だったらいいとか、7の倍数だったら負け知らずとか噂もあるのよ。いろいろ試してみてね!」
「へぇー」
「というわけで。小さくてごめんなさいね、ゲームはこのくらいなの。じゃあ向こうのバニーカウンターで商品をチェックしてくれるかしら。バニーコインも購入してね!」



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カジノ商品リストはこちら
50枚 薬草 旅人のかぶと 旅人の盾 旅人の服 石ころ リストバンド
60枚 おくすり 夢見草 ジルコニア 魔物よせグッズ
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500枚 亀のかぶと 亀の盾 真珠 ドラゴンソード 
600枚 漆黒の杖 天より来たりしもの よくきく薬草 ルビーの粉 武闘家装備セット
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「ああああああっっ!!」
 カジノの中にいた冒険者は10人足らずだったけど、全員がふりむいた。みんな何事!? と目を丸くしていたので、手を振ってごまかした。
「サラっち〜、混乱してるのカナ?」
 こいつ、いつの間に頭の上にいたんだろう。
「あれよ、あれ! 500枚の景品!!」
 ハエ、いややヒント虫様のお言葉には深い深い意志が込められていたのですね、とこぶしを握る。
 ああ、ガラスのショーウィンドーの中にばっちり、ばっちり

「すごい武闘家専用防具セット……」

 中華風デザインが目にも鮮やかな、赤い武闘服。魔法力が込められているらしく薄く銀色に光ってる。そんじょそこらの金属ヨロイよりもよっぽど防御力がある。これ装備したらきっと絶対かっこいいよ。それにつけても「我最強」の文字を染め抜いたハチマキは、絶対装備しないといけないんだろうか。
「がんばろう! 有り金全部、コインに変えてっ!」
「待ったぁぁ!!」
 思い切り肩をつかまれて踏みとどまった。
「ちょっと待て! 思いとどまれ、考え直せ!」
「あらシロウ。何か用」
「……ノアの宿屋代、20ゴールド」
「そんなのどうせ100泊でもできるようにしてあげるからだーいじょうぶっ、心配しないでよぉ」
「先払いだから」
 チッ。20ゴールド手にしたシロウは、絶対待ってるんだよって行ってしまった。ノア、なぜかここには顔を出さなかったな。
 とりあえずせっかくだから有り金を全部コインに換えてしまう。
「思い切りがいいですなサラさん。もっ、ババンと行っておくんなせぇ。あんたの金はカジノをうるおすよ」
「ホホホホ、スロット大好き!」
 ん? ハチの言い様だとまるで私が負けるみたいじゃないの。失礼な、私はね、ゲームでは必ずスロットゲームに打ち興じることにしているのよ。とりあえずカンにまかせてボタンを押すだけというシンプルさがいいわよね。

 たぶん。
「ガンバレヨー」
という気の抜けた応援のせいではないかと思う。
 というか絶対、そうだと思う。
 押すボタン押すボタン全部すかっと外れる小気味の良さが、私の正気にストップをかけた。そして続けて入れるコインの滑りが良すぎた。
 するするするするする、と流れて、そして。
「…………………」
「あははは」
「笑ってる場合デスカそこ」
「じゃあどういう場合にすればいいと思う」
 まさか。
 まさか1コイン残して全て使い尽くしても当たりが出ないとは、思わなかった。スロット回してるときには気づかなかったけど……私、もしかして、やばいんじゃないの……
「そんな意見求められても。こんがり焼かれてください、ノアさんに」
「サラ、どうだった!?」
 戻ってきたシロウはさわやかに笑っていた。
 宿屋に泊まるのはノアだけにした模様。私たちMPゼロ族は草でもかじってなさいってこった、ね。
「あら、いいとこに来たわね。今、ちょうど盛り上がってきたところなの」
「へぇ。俺はたぶん負けるだろうから見てるだけでいいよ」
「そんな」
 ハチは後ろ手に握りしめて黙らせる。
「そんな。バクチっていうのは、自分でやるから楽しいんじゃない! 見てるだけなんて、つまらないわ」
「でもビビって人に解説聞いたんだけど、運も大事な要素だって」
「そんな数字だけの話聞いてて楽しかった!?」
 私は右手でシロウに1コインを差し出した。
「やってみなさいって、楽しいから! あのスロット、次は出そうな気配よね」
 そうかなぁ、とあまり乗り気でないシロウの背を押して椅子に座らせた。
 チーン、と音がしてスロットの回る準備オッケイ。一枚だけだから真ん中のラインにそろわないといけない。シロウは画面に集中して見入った。私も背後で見入った。
「あ、パイナップルが! パイナップルがそろったよあと一個で20倍!!」
 …………シロウが言うには、その私の声が余計だったそうである。

「ど、どうするんだ!!」
「どうするもなにも、あんただって負けたんだから同罪よ!」
 胸を張ってみてもシロウはバカ! と一蹴した。
「まさか、1コインだけ残して全部スってるなんて、誰が思うんだよ! あんな短期間で……どういうことなんだよ! 滅茶苦茶だっ!」
「でも、そんなこと言われてもヒント虫の言うとおりにしただけだし……」
「金なんか使い尽くす覚悟でいけ、だろ覚悟の話だろ! それでホントに使い尽くす奴がいるかよ!」
 ここにいました、とは実に言いにくい。
 でも私の胸には不思議な安堵が満ちている……これはなんだろうか。たとえばテストで0点とったとき……無二の親友も同じく0点だったとか……そういう気分? 怒り狂ったノアが杖を振りかざそうとも、焼かれるのは私だけじゃない。そんな不思議な安・心・感。
「………提案があるんだけど、シロウ」
「一応、聞くだけ聞く」

「逃げよう。二人、別の方向に」

 とりあえず、本気ではあった。




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