イベント2 淑女は眠る、イバラの中 |
2−19 クラリーネ夫人 |
「みなさん、とりあえずお礼を申しあげます……ありがとうございます」 「や、その……まだ猫の身体なわけで、まだお礼を言ってもらうわけには」 「でも、魂だけでもようやく眠りから覚めることができました」 猫は蝶のように綺麗な動きでひらひらと歩いていく。 ジャンは気絶していたため愛しの姫君との再会を果たすことができなかった。アリーゼは小さな声で、行きましょうと言った。そのままジャンの屋敷を後にしたのだった。 「私の身体を解放するためには、お母様を見つける必要があります。私は呪いを受けたとき、きいていたのです。呪いを受けてしまわれたお母様……記憶を失い、今もどこかをさまよっていらっしゃるお母様。どこにいらっしゃるんでしょう」 「うーん……?」 ノアを見た。 「クラリーネさんは、あなたの宝石を持っているんですよね。オパール団もつけねらっているし。無事でしょうか」 ノアが問いかけると、アリーゼは悲しげにうつむいた。 |
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「まぁ、なんてこと……」 私たちは教会に向かった。そこにはシスター・セーラがいる。 「そうだったの。なんてこと……ああ、私はクラリーネに相談を受けていたのです。アリーゼのためだと思っていたけれど、この結婚をあの子は喜んでいないのかもしれない、と。でも結婚を断るためには恐ろしい額のお金が必要になる。そんなお金、このトルデッテにはありはしない。 彼女はお金のことで悩んでいたのです。そしてあなたが、敵の魔術師と一緒にかけおちすると思いこんだのね。それが全ての不幸のはじまりだったのかもしれない」 「………ごめんなさいシスターセーラ」 アリーゼはシスターの膝の上でこうべを下げた。 「わたくしは本当は、逃げたかったのです。お母様のお疑いは、間違いではないのです。わたくしは、貴族。この町のために生きるのが当たり前なのに。逃げたいと思ってしまったのです」 「いいえ、そんなこと、謝ることではないのですよ……」 豊かな声音でシスターは猫を抱きしめた。 「私の杖には、邪の呪いを解く力があります。クラリーネを見つけることができたら、この力でなんとかすることができるでしょうに」 「すみませんこの子の呪いもなんとかなりませんか」 感動的な場面に割り込むのはとてもとてもとてもとても気が引けた。でも、仕方ないじゃない! しかし気が引けてまで聞いてみたのに、セーラさんは首を振った。教会によって打ち込まれた呪いは、神罰でもある。それは解くことはできない、と。ほんとややこしい目に遭ってるんだなコレ。 「あのさ、みんな。俺考えたんだけど……」 「呪いのこと?」 「俺のじゃなくて。クラリーネさん……あのさ、町の入り口の看板のトコにいるあの目隠しした、ちょっと気味悪い女の人、あれってもしかして?」 |
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そ、れ、だ!!! みんな元気いっぱいになって立ち上がった。そして、教会を出ていく。私、ノア、シロウ、アリーゼ、そしてシスターセーラも。 あの気味悪い人、そうかそういうことだったんだ!! もう、そうに違いない。そうとしか考えられないよ。確かあのひと 「お金かしてください……」 て言ってたし。セーラさんは、クラリーネ夫人はお金に困ってたって言ったもんね。慰謝料かなぁ、ダイヤモンドもらったとかいうの、代金かなぁ。分かんないけど。 ……アリーゼは、どうなるんだろう? 全てが終わったら、ニーデルラントに、政略結婚の犠牲になる? ジャンは……まぁあのひとはちょっと間抜けぽいからおいておくとしてだ……。猫の姿で走っていく彼女を見ていた。 そして看板のところで。私たちは夫人を発見した! 「どうか……お金を貸してください」 「お母様!」 隠された両目。額の目玉の形をした意匠の飾り。セーラさんは杖を構えた。 「邪なる神々のいとわしき囁きに耳を、目を奪われし子羊よ。 聞け! 神の声を。見よ! 神の手を。すでにそなたは救われたり!!」 朗々と響き渡る声。 かっこいい……僧侶ってこんなかっこいいんだ。構えた杖から光がほとばしり、夫人の身体を包む。その光の中で、まがまがしいアクセサリーが砂と化す。布がはずれて閉じられていた両目が開く。 「ああっ………」 力無く倒れ、クラリーネ夫人は私たちを見上げた。 「あなたたちは」 「大丈夫、クラリーネ……」 セーラが慈愛のこもった声で問いかける。近づいていく猫がまさか娘とは、思いもせずクラリーネ夫人は額をおさえた。 「わたくし……なにを」 そして彼女は猫になった娘を抱いて号泣したのだった。 「泡沫の宝玉は……わたくしはもう、持っていないのです」 「それは、どこに?」 「城に。夫が持っています。恐ろしいことですが……わたくしは、結婚に反対するあの人に眠りの薬を飲ませました。全て、シャーリーの言うとおりに。あの人はいまだ目が覚めない……その手に、宝石を握らせたのです」 私たちが言葉を失ったときだった。 ―――そうだったのね。 突如空からこぼれてきた声に私たちは背筋を凍らせた。 見あげると、そこにはシャーリーの姿。空を飛んでいる。 「そうだったのね。遠回りをしたもんだわ……フフフ、宝玉はいただくわ!!」 そしてそのまま飛んでいく。 「ちょっ、待ってサラっち、ボクをぶつけても根本的解決にはならないよ! それはもうならないよ!!」 「とりあえず、城に向かって、ダッシュだよ!!」 私とバッチョのもめ事をおいて、シロウの声とともにみんな走り出した。 |