イベント2 淑女は眠る、イバラの中 |
2−16 そして眠れる姫君の元に |
東から行くか、西から行くか。 それは特に問題ではなかった。どっちみち同じ事。そして扉を開けて、私たちは足を踏み入れたのだった。 魔術師が造り上げた、理想の花園。 イバラの中に眠る、一人の姫君。 庭園の中央には、大きな木が枝を広げていた。真ん中にくぼみがあって、それが天然のベッドとなっている。姫君はそこに腰掛け、目を閉じたままぴくりとも動かない。 金色の髪、ミルク色の肌。小さな身体、両手で包めそうなほど細い腰。雲みたいにふわふわとした白いドレス。赤いリボン。 見とれてしまった。 そして近づこうとした私たちに、イバラが襲いかかってきた。 「1、2、3、ファイアー!」 イバラはザコ敵だったけど、一定以上アリーゼに近づこうとすると襲ってくる。弱いけれど数に限りがないタイプ。私たち、ここに来ることできたけど、アリーゼをたたき起こすことはできないみたい。 静かな空気、穏やかな時間の流れる場所だった。 アリーゼは幸せそうに眠っている。その胸におかれた白い手に、なにか見える……光だ。血のように赤く輝く光をアリーゼは握りしめ、眠り続けている。 「あれだね、泡沫の宝玉……だっけ。眠る姫君がつくることができるんだっけ? あれ、アリーゼがつくってるんだ……?」 でもあれ、宝石だろうか? 単なる光の固まりに見えるけど…… 「キーッキッキッキ、そうだよそうだよ、あれは単なる泡沫の宝玉のなりそこないさァ、失敗したんだよオパール団は!」 「わあああっ」 びっくりした。空からいきなりネズミが振ってきたんだから。 しかもでかい。私の腰くらいまでの身長がある。しかも、悪人面。なにかたくらんでそうな様子がありありだ。 ネズミはひらりと着地すると私たちを見つめた。後ろ足二本で立っている。 「俺は見たんだよ、一部始終をなぁ?」 「ハァ? だったらなに見たか喋りなさいよ」 「へっやだねやだねぇ、言葉の使い方も知らないお子さまは」 無言で左手に握り込んでいたハチを顔面にぶつけてやった。ひっくりかえるその腹を足の裏でにじにじする。 「言葉の使い方は知らないけど小動物の可愛がり方はわりと知ってるのよね?」 「ぶわっぶわっ、なんて女だ!! 最低最悪見て泣け囓られてわめけぇぇ!!」 突然戦闘開始してしまった。ネズミの後ろに同じ大きさで色違いのネズミが二匹かけつける。しかしそのとき、 |
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て、ウィンドウが立ち上がった。 なにこれ!? ネズミたちはいったん停止している。 カンナが現れた。そしてバッチョの事を悲しげに見つめつつ、説明を始めてくれた。 「この戦いでは、コマンド戦闘モードが選択できます。えーと、コマンド戦闘というのは、たとえば今の自分たちにしてはレベルが高いイベントに挑戦してしまったなぁ、というときにオススメです。レベル40の敵対レベル10の自分たちでも、まるっきり勝てないことはないのです! まずパーティの中からコマンダーを選択します。コマンダーは戦闘には参加しませんが、仲間たちに指示を与える役目です。 たとえばノアさんがコマンダーになったと想定して…… 最初に |
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を選択します。そして戦うを選択します。 すると、 |
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と、仲間たちの名前が出てきます。ここでシロウさんを選択したとしますね。 | ||||
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どれかを選択します。 そして敵もまた、味方の一人を選択しています。 |
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このモードではレベル関係なく、HPは5になっています。 それではややこしいのですが一気に説明しますね! 自分が「攻撃」を選択した場合…… →→相手は攻撃 このときはお互いに3Pずつ減ります →→相手は防御 自分が1Pダメージ、相手は2Pダメージです →→相手は必殺 倒されてしまいます 自分が「防御」を選択した場合…… →→相手は攻撃 自分は2Pダメージ、相手は1Pダメージです →→相手は防御 お互いに1Pダメージです →→相手は必殺 カウンター成立。3Pダメージ与えることができます 自分が「必殺」を選択した場合…… →→相手は攻撃 倒すことができます →→相手は防御 カウンターで3Pダメージです →→相手は必殺 お互いに攻撃をミスしてしまいます。