イベント2 淑女は眠る、イバラの中 |
2−21 コマンダー、サラ! |
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私たちはコマンド戦闘を選択した。そりゃもう、尻尾ネズミより手強い三人組とガチンコ勝負しても勝てそうにない。 くやしいんだけど。めっちゃくちゃくやしいんだけど! でも負ける方が悔しいんだもんね!! 「ふふふ……そう、思うように話がすすむと思うのは間違いよ!!」 シャーリーが言った。すると、がちーん! と身体が凍りつくような感覚がして、 「そこの間抜けな顔のお嬢さん! あなたがコマンダーよっ!!」 強制的にコマンダーにされてしまった……! ノアもシロウもものすごい心配そうに私を見てる。わ、私だって私が一番心配だってのー!! 戦略とか何歩も先を見るとかそういうの思い切り苦手! オセロでは目先のコマ取りに狂い、相手に簡単に四隅を取られるタイプです! 将棋では適当に動かしている飛車を歩で取られるタイプです! ポーカーフェイス、お前のは偽物だと評判です! とりあえず、戦略など苦手なわたしであります!! うわーん力強く叫んだところで人望が下がる一方だよ!! |
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逃げられないわけだ……。相手のコマンダーはシャーリー。にやにやしている。 戦うを選択する。アイテム……そういやアイテムなんて何使うのよ。薬草使うと体力回復できるのかなぁ。あ、そうだろうな。すると回復してる間に相手の攻撃は通用して、んで必殺だった場合シロウかノアは死んでしまうの……か? あれ、おかしくないこれ。 アイテムて、なんだろ。でもとりあえず戦うを選択! それ以外ない。 |
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あああ、うう、出てきたよ出てきたよ。ノアもシロウもそっくりな不安顔でこっち見てるよ。のりのりで君に決めたー! とか言いたいんだけど、つーか、もうなるようになれ、行ってしまえ私! 「ノア、君に決めたーーー!!」 |
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ノアがこっち見てる。選択しようとしてる私を見て、何か言おうとしてるけどコマンダーにはアドバイスは聞こえないんだよなー、まいったまいった。 あ、コマンダー窓見るの忘れてた。 するとほっとしたようにノアが胸をなで下ろした。 |
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なんかすごい気分を害するようなことが書いてある……。 てーか、イノシシて。イノシシ、今回のイベントにはいっぱいいるなぁー。なんか二匹つかまえたぞ、みたいな。なんて怒ってる場合じゃない。 シャーリーは緻密に戦略を練るタイプね。 ふーーーん。 とすると、私が最初に防御に出るとは思いつかないわよね。防御、とするとどうだっけ。敵が「攻撃」だと2Pくらって、「必殺」だとカウンターで3P与えることができるんだよね。防御はわりと悪くない選択よね。 いや、それ読まれてるかも知れない。裏をかかれるってやつ? つまり私は、イノシシ的に「必殺」を選択すればいいんじゃないか。相手は私がそのまま突撃していくとは思わないだろう。とすると……ククク、あの馬鹿面のなりきり門番一匹倒せちゃうじゃない? でも読まれてるかも知れない。 つまり真ん中をとって、普通に「攻撃」すればいいのよ。……でも相手がもし「必殺」を選択していたら。ノア、一撃死だよ。私も同じ目に遭わされたりしない? あああ、うううう、だから戦略はいやなんだよ。 もう、カンで! カンでてきとうにえらんでしまえば後腐れもない!! 「ノアー、必殺のダブル魔法でいけぇぇぇぇー!!」 ノアは杖を振りかざした。その長い詠唱。敵の門番が向かってくる。アレ、必殺? 攻撃、どっち!? ノアの身体がダメージを受ける。の、残り2P……てことは、 「ダブルファイアーー!」 杖から発生したふたつの炎が門番に向かっていく、そして、 「ぐおおおおおお兄者ああああ!!」 暑苦しいうめき声をたてて、門番はどさっと床に倒れた。 「やったぁやったぁ、イェイ!」 飛び上がって喜んだ。 でも、シャーリーはほくそ笑んでいた。い、いやな感じ…… |
