Rinda-Ring Lv2−13 武器を買いましょう |
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「ノアそのスピードブーツ、超似合うー」 「そう? そう? やだサラってばそのカモメの羽いいんじゃない!? 攻撃回数が増えるんですって」 「…………俺はこの、パワーグラブ買ってもいいかな……ってなんで俺、こんなに遠慮がちなんだろう」 「ほんとになんでなんだろう」 とニッコリしてシロウ君の胸に刺さった矢を指さすと、シロウは頭を落としてワゴンの中にグラブを戻した。 「やだ、買っても良いのよ。グラブぐらいなら」 ノアが手を振って優しげなことを口にした。 しかし、グラブしか買っちゃダメよ。て聞こえるのは私の耳のせいなんだろうか。 「海のイヤリング、空のイヤリング、大地のイヤリングだって。揃いで買うとなにかいいことあるかなぁ……一揃い150ゴールドなんだけど」 「聖水が捨て売りされてるよ。なんかあのゾンビ館で苦労したかと思うと悔しいなあー」 「ゾンビハウスに行ったの?」 ワゴンをのぞき込んでいた武闘家のお姉さんに話しかけられた。武闘家さんだ、武闘家さん! しかもたたずまいがレベル高そう。 「あ、えーと、ゾンビハウス? ……じゃなくて、ゴースト屋敷です」 「不眠姫のイベントのゴースト屋敷ね。あれクリアーした人いたんだ。私挑戦しようかと思ったけど、仲間がいやがってねー。他の不眠姫のイベントはいくつかこなしたんだけど、どれも結構難しいのよね」 「あの、不眠姫って誰ですか?」 武闘家さん、はノイエと名乗った。ノイエさんはチャイナ服を着ている。髪の毛はお団子にして、可愛い飾りをつけている。おしゃれでかつ防護力の高い服をちゃんと選び出すのも、結構難しいのかも。 「知らなかった!? あらごめんね。イベント書いてる人のことよー。ついでにゾンビハウスっていうのは北の関所の近くにある変な屋敷のことよ。敵がゾンビしか出てこないの!」 なんて恐ろしい。 とシロウの顔に書いてあった。話を聞いただけでたらりと汗を流している。 「ノイエさん、武闘家の装備品の、オススメの店とかありませんか?」 「それだったら三軒隣の『金の雄牛』店が一番! 特にこのナックルの品揃えが抜群なの。いってみるといいわよ。あ、その耳飾りいただき!! それじゃね!」 色々教えてもらってしまった。 そして私たちも会計をすませた。私のカモメの羽(120ゴールド)と、ノアのスピードブーツ(140ゴールド)、シロウのパワーグローブ(150ゴールド)。そして眠りのチャペル(40ゴールド)。戦いで使うと敵が寝てしまったりするらしい。ヒント虫三匹セット(30ゴールド)。旅やイベントで困ったときに瓶から解放すると、お礼にヒントをくれるらしい。役に立つかどうかは運次第。 一応デフォルトで虫は一匹憑いてるんだけど、これはヒントどころか役に立つことほとんどないからね。 さて、私たちは『金の雄牛』店に向かった。 |
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「いらっしゃい!」 私たちを迎えてくれたのは、ハゲ頭にもじゃもじゃ頭の、がたいのいい店長さんだった。もりもりした肩につぶらな瞳のサルがとまっているのはなんの冗談だろう。 「俺ぁケント。こいつはナビのククル。なんでも好きなもん買ってってくれ! 今なら5パーセント引きだぜ」 店内は武闘家用の防具武器で満ちあふれていた。 「牛のマークがすごくかっこいいね!」 背中に牛のマークがついた武道着とか、チャイナ服もいろいろそろっている。いろんな形、いろんな色。私が装備しているのは武闘家の胸当てだけど、服だけでこれより防護力が高いのがいっぱいある。 「これ可愛いなぁ! ……1万ゴールドか」 炎、冷気系の攻撃を20パーセントカット、防御力は私の胸当ての10倍ある……まぁ当然か。 「サラ、とりあえず防具より武器を見てみたら?」 言われるまでもなく! 武器が並んでいる一画へ突撃していった。武闘家の武器といったらナックル。ナックルですよ! 「嬢ちゃんナックルを買うのか? オススメはこれだぜ、ドラゴンナックル。錬金術師カーナの奴からむりやり買い取った一品だ。ときどき炎の攻撃が追加されるんだ。あとはビーズナックル。女の子に人気だが、攻撃力はイマイチだな。ニコニコナックル。ときどき敵が、ニッコリして反撃を忘れる。フォーリンナックル。一撃で竜を倒す力を持つ」 |
