イベント2 淑女は眠る、イバラの中


2−9 続いて、クイズです



 善神の教会は、城からものすごく近いところにあった。
 そしてシロウとノアは、その前にいた。

「あれー、二人ともここにいたんだ!」
「あ、サラ! ちょっときいてよ。教会今大変なことになってるのよ」

 ノアは近づいてくるなりそう言った。
 きょとんとしていると、シロウが目で聞いてくる。『カジノ、うまくいった?』と。ひそやかに親指をたてると心底安心して胸を押さえていた。
「なにやってんの?」
「あ、いや、なんでもないんだけど、教会大変って一体なに?」
「私たち独自のルートで糸をもってる高貴な人というのを探していたのよね」
 糸? 高貴な人?
 ぽかんとすると、ノアはぎりっと眉を上げた。
「忘れないでくれる。真珠の首飾りを手に入れるためには、真珠と、糸! が必要なんだからね。糸がないとだめなんだから。そうよサラ、真珠手に入れたの?」
「う、うん! ほら、見てみて!」
 懐から取りいだしたる真珠を見てノアは片眉を上げた。ふーん、と鼻からぬけたような息をつく。
「あれ、ノア、真珠を私物化したりしないんだ?」
 シロウがきいた。
 無邪気な男だこと……。
「ダメよシロウ、この子ヒカリモノじゃないとそそられないのよ」
「ああ……出刃包丁とか」
「そう、サバとか。て、違うでしょ!」
「漫才してる場合じゃ、ないのよ」
 冷たいノアの声音だった……。

「なんだか怪我人がぞくぞく運ばれてきてるのよね。この街の近くにゴブリン鉱山というのがあって」
「あー、いかにもゴブリンが出てきそうな感じね」
「そー、その鉱山に『破滅の壺』てアイテムが出てきたらしくて、そのレアさ加減にバカな好奇心起こした冒険者が乗りこんでって、そしたら『悪逆大帝』とかいうのが目覚めたらしくて。みんな怪我して山から帰ってきてるの。今、厳戒態勢らしいわ」
 見ていると教会にぞくぞくとタンカが。ふつうの冒険者じゃなくて、トルデッテ伯爵の軍が向かったということらしい。そして怪我して帰ってきてて、教会は大騒ぎと。
「悪逆大帝かぁ。なんか、どうでもいいネーミングね」
「悪逆大帝は、とても珍しいボスなんですよ!」
 ひょこりと顔を出したのはカンナだ。
「倒したら貴重なアイテムがいくつか手に入りますし、ゴールドもたくさん持ってますし、それに倒した冒険者の名前は看板になって残ります! かっこいいですよ」
「……私たち、挑戦したら、倒せるの? ソレ」
 カンナはぴくっと耳を動かすと、顔をあらうみたいに両手を動かした。猫ですか。
「ううう……言いにくいですが……」
「いや、いーわよ。分かるから」
 カンナはまごまごしている。

「で、そんで、なんで教会にいるの? そもそもシロウがここに入ろうとしたら呪い倍率ドン! てことにならない?」
 シロウくんの胸には今も高らかに呪いの矢が生えている……コレがある限り私たち、ろくに外を歩くこともできないのだ。シロウはもじもじした。
「いや、俺は外で待ってるけど……」
「だからね、糸を持ってるのは高貴な女性ていうことだから。私、アリーゼの母親かもしくは聖職者じゃないかなって思ったの。で、中に入ってって人に話きいてみたら、裁縫が得意なシスターがいたのよ」
「うわ! それまさに糸くれそうな感じ!」
 そして糸をくれるために何か違うモノを要求してくれそうな感じ。

「その人の名前は、シスター・セーラっていうの」
 ええええ! シスター・セーラ。今、まさにその名前きいてきたばかりだわよ私!
 私の大反応をいぶかりながらノアは話を続ける。
「そのセーラさんに話しかけようとしたんだけど……そしたらね、邪魔が入ったの……」



