イベント2 淑女は眠る、イバラの中


2−10 ウサギさん、ウサギさん



 クイズをといたとたん、小娘はチッと舌打ちして、どいた。
 くやしかったので、「ぺっ!」と思い切り言い放ってみた。ノアが眉をひそめて、
「どうせなら殴るといいのに」
と言った。
「え……どうせなら燃やせばいいのに」
「だってリンダポイント上がりそうじゃない」
 えっと……。

 それはともかく、回復途中のシスター・セーラに近づいていった。
 彼女は杖を掲げて回復し続けている。患者がとぎれたときにタイミングを合わせて話しかける。

「えぇーー? なんですってぇーー??」

 シスター・セーラはこちらを向くことなく、あんまり聞く耳がないという感じ。アイテムに爆弾とか火薬があったらここらで爆発させて、注目を引きたかったところ。
「あのですね、糸が欲しいんですけどもらえませんかーーー!!」
 なぜか叫んでいる私。
「糸ぉ? なんの、ためーーー??」
 杖がぴかぴか光り、患者が回復される。

「アリーゼ姫を、助けるためっっ!!」

 思い切り腹の底から叫んだ。すると、効果はてきめんだった。
 シスター・セーラは振り返る。まんまるいほっぺをした、温厚そうな人だ。この装備をたやすく使えるんだもの、レベルだってきっと高い。
 そういえばシスター系のレベルの上げ方ってちょっと特殊だったりするみたい。普通に戦闘でもらえる経験値も大事だけど、教会系のイベントをこなして教会に忠誠を誓わないといけないとか、なんとか。
 大変よね。私たちのパーティには微塵も関係ないけど。
「アリーゼを……そう。
 あなたたちは、彼女の友達にはもう会ったの?」
 シスター・セーラは静かにきいてくる。ノアと顔を見合わせた。
 アリーゼ姫には友達が、いた。確か執事のイシューがそんなことを言ってたわね。 全然そんな子、思い当たらないけど……。ていうかノーヒントなんだからもう会ってたらビックリだけど……。
 シスター・セーラは肩をすくめた。

「うさぎさんにでもきいてご覧なさい」

 そしてそのまま治療に専念し、私たちが話しかけても首を振るばかりで相手をしてくれなかった。

「ウサギさん、て」
「カンナ!?」
 カンナはあわわわと両手を振る。つぶらな瞳をうるませて、知りませんから! と言った。そりゃそう、よね。ナビにきけなんて。
「でもウサギって……なに」
「あれ、ヒントよね。ウサギ……ウサギ……満月? うーん弱いかな……ウサギって言ったら、ラビット、バニー……」

 バニー!?



* * * * * * *



「それだ!」
と叫んで飛び出していく私をノアが追いかける。
 そういえばラビットとバニーて、どう違うんだろう。なんて考えながら教会を出て、シロウがいないことに気づきながら道を進んでいった。シロウのことだ、フィールドに出稼ぎにでも……や、彼は呪いで出られないんだったわ、情報収集にでも出たんだろう。

 ウサギと言えばバニー、バニーと言えば……バニーガールよね!

「あらぁ、私になにかご用?」
 ビビはにっこり笑った。カジノホワイトラビットの案内人。今となってはその無邪気な笑顔に裏を感じないこともない……!
 ああ、とノアが納得している。

「ビビさん、ビビさんてアリーゼ姫の友達なんでしょう!?」

 単刀直入に切り出した。するとビビさんは目を丸くし、首を傾げた。色っぽい青いまぶた。
「うっふふ、さぁ、どうだったかしら……」
 お前もか。
 お前もか!
「イタ、イ、イタタタタ、サラっちボクは雑巾じゃな……」
 ビビはくるりと回転し、両手を広げながら、言い放った。
「私から情報が欲しかったら、あれをもって来て欲しいわ!」
「あれ!?」

「世界、宝石コレクション、って本よ! 太陽のエルフィーナ選のやつよ!!」



* * * * * * *



 ノアは大変いやそうな顔をするだろうと思った。
 でも、素直に懐から本を取りだした。あの道具屋でいち早くゲットしたかいがあった……んだろーか。無言なのがイヤだけど、素直に出してくれて良かった。
「や、だってあの本、本だけど開くことができなかったのよ。単なる持ち運びアイテムみたいで」
とノアは言った。なるほど。ビビに渡すためのアイテムだったってことか。

「あっ、これよこれ! うわー、嬉しい! 月光のルーシア編と星影のフォーリー編とこれでコンプリートしちゃった。やったぁい!」
 ビビは喜んでいる。

 そして、語りだした。

「えぇ。私、アリーゼとは友達よ。アリーゼはちょっとおてんばだけどおおむね大人しいいい子でね。金髪碧眼の可愛い子よ。
 お母さんとはケンカが絶えなかったみたいだけど……」
「なんで?」
「お母さまはわりと権力主義者でー、アリーゼ姫と貴族のボンボンを結婚させようとしてたのよ。最近慌てて婚礼の準備をすすめようとしていたから、アリーゼが思いあまらないか心配だったの……」
「思いあまる?」
「ほら、お嬢様だし。結構気が強いなとこもあるのよ。お母さんに押しつけられた結婚なんて絶対イヤって息巻いてたし。それにあの子結構モテてたからー、恋愛はまだまだ自由に楽しみたかったんじゃないかなっ?」
 アリーゼ姫……キャラ像がいまいち固まりきらない……。
「ここだけの話だけど〜」
と、ビビは身を乗り出してきた。
「お母さんに、結構やばい集団が接近してたってウワサ」
 うん? これは、大事そうな情報……!

「今あの方が行方不明なのもそいつらのせいじゃないかって、話があるくらいよ。でも怖いからあくまでも裏の世界のウワサね。裏っていったら裏よ。道歩いてる奴らに話しかけたからって知り得る情報じゃないって意味ね。
 宝石の名前をした集団で、つよい魔法使いが何人もついてるんですって。そいつらの目的がなんなのかはよく分からないけど、でも、貴族の奥方を行方不明にするくらいの力はもってるってことよねぇ……なんの目的があるのかしらね?
 アリーゼがそいつらに関係してるってことはないと思う……。誘拐されるようなタイプじゃないわよ。うーん……そりゃ、無理矢理ってこともあるけどぉ……たぶん違うと思うのよぉ。信じて? あの子、けろっとしてるんじゃないかなぁ。分からないけど。えっと……うーん、今は言えないこと、あるのよね。あなたたち、もうちょっと自分で調べてみたらどうかしら」




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