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いちいち画面がここに戻る。面倒だな、戦うを選択。続いてはノアを選択。しかし次には…… 「ひっさぁぁぁつ、岩砕きボンバァァァーー!」 「ダブルファイヤーッッ」 お互いミスで終わった。シャーリーはほくそ笑んだまま。ノアの体力は残り2P。防御を二回続ければ死んでしまうし、攻撃が一度当たれば死んでしまう。相手はまだ5Pまるまる残ってるわけで……すごく不利なような気がしてくる。 敵は次なんの手で来る? なにを選択したらいいんだろう? うう、う。難しい…… 「ノア、ひらりと身をかわして!」 「弱気になったわね……そうくると、思ったわ。サムソン、攻撃よ!」 ああっ……! シャーリーは、展開を読んでいたのか。ノアは身をかわしたけど、敵の攻撃は残り体力をすべて削ってしまった。 ぱたり、とノアの身体が倒れる。 ば、ばか! わたしの馬鹿! もう一回シャーリーが必殺でくる可能性は、あんまり高くなかったよね? 攻撃でくるっぽかったし、だから必殺でいくべきで……するとノアも倒れたけど敵も倒れたんだよ。 ううう、難しい! ごめんノア!! |
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ああ、戦うを選択……そしてシロウ。ノアが選択できないからものすごく罪悪感に見舞われる。 「うふふ、自信を無くした子猫ちゃんね。次は、攻撃かしら。がむしゃらな一撃もいいんじゃなくて? 私はなにを選択するのかしら? 想像できる? うふふふ」 この、サディスト! むかつくよ!! 絶対倒してやるんだから。シロウとサムソン(ていうらしい)、5Pどうしで今のとこ同じ条件だけど……!! ああ、優勢だったのにダメにしてしまったんだわ。落ち込む……て、そんな場合じゃない。絶対勝たないといけないのに。 |
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「シロウ、攻撃ーーーっ!」 「サムソン、攻撃よ!!」 シロウとサムソンは剣と斧でお互いを攻撃した。3Pずつダメージ! お互い膝をつく。 どどど、どうしよう! 残り2Pしかないよ相手も同じだけど!! ここで防御したらさっきと同じ展開に……、必殺したら相手の防御にやられるかも知れないし。かといって普通攻撃は? ああ、どうなんだっけ。もうわけがわからない……。 |
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…………私は、アイテムを選択した。 もしかしたら回復できるのかな。と思ったら、選べるアイテムはひとつしかなかった。 コマンド戦闘用アイテム、というのしか選べないらしい。たとえば「つるっと足が滑るバナナ」を使って相手の攻撃を防御に変えたり。「突撃赤いマント」で無理矢理必殺を選択させたり。 そういうの、持ってなかったけど……でも、私のアイテムは、これだ!! 「突撃、子猫ちゃーん!!」 それはヴィクトリア。じゃなくてアリーゼ。白かった毛は金色になってたけど、小さな猫であることに変わりはない。そして、シャーリーは口をぽっかりと開けた。 「ぎ、ゃ、ああああああああっっ猫猫猫っ、猫よぉぉぉっ、いやぁこわい!」 わりとお前の方が怖い。 と思ったけど。いるよね、猫とか犬とか、いくらちっちゃくても怖がる人。きっと根元的な恐怖なのだろう。本気だもの。でも戦闘だから容赦しません。 「思いっきり甘えてきなさい!」 「サムソン、サムソン、なにしてるの……突撃よォォォ!」 そしてシャーリーは致命的な怒声を上げた。私はにやりと笑う。 「シロウ君、防御ねっ!」 そしてカウンター成立。サムソンはばたりと床に倒れ、コマンド戦闘、終了! サラの勝利に終わった!! |
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「嘘よ……嘘よ信じないわ」 シャーリーは床に手をついて叫んだ。ばん、と拳で叩いたところ彼女のオパールは砂になって消えていった。ああ、と悲しげにうめく。 「泡沫の宝玉……あの方の求められた、宝石。ああ、どうかお許しください、お許しください……!! ボルタスさま……」 「動くんじゃない。君は、教会に連れていく。そこで相応しい罰を受けるだろう」 そしてシャーリーに剣を突きつけたのは、 「ライナーさん!」 だった。彼はさわやかな笑みを浮かべたけど、シャーリーには油断ない視線をやった。がくりとシャーリーは肩を落とした。 「ああ、あなた……あなた!」 走ってやって来たのはクラリーネ夫人。豪華な寝台、さっきシャーリーたちがこじあけようとしていた手をとり、夫人はさめざめと泣いた。わりと自分が悪いんだけど、まぁそこはつっこむまい。 伯爵はこそげた頬をした、青い顔をしていた。そこに近づいたシスターセーラが法力を発揮する。すると伯爵はぴくぴくと震え、そして目を開けた。 「ふわぁ〜あ、なんだね。君たち……お、これはなんだ?」 伯爵の手からこぼれ落ちる石。それは、赤い光をもってはいなかったけれど、泡沫の宝玉だった。 |