無効! まとめていうと、攻撃は相手にダメージを与えられますが必殺に弱く、防御はそれだけでダメージがあるのでずっとそれでしのぐことはできない、必殺は相手が防御だとダメージを食いますが起死回生の攻撃となるわけですね! そして、どちらかのパーティメンバーが全て倒れると、戦闘終了です。ひとり倒されてももう一人で敵を全員倒せばいいんですよー。 分かりました!? 分からなかったらもう一度、説明しますけど……」 「えーと、分かりやすく言うと普通のガチンコ戦闘じゃなくて、じゃんけんみたいなので勝負決めようって話よね」 言うとカンナは耳を震わせて、少し後ろに退いた。 「じゃんけん……そ、そうです。その通りです。ちょっとルールの細かいジャンケンです」 「うーん、どうする? ネズミなんか別に普通に倒せばいいと思うんだけど」 しかし、ノアは首を振った。 「ちょっと待って。大事なこと忘れてるわ」 「え、何?」 と身を乗り出したシロウの鼻に、ノアは指を突きつけた。 「あなたの呪いよ! 私たちこの町に来てからまともに戦闘してないの。たぶん、呪いのせいであのネズミたちあなたに集中攻撃すると思うわ。わりと攻撃力高そうじゃない? 私なら、あの三匹分の攻撃で死んでしまえそう」 「うーん、そうね……凶悪な顔してるもんね。ノアがじゃなく、ネズミが」 「……戦闘開始、サラの攻撃、私の攻撃とネズミたち三匹の攻撃、シロウの攻撃ってペースで進むわね。シロウは一気に瀕死、サラは治療に専念、私の攻撃、ネズミたちなおかつ集中攻撃……で、シロウ戦線離脱。残った私たちでネズミが倒せるかしら。なんだかあのネズミ、すごくレベル高そうに見えるのよね……、コマンド戦闘になったのも、そのせいじゃないかしら。 万全の体制ならともかく、呪いかかえて普通に戦えると思わないわ! しかもシロウを生き返らせに暗黒教会に行ったとするわね……次はきっと、ゾンビになって生き返るわよこの子! 何パーセントかの確率でかかるって言ってたでしょ、そういう逆ビンゴにまさしく当選するタイプよね。私たち、これ以上悲しい十字架背負いたくないわ」 「……………」 シロウはしょっぱい顔をして、モンタを抱きしめた。モンタはしっとりと「泣くな……」とささやきかけている。 カンナがノアになにか注意するけど、手のひら振って終わらせられてる。うーん、しかしそうだよね。ほんとに呪いを早いとこなんとかしないと。 「じゃ、コマンド戦闘、いっとく?」 |
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いっといた。 まずコマンダーはノアを選択した。的確なところだと思います。ネズミたちは 「負けはせん……負けないっちゅーー!」 と闘志まるだしに戦闘を開始した。コマンダーはさっきの喋るネズミ。紫色の皮をしている。 ノアは戦うを選択。私とシロウが戦闘員として使われることになる。 「サラ、君に決めたー!」 と指さされる。な、なんなのその台詞!? ノアはのりのりで私を指さしている。私はネズミの一匹と向き合うことになった。なんか、決闘みたい。 |
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て、コマンダーの性格表示ウィンドウが立ち上がる。 「いけサラ、攻撃ーーッ!」 「防御だチュー!」 コマンダーの指示が飛ぶ。 敵のHPを2P削り、こちらは1Pくらってしまった。残り4P、さて次のノアの選択は…… 「チューチューチュー、なかなかやるな、それじゃ攻撃に転ずる!」 と、台詞。 「サラ、必殺攻撃ー!!」 ま、まじで! 私の身体はコマンダーの指示に逆らうことはできない。そしてネズミが選択したのは普通攻撃だった。 私のドラゴンナックルがモンスターを切り裂く! ブルーリボンで華麗な動き!! 「一匹撃破!」 わーっと歓声が上がった。尻尾ネズミはぷるぷる震え、ま、負けてなるものか〜! とうめく。 しかし、その次は私は一発目から必殺攻撃! ネズミが選択したのは、普通攻撃。 シロウの出番なく、敵のモンスターズは一掃されてしまったのだった。 |
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「チュー……分かったよ話すよ。 この館の今のあるじはイノシシみたいな顔した魔術師ジャン。彼はオパール団の一員だったのさ。だけど数奇な運命によって彼はアリーゼを愛してしまった。馬鹿なヤツだよ。 やつは迷った。オパール団としての任務を遂行すべきか。あるいは、姫を連れて逃げるべきか? そして手紙を送ったのさ。 そして白い猫を抱いたアリーゼ姫がこの屋敷にやって来た……」 |