* * * * * * *



 シロウをおいて(彼はどこかで情報収集してくると言った)ノアとふたり、教会に入っていった。
 ついでに挨拶もすましておこうということに。
 つけとどけは今回はパス。地図の限定解除してもらうのは教会でないとだめなんだけど、まだ全然解除してもらうほど世界をさすらってるわけじゃなし……。はじまりの町とゾンビ屋敷とトルデッテしか、私たちまだ来たことがないんだよ! 他にも色々載ってるのに。
 別の国にも行ってみたいよね。この国は緑が多くて平和な感じだけど、他の国は砂漠とか雪国とか、様々な特色があるみたいだし。特に砂漠、あこがれるわ!
「砂漠ですかぁ、サンドワームとか、とにかくモンスターレベルが高いんですよねぇ。でも隠れ里とか、色々面白いイベントが山もりであることは確かですよ!」
「へー」
 聖職者というのはおんぎせがましい。挨拶そこそこに私たちは教会の中をうろついた。怪我人続々と言うけど、ほんとにそう。廊下をひっきりなしにタンカが行き来してる。走り回ってるシスターも幾人か。
 そしてある部屋に入っていくと。

「あれがシスター・セーラよ」
 ノアが指さしたそのひとは、えっと、ノア三人分くらいの大柄な女性だった。私、つまようじみたいな女性を想像していたものだから、一瞬息をのんだ。しかもこのひと、ものすごい勢いで人々を治療している。怪我人が運び込まれるたびに、銀細工も派手派手しい杖を掲げてびかびか光らせている。するとみんなの怪我が治っていくのだ。
「あ、あれ!?」
 私の体力も全回復した。この部屋に入ると、そういう効果が出るらしい。
 あの杖が伝説の武器のひとつで、無尽蔵に体力を回復するらしい。しかも消費するMPはなし。
 でも、敵味方関係なく回復してしまうアイテム……とのこと。強奪してもあんまり使い道はない。いや、あるかな? いや、でもできないしな。

「あなたたち、セーラ様に一体なんの用なんですかぁ!?」
 いきなり私たちの前に小娘がしゃしゃりでてきた。
 赤毛の、そばかすの少女。シスター見習いと、見れば分かる。いかにも小生意気そうな、鼻っ柱強そうな子だった。なんだか顔つきに悪意がしたたってる感じ……。
「邪魔ですよ邪魔。体力が回復したら、帰ってくださいよね」
「セーラさんと話がしたいんだけど……」
 とりあえず、きいてみた。すると、
「はぁぁぁ? そんなの、無理。絶対無理。どこの馬の骨だか犬の骨だか知らないけど、さっさとか・え・れ!」
 なんなのこのむやみやたらに好戦的な口調……
 そして赤毛の少女は、目をぴかりと光らせた。

「それでもどうしても喋りたいというなら……クイズに答えてもらうわっ!!」




* * * * * * *



 クイズ……。
 なりきり門番といい、つくづくクイズに恵まれてるわ、ね……。
「私、さっき間違っちゃったのよ。ろくでもない問題なのよ。一回失敗したら二度目挑戦するのに10ゴールドいるの」
「うわ……教会のくせに、がりがりしてんのね! 信じられない。つーかあんたなんの資格があって小金稼いでるわけ。そんな困ってるわけ。聖職者ってそんな汚れてていいと思ってんの。ちょっと自覚足りないんじゃないの。シスターって人の助けになる職業じゃないの。あんたが一体なんの助けになってんの」
「うるさい。それではクイズ!」
 私の文句は、一蹴された。

 赤毛は得意げに問題を口にした。

「トルデッテ伯爵の奥様の名前は、なに?」
「クラリーネ!」
 ノアが即答した。
「トルデッテ町にみられる円屋根建物の様式は、なんていう?
1、クレシャー様式、2、クレクレ様式、3、マーシャル様式」
「いちっ!」
 続々とクイズが続いていく。怒濤のようにノアが答えていく。
「次の問題……今、何問目っ?」
「じゅうはちっ!」
 うわっ性格悪。

「続いて次の問題。……次で、最後よ。
 この町を今騒がせている魔術師軍団の名前は、なにかしら。
1、炎熱のアメジスト団。2、黒剛のヘマタイト団。3、邪の黒オパール団」

 これさっき間違ったのよ。とノアが言った。
「ヘマタイトを選んだの……。だから、1か3であることは確かなんだけど」
「3、でしょ!」

 思い切り指さして答えてみた。
 マナーが悪いですよ私ったら。でも、いいよね!




NEXT?