RINDA RING  EVEMT03-01「地下に巣くうやつらの集会」



 がつーん、とおしりを打った。
「いて、ててて……」
「おしりが割れた!」
「悪いけどそんな古典的なギャグ、聞きたくないのよね」
 ノアが冷たく告げながら立ち上がった。衣擦れの音がする。

 壁にロウソクが並んでいる。ここは……地下道かな?
 どこかにつながってるみたい。
「キャンディーの時間なのじゃ!」
 壷の中の姫君は元気よくそんなことを言ってくれた。

「わっ、キャンディーがあと三つしかないよ。アイテム屋さんに行って仕入れないと。
上に上がれるかなあ」
「というか、どういう事態なのかなこれ」
「さあ……」

  私たちは道にそって歩き出した。
  地下道、か。
 虹の町の下にこんな場所があったなんて驚き。というかなんのためだろ?

「モンスターよ、気をつけて!」
 地下には地下らしく、ネズミ系のモンスターが巣くっていた。

 あぶない、ノアが手ひどい傷を負わされた!
「このっ……1、2、3、ファイアー!」
 怒ったノアの魔法がネズミを一匹焼きつくす。素早いからなかなか攻撃がヒットしない。私も数回に一度は失敗だ。シロウなんか三回に一回も当たってなくない?
 当たると一撃だけど。

「ノア、敵全員燃やしちゃってよ!」
「だめっ。こんな場所でMP浪費できない。どれだけ広いかも分かんないんだから。マップもないし」

 クールでシビアな子だこと。
 でも確かに魔法で楽をすると、後でしんどい思いをすることになる。魔力のなくなった魔法使いは、わりとモンスターに狙われちゃうから、防御しても防御しても 足りないくらい。
 回復アイテムもそろそろ心許ないくらいだし。

「暗黒神殿って、ろくでもないわね。こんなとこに落とすなんて、罠もいいとこ。善良な旅人に向かって」
「そうよそうよ。信心してるやつの気が知れないわ」
「俺だって好きで信仰してるわけじゃないし……だいたい、君たちがお布施に馬鹿高いゴールド費やしても俺、ぜんぜん文句言わなかっただろ!」
「今、言ってる。たった今、本音漏らした。馬鹿高いって思ってたんだ。無駄遣いだって思ってたんだ!」
  ノアが全力で絡むと、シロウはややひるんだ。
「お、思ってないけど……」
「そうなの? 私は馬鹿高いと思ってるけど」
「あのなあ、ノア!」

 ネズミは、「チーズのきれはし」というアイテムを落としてくれた。こういうアイテム、いちおう食べたら回復できるんだけど、全然食べたくないのは私だけじゃないよね。

 さて、地下道は分岐していない。まっすぐ進んでいく。
 やがて大きな扉にたどり着いた。
 その前に腕組みして立っているのは、レベル30は軽く超えてそうな巨漢。装備してるのは、大きな剣。グランド・ソードというオオトカゲを倒したときにもらえるという逸品。売ると2万ゴールドは固い、レアアイテムらしい。モンタが説明してくれた。

「シロウ」
「なんだよ、ノア」
「私が昔したことあるゲームでね、アイスソードっていうアイテムを見せびらかしてるキャラクタがいたの。
  そこでね、選択肢が出てくるの。
  →殺して奪う
って」
「リンダポイントが100超えるだろ!!!」

「何だお前たちは」
 シロウのつっこみを耳にした巨漢はこちらに気がついた。

 そこで、 選択肢が出てきた。



なんと答えますか?
→名乗るほどの者ではない
→自分たちを知らないとはモグリだな


 ええー。どうすればいいのこれ。
  ちらりと巨漢をうかがってみる。うーん、ゴリラみたい。下手な対応をして怒らせたら、私たちどうなるの。そうよそういやまた教会で祈ってくるの忘れたから、全滅したらお城に戻っちゃうんじゃない? すると、お姫様捜索隊の面々につかまって、そして牢屋に一直線。
「そうだよな、ここは謙虚に……」

とシロウが「名乗るほどのものではない」と言おうとしたとき。



「ぐわっはっはっはははは。俺たちを知らないとは、貴様さてはモグリだろう!
 強きをくじき、弱気をくじき、なにもかもを成敗する! 俺たちの背後には草一本なく俺たちの前には宝の山っ!! 俺たちは誉れも高きブルーリボン盗賊団だああっ」




  強制的な力がはたらいて、シロウは思いっきりそんな言葉を叫ぶことになった。
  はずかしいフリつきで。もちろん私たちも一緒にフリつけされている。


「わらわを連れていて、普通の選択肢が選べると思うな。ほほほほほほ」
  壷の中の姫君が顔だけ覗かせてそんなことを言った……言いやがったわこの、 桃姫っ!!




*******




「盗賊団か。ムーンローズでイベントを買ってきたのか?」
 しかし、巨漢は動じることなくそんな返事をくれた。

  は? ムーンローズ?