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基本は「ふつうのナックル」らしい。これが100ゴールド。それから効き目が上がるごとに値段が上がっていく。一番高いナックルは、チャンピオンナックル。世界の武闘家の憧れの的! 天下一決定戦の優勝商品でもある。優勝すればタダで手に入るが、店で買うときはなんと5万ゴールド。 「これ欲しいなっ!」 と振り返ってみてみるも、二人は違う方向を向いていた。 「うー……どれがいいかなぁ」 「………よく考えろ」 シロウの肩でモンタが言う。 「よく考えろって、それアドバイス!? あんたってハムは、なんかアドバイスがずれてんのよね」 「………ごめん」 謝られてしまうと罪悪感がつのるじゃないか……。うーんと、やっぱりお金があるんだから安いナックルじゃなくてもいいよね。やはり性能は値段に正比例するわけだからして。そしてデザインも、どれもこれも普通の形をしてて、イロモノ系の変なナックルはない。なんだろこの白いナックル。夢見がちなナックルというのも……運を天に預けすぎよね。それに空振りってものすごく腹立つし、少々必殺率が上がったところでとりたてて買いたいモノでもない。必殺か、空振りか、なら考えてもいいけど。風効果とか炎効果、とかいうのは、一番役立つんだろうけどなにか面白みがないじゃないか。ちょっと変わったものがいいなっ……と考えて頭の上のハチのことを思い出してちょっとブルーになった。 「うー、ううう、私、私は……」 「サラ?」 「特売品とか一回こっきりとかそういう品物にめちゃくちゃ弱いの! もう手に入らないと思ったらどんなへたれたアイテムだろうがゴミ防具だろうが思わず買ってしまいたくなるのよー!! ドラゴンナックルが欲しい!!」 シロウが後ずさった。そして、 「ドラゴンナックルかい、5パーセント引きで……1140ゴールドだぜ」 ケントさんはにやりと笑みを浮かべた。 私はなにも言わずに頭の上のハチをケントさんに差し向けた。 「………ううっ」 て、バッチョはケントさんの目の前でふらりとよろめいた(空中で)。ケントさんは目を丸くしてバッチョをのぞきこんだ。 「ど、どうしたんだい。ハチ型ナビゲータ? こりゃ珍しい」 「ううううっ」 「病気かい」 心配そうに尋ねてくれる。 「ボクは……あなたみたいに親切そうな方に会ったのは初めてです!」 「は」 「なんて素敵なおヒゲ! 完璧に整えられた形、あ、申し遅れましたがボクは世界ヒゲ認定委員会特別名誉会員付属代理予定のサルサコバッチョと申します。おおあなたこそは世の旅人たちが夢見る素敵な武器屋さん! 筋肉質! 笑顔! 歯がキラリと光ってる! ワァオボクはもうあなたの虜。シモベ。いいですか? いいですね、ほんとにもう、つきましてはそのドラゴンナックル少々値引きしていただきたい」 バッチョは六本の手を思う様開いてライトニングスマイルをたたえた。 ケントさんは目を点にしていた。そして、彼の肩に止まっていたサルのククル君が「キッ! しっかりする!」とサル流カラテパンチを決めたので、はっと意識を取り戻した。 「ううっ、なんだこのハチは? 値引きはできねぇぜ!」 「そこをなんとか〜、なんとか〜、なんとか〜〜」 「なんともならねぇ!」 「一度だけならあなたのことをダーリンと呼んでもいい」 「呼ばんでいいッ」 「ボクの秘密を知りたくなぁい?」 「いらん。おい嬢ちゃん、バカなハチはつかまえといてくれ。買うのか、買わねぇのか? 言っとくがドラゴンナックルはこの場限りの一点物だぜ」 はぁぁ。役に立たなかったか。 恨みがましい目で二人を見つめてみた。すると二人は、 「……いいわよ買っても。でももう防具はダメだからね!」 「俺も別に反対しない」 快く賛成してくれた! 買う、と宣言するとケントさんは満面の笑みになって、ありがとよっとナックルを渡してくれた。もちろん包装はしないのである。もともと装備してる武器はなかったから下取りもなし。 「しかしそのハチ、変なナビだなぁ……」 どうでもいい感想がおまけについてきた。そんなこと、そんなこと私が一番知ってるってのっ! |
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「俺は今のところ、防具はいいかな。次は……」 「マハドールギルド! マハドールギルドよ!」 ノアが燃えていた。 |