Rinda-Ring

Lv2−2 呪いは続くよ、どこまでも




 そのイベントは、こんなものだった。


「竜の巣に潜り込み、色の違う卵を盗んできてたもれ」
(推奨レベル?)

 その谷があるのは、虹の谷。奥に眠る蒼い竜ガルディエントは聖なる瞳を持つといいます。その目に射抜かれた者は、己の邪悪さに絶望して死ぬ、と。その巣の中にある「色の違う卵」をもってきてください。



「たもれ? 変な口調ね。バグなのかな」
「いや、その……そうですね、バグかも知れません。は、はは」
 ユリアさんはいやな汗をかいている。どうも、なんだか、怪しいんだけど。
「ねぇ、シロウ。この話なんだかおかしくない。この人レベル高そうだし、自分で行けばいいじゃないよ。私たちまだ買い物もしてないし、さっさと次の戦いに出るのはいやなんだけど」
「うん、俺もなんだか怪しいと思うけど……でも、だったらサラ、ノアを止めてくれよ」
「無理かな」
「即答するなよ!」
 だってきらきらしてるんだもん。期待に輝く瞳の奥、冷徹に計算を重ねているに違いないあの頭の中では今「どうやってこいつが欲しがるに決まってるサファイアを手中に収めるか」、計算に計算を重ねているに違いないわ。それはきっと、リンダポイント上昇スレスレだ。
「分かりました。私たち、このイベントに参加します。ねっ、みんなっ!」
「はぁ」
「はぁ」
 その返事はため息だったかも。まぁ、別に、いっかぁぁぁ! な思いの現れだったかも。両方かも。
「ですけど、私たち今イベントクリアーしてきたばかりなんですよね! 装備は心許ないし、そのイベントに挑戦できるレベルかどうかっていうのも、不安ですしぃ。アイテムも底を尽きてますから、軍資金を溜めることから始めないといけないんですよね。ちょっと、イベント参加には時間がかかると思います」
「まぁ」
 ユリアさんは眉間に憂いを漂わせて私たちを眺めた。
「そうでしたか。私、もはや誰でもいいなどと思いあまってしまって。そんなに疲れている方々だったなんて。お金も、ないのですか……私の財布をさしあげたいのですが」
「金品の授受はリンダポイントが激しく上昇しますよー!」
 カンナが飛び上がって主張した。ユリアさんは慌ててうなづいた。
「ええ、ですから、さしあげたいのは山々なのですが、無理ですよね。でもアイテムでしたらさしあげることができますから、えっ……と、道具袋になにが入ってたかしら」
 そして出てきたのは、しなびた薬草セットだった。
 超いらない。
 するとノアがにっこり微笑んで言った。
「ユリアさん、イベントクリアーしてらしたんですよね」
「ええ、そうですけど」
「じゃあ、双子の姫君のアメジストで、我慢します」
 な、な、なんてことを要求するかな君はーーーーーー!!!!!
 突飛だ。あまりにも突飛だ。シロウが半泣きで感動している。ユリアさんはだらだら汗を流して口をぱくぱくさせている。
「あの、あの、この魔法使いは暴言と冗談が隙で! どうにも本気にしちゃう人が多くて! いやだからいりませんから差し出さないでくださぃぃ!」
 私が止めなければ、この女は手中に収めていた。チッとか言ってるよ……。

「そうですか。本当にいらないですか。……じゃあ私は次のイベントに参加したりしないといけませんから……次はけっこう時間がかかると思うんです。トルデッテ町にいかれるんですか。あちらは豊かな町ですよ。城下町と品揃えもそれほど変わりませんし。では、ひとまず分かれましょうか。連絡手段は、ナビを使うといいですよ。私のナビはこれです、出ておいでエミリー」
 呼ばれて出てきたエミリーは、はにかんだ様子も可憐な、ヒヨコだった。無口な質らしく私たちを前にして丸くなっている。おんなじ黄色なのに、どうしてこうも私の頭の上のんとは違うかなぁぁ! そしてカンナがエミリーとなにかやりとりをかわした。
「準備ができたら、呼んで下さいね。できるだけすぐに参りますから」



■ ■ ■


 丁寧に手を振るユリアさんと分かれ、私たちは町を出ることにした。なんとなく一回宿屋にとまっときたいし、アイテムを吟味して売るものと分けたいし、保管しとくアイテムを保管屋さんに持っていくのもいいし、いろいろ、やりたいんだけど。
 やっぱりまずは買い物がしたいんだ!
 ギムダは品揃えが基本的なものばかりだし、やっぱりここはトルデッテに行かないと始まらないよね!
「違うわよ」
「え」
「ほら、地図を見て。ギムダから北に行けばトルデッテだけど、途中にスライム屋敷が、存在してるじゃないの。まるで来てくれと言わんばかりに」
「……言ってない、聞こえない」
「奥の髭の男の絵が、ひっくり返してくれとあなたの夢で囁き続けるわ。うなされるほど強く激しく怨念深く」
「……髭のオッサンじゃなくて、呟くのはあんたじゃあ……」
 いやだ、いやだ、ぜっっったい、やだ。スライムなんてー、スライムなんてー、たまねぎと一緒に刻まれておしまい。みじんぎりになってスープに溶かして固形に固めて燃やしておしまい。ついでに灰を肥料にしてくれるわ! タマネギでも育ててくれるわ!
「たぶん無理じゃないかなぁ。隠しダンジョン系は往々にしてレベルが高いよ。君たち見てなかった? ユリアさん、マントの中に鎧を着てたけど、胸のあたりに緋色の薔薇の紋章があったよ」
「何それ。緋色の薔薇って、なに」
「女性の騎士で、イベントを10個以上クリアーしてて、必殺技を持ってて、レベルが20以上の人に授けられる紋章だよ」
「へぇ、かっこいいな。そしてあんた、詳しいわね」
「紋章を授けられたら、それ以後武器屋と防具屋で一割引、道具屋で二割引きになるんだ」
 そんな、ポイントカード貯まったみたいな。

 ギムダから外に出た。ゴースト屋敷に向かったのとは、違う道を行く。突然後頭部に衝撃を受けた。
「なっ!?」
 モンスターが現れた。しかも、先制攻撃! イヌみたいな牙とネコみたいな爪とタヌキみたいな顔を持つモンスター、チックルがあらわれた。こいつはレベル固定のザコ敵だ。集団で来ている。そしてその丸タヌキどもは、私を転ばせた後、いっせいにシロウに突撃した。
「わっ、わわわわっ!」
 シロウは困惑しながら逃げる。せめて剣を抜いたらどうかと思うんだけど、それどころじゃないんだろう。
 そしてシロウは転びかけて誰かに助けられた。
 ノアじゃない。私じゃない。それは、木が根を抜いて動き出したモンスターだった。
「いち、に、さん、ファイアー!」
 ノアの魔法が炸裂する。木の姿のモンスターは一撃で倒れ行く、向こうからまた新手が現れる。シロウはチックルにもてもてで役に立ちません。
「すごいですなぁ、呪いの効力は……」
「バッチョ、こ、これ、呪い!? モンスターがいっぱい出てくるの!?」
「そうですよ。今のシロウさんはこのあたりのモンスターを誘惑して歩いてるも同然ですよ。うーん、怖」
 き。
 貴様ーーーーーー!!!!!! と、青空に声が響いた。



■ ■ ■ ■

next?