「うーん、あれだね。
とりあえずはダンジョンの中を調べつつ、モンスター倒して、お金と経験値稼ごうか!」
提案すると、他の二人がおー、と拳を上げた。
元の道に戻った。
バッチョが私の頭の周りをぶーんと飛んでいる。
「今までのことだけど」
「うん?」
「ボクは全く役に立たないナビだったよね」
……いきなりなに言おうとしてるんだろう、これ。
なんかしっとりした笑みをたたえ、私を見つめている。
「でも、実はナビには特性があってね。
こんなダンジョンでこそ役に立つ……そんなナビも、いるんだ」
「ええ!? じゃあ、もしかしてあんた、いま、ここでこそ輝くナビになれちゃう存在だったということ!?」
そしてバッチョは。
「ううん」
と首と尻を振った。
「ちょっと言ってみたかっただ・け」
ガッ、と私の手が光速でハチをつかんだ。なんというか、我ながらスリの帝王みたいな反射速度だったと思う。
「オ前ヲ人工甘味料ニシテヤル……」
「ぐひゃゃゃゃゃあああああううおおお!? 意味は分からないけどとても怖い!! ぼ、ぼかあとんでもない者を育ててしまったああ!?」
骨の髄まで絞り出してやろうかと思ったけど、いつものとおりノアとシロウに止められた。私は悪くないけど見ていて忍びないらしい。でも! でもさ! どうすればいいのこいつ!
「待ってくれ」
と声をかけてきたのは、シロウの肩にいるモンタだった。
「その……腹が立つのも分かるんだが、一応……嘘を言ってるわけではない」
「…………へえ?」
私が疑っているのがアリアリだったのだろう。モンタは両手をぷるぷるさせた。可愛い。
「ナビには特性がある。種族によって、得意なことが違うんだ。
たとえば、ウサギは初心者向け。フィールドの説明が得意だったり」
「じゃあ、ハチは?」
もちろん聞き返した。するとモンタは。
「言えない。
言えないんだが……これだけは確かだ」
私もシロウもノアも、モンタに注目する。
「なに……?」
「役にたたなさでは、全ナビでもトップクラスだ」
がっ、とモンタを掴んだ。シロウがひぃぃと声を上げる。そのシロウの顔面に、ハチをつきつけた。
「交換、ね」
もちろんそんなのが通用するわけなかった。シロウは取り返したモンタが青白い顔でぐんにゃりしているので、必死に呼びかけている。ノアが私の肩にぽんと手を乗せる。泣きそうな顔で見つめると、うんうんうなずいてくれた。
……まあいいや。うん。まあいい。すーはーすーはー。
こいつが役に立たないことは、今までの旅でそりゃもう芯までとっくりと学んだことじゃないか。今さらその役立たずっぷりを指摘したところでなんの救いになるだろう。なりはしない!
だから、とりあえず。
「コウモリに怒りをぶつけてやるうううううう!!!」
ボ、ボクにもものすごいぶつかってきたけど……なんて床で痙攣しているハチは踏みつけておくことにして。
「いち、に、さん、ファイアー!」
ノアの魔法が洞窟を照らし出す。
ゲームをしてるときって、画面に出てるダンジョンはだいたい上からの視点よね。それはなんだか紙の上で迷路を解いていく作業に似ている。
でもリンダリングのゲーム内では、私たちダンジョンの中にいるわけで。隆起した道を越えたり、足を取られそうな岩に注意していると上から飛んできたモンスターに襲われたりと、リアルきわまりない。いろんな方面を気にしないといけないわけだ。
あと、暗くて深くて狭いってことは、
「二度とここから出られなかったらどうしよう?」
という気持ちを生む。前から水攻めになったら……とか、でっかい岩が転がってきたり……とか。
まあそんなことにはならないけど。たぶん。でもいつだって一抹の不安がある。
全滅したらクールデルタの町に逆戻りかあ。そのときは容赦なくイベントが進んで……私たちは誘拐犯。ユリアさんにとっつかまって、お城に連れて行かれて。王様の前で縛り上げられて、正座したまま有罪宣告。
牢屋に入るもそこを脱獄。逃げに逃げてたどり着いたは北国。雪の中で狼たちに囲まれ……ううううむ。
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