RINDA RING  EVEMT03-16「うふふふふふ、見つけました」



 そういう曰く言い難い経験を経つつ。
 や、リンダリングってほんと変に凝ったゲームよね。
「あのピエロがボスとして現れるイベントがあるの?」
「ぎくっ」
 カンナが挙動不審だ。ふーーん。
「なんか怪しげというか。あれがボスになるようなイベントって、リンダポイントを高めると出てくる、裏切りと悲しみのダンジョンとか、そういう隠し要素っぽいやつな気がするわ」
「ぎ、ぎぎぎぎくっ! なんでそんな見抜くんですかサラさん……」
 そっかそっか。
「でもあんまり行きたくないね、そんなダンジョン」
「うん、手に入るのもなんかレベルは高いけど使いにくい武器とか防具とかじゃないかな。あるいはMP消費がでかすぎる魔法とか」
 やめてーやめてー見抜かないでー、とカンナがあわあわしている。
 推理はこのへんまでにしとこう。


 さあ、このダンジョンのつくりがそろそろ見えてきた……かな。
 地下に行く道はあの、出入り口近くの竜が待ってる広間。あそこ以外にはまだ見てない。
 基本的に洞窟がだらだらと続いている感じ。この階層の全体はまだ見えない。半分は到達したのかな……
 モンスターは動物系が多い。狼とコウモリ。あと魔法使いっぽい機械みたいなのも出てくる。いきなり炎食らわされたときは驚いちゃった。でもあれ、当たるとHP三分の一くらい削られるけど、避けることもできるのよね!
「わっ」
「よっ」
「ほっ」
と三人で連続で避けることができたときは結構快感。でもノアは命がけで避けないと、当たるともしかしたら一撃で死んじゃうかも……。



 少し広めの場所に足を踏み入れたときだった。
 でんでろでんでろでんでろ。
と、唐突に音楽が変わった。


「なにこれ」
「異常現象?」

と、天井を見上げる。
 そのとき。

「うふふふふふふふふふふ、あなたたち、探しましたよ……」

 サディスティックな笑い声が聞こえて、私たちはみな一様に凍り付いた。
 おそるおそる振り返る。シロウの背中のお姫様が
「おお」
と面白げに呟いた。
「ひさかたぶりじゃ」

 ユリアさんは強烈に歪んだ、そして猛烈に艶やかな笑みを浮かべて歩いてきた。その手には当たり前のように剣が握られている。
 お姫様を追ってどこまでも! ええ、ダンジョンの中まで追ってきてくれて、なんて熱烈なんだろう、ヤバイにもほどがっっ!!
 温厚だったはずのユリアさんが浮かべる、獰猛な笑み。はっきりいって、怖い。

「さあ、そこに並んでください。私が倒して差し上げますから……」

 うわ、わ! ……強制戦闘!?
 こんなときにっ。

「どうする……っ?」

と問いかけようとしたところで私たちの周囲のものの動きが止まった。ユリアさんは一歩踏み出した恰好で時が止まっている。
 どういうこと? と周囲を見回して、気がついた。
 私たちの前に、一人一つずつ、窓が立ち上がっている。そこには
勝利条件:騎士ユリアに、一撃報いよ!

 →「ここは任せて!」 残る
 →「ここは任せた!」 進む
とある。私たち、三人は顔を見合わせた。




*******





 なにこれ。一人ずつ、残るか去るかを決めろってことー!? もちろん「進む」とは、ダンジョンの先に進んでいくと言うことだろう、「残る」を選んだメンバーを置いて。
 ここで「残る」を偉ぶってことは……ごくりと喉を鳴らしてしまう。
 ユリアさんの戦闘能力は分からないけど……剣士だ。あの装備からして、かなりのレベルだろう。長剣の装飾は華美な飾りがついているものの、金属部分はシンプルでなんの曇りもない。敵を倒すために究極を目指している、道具。そのシンプルさが美しい。