「いえ、あの、その」
  羞恥心と戦いつつ、シロウが答える。
「暗黒神殿のお姉さんに、ゾンビなんか嫌いだと叫んでみろと言われて……」
「ああ、そうか。
  奥の部屋に入るといい。 ボスから話があるだろう」

  そう言って彼は扉を開けてくれた。
「入るといい」
「あの……あまりこの状況がよく分かってないんですが、俺たち」
 すると、彼は肩をすくめて言った。

「入るといい」




 おじゃまします、なんて声をかけつつ中に入った。思ってたほど広い部屋ではなかった。学校の教室の、半分くらい? ビンとか箱とか転がってる。倉庫だったものを今はあらくれものたちが好きに使ってますという雰囲気。中にいたのは5人くらい。いずれも冒険者たちだ。みな、武器をもっている。

「お前たち、何者だ」

  あらくれものたち、一見して「シーフ」と分かる男が彼らのリーダーらしかった。
「アリッサが例の通り道を通したやつらだ」
 扉の番をしていた彼が、私たちの代わりに答えてくれた。開け放した扉板に背をかけたまま。

「アリッサめ、こんなガキどもをつれてくるとは……目が曇ったな」
 なんですって。なんて怒る気もわかない。


「ひとまずそのソファに座って、ひとやすみしたらどう?
  モンスターがいたでしょ?」
  女シーフにソファをすすめられた。
  うーん、と。「ひとやすみ」するとHPが20パーセントとMPが40パーセント回復するのよね。魔法のかけられたソファとかベンチとかに座ると得られる効果だ。
  ありがたく好意に甘えることにした。


「 なんなんだろ、これ。イベントかな?」
「そうだと思う……」

 私たちドラゴンのタマゴを取りに来たはずなのに。なに。なんなのこれ。
 混乱のままイベントウィンドウを立ち上げてみる。

進行中のイベント
「姫君のお願い」 (推奨レベル?)
  「一度お外を見てみたい……」
  可憐な姫君の願いを受け、彼女をお外に連れだそう!!素敵な冒険、華麗なドキドキ、ファンタジックドラマが姫を待っている!
  ……期限は姫が満足するまでなのじゃ!
  「騎士ユリアに狙われる」 (推奨レベル15)
  姫君アリエッタを思う騎士ユリアは勢い余って決闘を申し込んでくる! 彼女に捕まって会話を交わすと強制的に決闘イベントになります。
「竜の巣に潜り込み、色の違う卵を盗んできてたもれ」 (推奨レベル?)
  その巣穴があるのは、虹の谷。奥に眠る蒼い竜ガルディエントは聖なる瞳を持つといいます。その目に射抜かれた者は、己の邪悪さに絶望して死ぬ、と。その巣の中にある「色の違う卵」をもってきてください。
  「地下道のアジトに集うもの」 (???)
  虹の町クールデルタの地下には、彼らのアジトがあった。さあ彼らがどんな提案をするのか??(シナリオ進行中)
「し、しばらく見てなかったらこんなことになってるよー」
  おののいてウィンドウを差すと、ふたりもどれどれとウィンドウを覗いた。そしてふたりそろって「げっ」という顔になった。
「騎士ユリアに狙われる、はお姫様イベントから派生したものみたいね。そして 「地下道のアジトに巣くうものたち」も「タマゴ」イベントから派生してるみたい…… だから別に、脇道にそれたりとか、無駄にイベント発生させまくってにっちもさっちもいかなくなってるわけじゃ、ないのね」
「よかったー! ぜんぜんついていけなくて混乱してたけど」
「じゃ、話を聞いてみようか」
  ひとやすみ、を終了させた。ちなみに何度「ひとやすみ」しても、 回復は最初の一回のみ有効だ。

  アジトのリーダーは、ジェイドと名乗った。 



*******




「この虹の町クールデルタには、 憎むべき敵がいる。民から税を絞りとり、贅沢な暮らしをしている……やつ、 ミュンヒハウゼンを倒すまでは、この町に夜明けはこない。虹の町に、虹はかからないっ!!」

  ミュンヒハウゼン。
 ああ確か、この町に来たときに案内受けたわよね。銅像がたってた、すごくかっこいい騎士さまだったわ。

 ジェイドはこぶしをふりあげてミュンヒハウゼンの悪行を並べ立てている。舌鋒鋭く、熱い言葉。その話を聞いていると、この町を救うためには絶対にミュンヒハウゼンを倒すしかないという思いがふつふつとわいてくる。
 これは、レジスタンス。
 志すは、革命だ!

 けど……私たち、町のために戦ってる暇があるかどうかというと、ない、わよね。
 お姫様を連れ回していい 日数は限定されているし。 革命なんて起こしてたら、時限爆弾が破裂する。騎士ユリア様が追いついてきて、きっと私たちみじんぎりだわ。

「 協力、できない?」
「うん。ごめんなさい。悪いけど、私たち忙しくて……」
「……でも、君たち、この町から出て行くことはもうできないよ」

「はっ!?」

「この町には、呪いがかかっているの」
  説明してくれたのは、金髪の女の人だった。この人もシーフみたい。
「この町で一度でも宿屋に泊まったら、出て行くことができなくなる。 知らなかった?」


「泊まってないっ! 泊まってないから!!」
  ちくしょう、あの腹黒錬金術師が言ってたのはつまりこういうこと? あいつ知ってたのね、この町が冒険者ホイホイになってるってこと。それで中途半端なアドバイスよこしたってわけ。でも、だいじょうぶ。私たちまだ宿屋に泊まってないもんね!

「私がどうしてソファをすすめたと思う?」
  女シーフが目をきらりと輝かせながらそんなことを聞いた。

「……………………親切心、よね?」


  女シーフは、にたーりと笑ってゆっくり首をふった。
  ああ、もう。ジェイドがいやにさわやかな笑みを浮かべて。
「ともに戦おうじゃないか、同志よ! 」
と手を伸ばしてきた。


NEXT?



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