Rinda-Ring Lv2−15 猫は笑い人は泣く |
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猫はかっちんかっちんに凍りついてた。石になったというのはまじで灰色の石と化したという意味ではなくて、姿はそのまんまだけど硬直しきっているってことみたいだ。 「石化、といてあげる……?」 二人を見ると、シロウはうなづいたけど、ノアは考え込んでいた。 「なんかいやな予感がする」 「えー。私はしないけど」 「俺も……」 カンナが出てきて教えてくれた。 「石化を取るにはいろんな方法がありますけど。これも一種の呪いですけど、シロウさんのとは違って病気系ととらえられますから、えーと」 「俺のと違うの!?」 「シロウさんのは神罰系と思って下さい」 「罰って……」 「そういや暗黒教会だっけか? 行くの忘れてたね。黒ミサ見たかったなぁ〜、一回は行こうね」 「……ウン……」 カンナは説明を続ける。 「えーと、マップを見て下さいね。この通りには道具屋がありますね。道具屋、錬金術師が開いている個人商店だと思わぬ掘り出し商品があるかもしれません。普通の道具屋だと、えーと……解除トンカチとか、軟化ジュースとか、あまり安い商品とは言えないです。 後は法力で解く方法がありますけど、石化を解くのは祝福(ブレス)系の法力のレベル5ですね……ちなみに1は解毒、2はしびれを取る、3は気絶を目覚めさせる、4は上位解毒、5は石化解除。病気系呪いだと神官ががんばればいつか解くことができるんですけど、神罰系呪いは無理なんですよね。頑張って下さいね、シロウさん!」 「は、ははははは……」 シロウの肩でモンタが「がんば、れ……」とぴっとりとくっついている。そのぬくもりのためか、シロウはうっとむせび泣いている。 カチカチの猫は物言わぬまま。 マハドールギルドの店をさまざま通り抜けつつ……面白そうな店店を横目で見つつ、私たちは道具屋に行くことにした。 |
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「道具屋やまねこや」の扉をくぐり抜ける。なんか、やな名前のお店だこと。 「いらっしゃい。ヒヒヒ、ヒヒヒ」 と手をすりあわせているのは蛇みたいな顔をしたオヤジだった。店の中はあやしげな雰囲気につつまれている。なんだかお香がたかれていて、煙が立ちこめているし、壁には蛇だのトカゲだの、つりさげている。 そういえば店には種類があって、錬金術師が開いているのは個人商店、職人系職業の人たちが開いているのはギルド系商店だ。私がドラゴンナックルを買ったのは、ギルド系ね。錬金術師は個人の好みで値段を付けることができるけど、職人たちはできないことになっている。自分の店の商品の品揃えを何にするか、いかに安く売るか、宣伝して人に来てもらうかは……そこら辺が職人系職業に就く醍醐味というやつらしい。 ちなみに「宿屋さんになって、何が楽しいんだろう……」と悩んだものだけど、それはまあ、楽しいと思う人ならいいけど、上級職業にレベルアップするための条件だったりするみたい。 「今日はどんな商品をお求めで……」 「杖。凝った商品じゃないとイヤ。そして宝石。レアなのだと嬉しい」 ノアが店主の目をしろくろさせている。ホントにもう。 |
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「なんでこれだけ妙に高いのかな!!!」 バンバンカウンターを叩いても、店主びびりやしない。ヒヒヒと笑うだけ。 「もとは違う値段だったような気がするなぁ……うーん、でもギルドには逆らえないんだなァ……」 「それ、ギルドの通達で商品の値段を変えさせられたってこと?」 なんかいやな空気を感じる。悪者キャラが陰でげらげら笑ってるのが聞こえて来るみたい。笑ってなくても私の耳は聞いている。シャーリー、きさま!! 「うーん、私は一介の商人だしねぇ……」 「商人っていったらエチゴヤ! 彼はもっと親切だったような気がするわよ!!」 「エチゴヤ……?」 店主の目がきらりんと光った気がした。 「あなたたち、彼の友達?」 断じて違う。違うけど、野生のカンを働かせて首を縦に振ってみた。 おおー、だったらサービスせずにはいられないねぇー! て展開を希望していたんだけど、 「うーん……だったら絶対にサービスはしてあげられないなァ」 と言われてしまった。 「なんでっっ」 「だってもともとサービスする気ないし、私エチゴヤのことはあまり好きじゃないし、どちらかといったら五割増にしたいくらいだけど、それはひどいからやめとこうって思ったぐらいで」 「…………」 あの人徳のない男めが。 シロウは「くねくねを治すって、くねくねってなんだろうね」なんて悠長なこと言ってる。……あんたなら実体験できるんじゃないのう、なんて言わずにおいた。 「ありがとうございますぅ〜」 蛇顔で笑われて、見送られた。 |
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「ほらぁ、まだ二千ゴールドはあるんだから、杖は変えるって! ね、落ち込まないでよう」 「だから私、いやな予感してるって、言ってるでしょう……」 ノアをなだめつつ。シロウは今買ったばかりの軟化ジュースを猫の口にそそぎ込んだ。 カチカチだったその身体が、にょろりと柔らかく動く。ヒゲがぴくぴくと、足が軽やかに。猫は蝶のようにひらりとシロウの手の中から飛び出して床に着地した。 私、これはなにかイベントの一環だと思ってたんである。猫の石化さえ解ければすぐに次の段階に行くって……。 猫はとても賢そうに見えた。きらきらした目を、私たちに向けて、アリガトウだのなんだのと言ってくれるもんだと身構えていたところ、 「ニャア、ニャア〜ン!」 て。 翻訳すれば「ありがとよ!」だったんだろうか。一声鳴くなり、駆けだした。 私たち野良猫の石化を解くのに大枚はたくほどうるおってるわけじゃあない。 「お、追え〜〜!?」 追跡? いや、突撃開始だった。 |