「どうしよう……ふたりとも」
「誰かが残るしか、ないみたいね」

 誰かって。誰かって。だれーーーー!?
 私たちは視線でお互いを探り合う。

「待って。みんなちゃんと落ち着いて、整理して考えましょう」
 ノアが両手の手のひらを私たちに向けた。
 ううっ。動揺が少し収まった。挙動不審になっていたシロウも、それでやや小刻みな動きが収まった。

「ユリアさんの狙いは、壺の中のお姫様よね。お姫様を奪われた時点で、私たちの命運は尽きる」
 そうだ。
 このバトルの敗北条件は、全滅もしくはお姫様を奪還されること。
「で、ちょっと試してみたいんだけど。シロウ、サラ、アイテム交換できる?」
 言われて試してみる。
 だけど、できなかった。ここでできるのは選択肢をえらぶことと、相談だけみたい。場所の移動もできない。足が動かないもん。
 不可避の戦闘ってわけ!
「そっか……」
 できないと知ったノアは悔しそうに眉根を寄せた。
「ユリアさんに対峙して一人で勝つのは、私たちには無理だと思う」
「ど、ど、どうするのっ」
 つまりここに残った子=死亡ってことなんでは! まさに「ここは俺に任せて、行け!」よ。死亡フラグよ!
「落ち着いて。むざむざ味方を捨て駒にするわけ無いでしょ。そんな遺恨の残る真似したくないじゃない」
「うんうんうんうんうんうんうん」
 シロウが激しくうなづいている。
「この窓見てると、勝利条件は、ユリアに一撃報いよ、とあるわ。つまり……たぶん、倒す必要ないのよ。ある程度攻撃を当てたら、あるいは一撃当てたら、このバトルは終わる!」

 おおおおお。私とシロウは両拳を握って歓声を上げた。
 そうか。そうよね。そうだよねー!

「あの……ナビとして、ヒントをひとつ差し上げます」
 カンナが会話に割り込んだ。
「このバトルの勝利条件は、一撃を当てることではありません。一定以上のダメージを与えることです」
 う。ノアの顔が梅干しでも食べたみたいにしぶくなった。

「難易度高いわね……。んじゃもうひとつ教えて。ユリアさんには魔法と打撃、どっちが有効?」
 カンナはぴるぴる耳を動かしながら答えた。
「騎士ユリアは、素早さがかなり高いです。しかし職業である騎士の特性として、魔法防御力が低いです」

 ヒントは以上だった。ハチをつかんでお前はなんかないのかと問うてみるも、はかばかしき結果無し。地下に埋める。

「……で、どうする」
「誰が、残ることにする……?」

 素早さが高いってことは、シロウの攻撃だと当たらないことが多いってことよね。
 そして、ノアの魔法が有効と……。

「ほんとはシロウのもってるお姫様をサラに渡して、逃げてもらおうと思ったのに……そもそも無理だったか」
 ノアは目を閉じてしばらく考えた。
 そして、うん、と頷いて目を開けた。

「決めた。
 私が残る」

 にっこり笑って、ノアはそう言った。

「ちょっと待って! ノア、危ないよ」
「誰が残っても危ないじゃない。特にシロウの場合、こっちの攻撃が当たらないまま戦闘が終わる、大変むなしい結果になっちゃうわよ? 一方的にサンドバッグよ?」
「冷静になってる場合じゃないよ! いや、冷静な方が良いのかこの場合……それはともかく、ノアだと、たぶん1ターン目で相手からの攻撃になるよね」

 なるでしょうね。
 この戦闘は準ボス戦扱いみたいだから、魔法使いは魔法詠唱の時目を閉じないといけないんだけど、タイマンの場合はそうしなくてもいい。
 とはいえ、1ターン目でユリアさんの攻撃! ノアのHPがほとんど削り取られる!
 魔法詠唱、ユリアさんダメージ! その次のターンで、ノアの残りHPが全てなくなる……おしまい。という展開があまりにも鮮やかに目に浮かぶの!

「だから。だめよノア。だったらまだ私の方が」
「そうよサラ。
 ……誰が一人で残るって言ったの?
 私とあなたが残るの。シロウは逃げて」

 あ。そうか。
 ……そうだよね。別に一人捨て駒になる必要ないわけだ……!





NEXT?



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