「ねえ、あれ」
と指さした。
はじめは気づいていなかったノアとシロウも、目を凝らしてそちらを見た。
回復の泉の上に、ぷかぷかとうかんでいる黄色い固まりがある。なんだかもやっとして……いや、発光してる、かな?
「なにこれ」
つつく気にはなれないまま、近づいていった。
「まさか……」
「まさか?」
「ゴミ、かしら……?」
とノアが言ったとき、黄色いのはムキィィィーーー! と言いながら宙に浮かんだ。な、なんだなんだ。飛べるの? なにこれ?
「余は……名乗りたいのであるがまだ名前がない」
それはしゃべった。よく見ると、目みたいなのもあるし口みたいなのもある。だけど基本的にぼんやりとした光の固まりだ。
「新キャラにしてはデザインがやっつけね〜」
「言わないであげてノア!」
また黄色いのがムキィィィィと怒り出した。おお、ちょっと赤くなった。
「お前たちは冒険者であるな? ならば命じよう。このダンジョンを制覇せよ!」
「………………」
「………………」
「………………」
私たち三人とも、返せたのは沈黙だった。
だって。そんなことお前に言われなくってもー、だよ。のんびりしているとミュンヒハウゼンと革命軍のメンバーたちが軍事衝突しちゃう。そうなれば……そうなれば、このイベント失敗ってことになってもおかしくない。別にそういわれたわけじゃないけど、そんな気がする。
「何を黙っておるのだ? はっはーん、今になって余のありがたさが分かったのだな?」
「……行こっか、みんな」
「うん、そうしよう」
「あの五筋の道が手の形をしているのがヒントだよね」
「鮮やかなまでの無視っ……? 余は……余は……ああ、消えてしまいそうじゃ……あああ、早く一番下の階まで来ておくれ。そうしなければ、母様が……母様が……」
そうして黄色いのは明滅をはじめ、最後には消えてしまった。
まさかあっさり消えてしまうなんて思ってなかったので、ちょっとびっくりした。え? これ、よかったの? みたいな。三人で顔を見合わせる。
「……会話の選択を間違った、の、かな?」
呟くと、ノアがうーんと首を傾げたままうなった。
「実のところ、これ以上変な任務増えても困るなあと思ってたんだけど。今のはそういうのじゃなかったみたいね」
「と、いうと……」
「ヒントだったのかも。早く一番下の階まで来い、そうしなければ母様が……って。このイベントで『母様』と呼ばれる存在なんて、ひとつしかないよね」
いかな私とは言え、
→それはミュンヒハウゼンだよね
→そっか……あのミュンヒハウゼンに子どもが……
→やっぱりあの腹は……生んでいたんだね……ミュンヒ
などというボケ選択肢が脳内をちらついたけど、ここで言うわけには。うん、言うわけには。などと苦しんでいる間に、シロウが言った。
「ガルディエントだね」
「うん。なに苦しげな顔してるのサラ?」
「う、ううん! ガルディエントだよね! うんうん! ということはあれは竜の子ども……じゃなくて、卵? 卵だよね、ガルディエントの子どもって……つまりあれって、黄身ってこと!?」
「……………………」
「……………………だめ、地味にウケる」
ノアがぷぷぷと小さく吹き出していた。
や、黄身呼ばわりしたのはわざとじゃない。あの黄色さが、頭の中でちかりと事実につながった瞬間だったのだから、私はあんまり悪くないと思う。たぶん……。
「卵は一番下の階にあるから、取りに来てねってメッセージだったと考えるのがいいかな」
なるほどね。私たちが遅れると黄身が出てきてどんどん催促してくれるってことか……。だんだんゆで卵になっちゃったりして……。 ……それはともかく。
とりあえずこの階をなんとかしなきゃね。 |