呪い……というべきなんだろう、これは。
ステータス欄には「※眠りにつくとランダムで虹の町クールデルタに帰還」とあるけど……
「帰還もなにもこんな町帰ってきたくねええええええ!!!」
と何十何百もの冒険者が叫んだ、らしい。
一度でもこの虹の町で眠りについた者は、他の場所で眠るとランダムで虹の町に戻ってきてしまうらしい。どこかの宿屋で、ダンジョンの中で、別の国で……そこがどこだって関係ない。
「でもさ、宿屋に泊まらなかったら戻らないってことだよね。戦闘中眠りにつくのは関係ないよね」
「ああ、私とシロウはMPないし、宿屋なんて泊まらなくても冒険はすすめられるよね」
「………………」
いついかなるときも薬草かじって、進んでいくそんな冒険者。
やだ。なんかしょっぱい。
それに魔法使いであるノアがいるんだもの。宿屋に全く泊まらないなんて、現実的な話じゃない……。
呪いをとく方法はある。ちゃんとそういう救済処置は用意されているらしい。でも、でもでも、数日かかる。
私たち、
この呪いをといて
竜の卵をゲットして
アリエッタ姫をちゃんとお城に戻す。
…………なんて。
ああっ、イベントが私たちを追いつめるっっっっ!!!
「難儀じゃのぅ〜」
姫君はシロウの背後のツボの中でにこにこしている。
「ここまで運の悪いパーティは初めて見たぞよ。愉快愉快」
「私、運悪くないもの! 悪いのはシロウだもん!!」
「おい、ちょ、それひどくないか!?」
「ケンカやめなさいってば。もー」
パーティの空気が悪くなりつつ……
私たちは目的の場所に向かった。
そう。まずは、情報収集。
行き当たりばったりの私たちだけど、今回は珍しくも情報を収集してみよう、ということになったのだ! ……や、言ってて哀しいな。これ。
悪人どものアジトは、罠にかけられたあと火を放ち、全てを焼きつくした。
といいたいところだけど、そのへんはちょっと我慢して、やつらの話をきくことにした。ああ私ってなんて大人なのかしら。
「この町はね、昔から呪いがかかっているのよ。
呪いはなんかすごい魔女? がかけたとか聞いたわ。うん、酒場で。この町おっきな酒場があるの。
酒場は、町の北西にあるからね」
シーフの女の人はそう言った。
ミュンヒハウゼンを打倒するためには、どうするの? と言ったけど……
「うーん。そういう面倒なことはジェイドに聞いてー」
と返ってきた。
「時代を変えようじゃないか!」
ジェイドさんは、なんつーか、目がイッてる。情熱的なところはいいかもしれないけど、人の話聞いてない。こっちが何言っても自分の話したいことしか話さない。
「ミュンヒハウゼンは、きっとこの町の呪いと関係があると、俺はみている! その情報をつかんだら、俺に教えてくれ!」
はーー。
んなことしてる場合じゃないんだよ! 竜に姫様に宝石に追っ手に呪いに、こっちの予定はてんこもりだよ!
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なんて言いつつ。まあ、落ち着かないとね。
虹の町は、呪いがかかっているためか通る人の元気がないような気がした。
「一つ解いたらまた一つ……シロウ、あなたやっぱり呪いをコンプリートするつもりじゃないでしょうね? やーよそんなのにつきあうの」
「なんだよ、俺君が宝石コンプリートするとか言っても止めないだろ!」
「ええっやっぱり集める気なの、呪い」
「集めないけどさあああ!!」
「不憫な上に空気のすさんだパーティじゃのー。シロウや、そろそろキャンディの時間ではないだろうかの」
「あ、はいはい。これ……うわっ、キャンディ最後の一つだ! 買いに行かないと」
あんだけぱくぱく食ってりゃそりゃ在庫も尽きるわな。
看板にはってある、クールデルタの地図を見直すと……この町、円の形をしてるのね。町の四方に噴水があるらしい。
入り口は北東、北西、南東、南西、私たちが入ってきたのは南東のドーナツ門。
中央にミュンヒハウゼンの銅像が建ってる広場がある。この広場、東西南北に4つも噴水がある。その広場をドーナツ状に取り囲むようにレンガの道がある。
北にミュンヒハウゼンのお屋敷。西に悪神信仰の教会があり、東に善神信仰の教会がある。
南に市場、いろんなお店が集まってる。錬金術師の珍しいアイテムとか、安売りとか狙うならここに行くといいみたい。市場から東が武器関係、西が防具関係。魔法関係は北東に、施設関係は北西にあるとか……。
「サラっち〜、そういえばマッピングに便利なドロー機能がついたんだヨ」
ハチがぶーんと飛んできてそんなことを言った。
「ドロー機能? カードを引くとなにかいいことが?」
「ちょ、あんたなんでそう発想が間違ってるの? ドローといったらお絵かき機能だよ☆」
お絵かき機能……。へえ、そんなものが。
とりあえず簡単に絵を描いてみることにした。
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※本人の名誉のため小さめの画像になっております
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「あーん私ちょっぴり絵がへたなのよねー」
といって地図を披露してみたならば、
「ぐはははははは
ぶははははははは
どははははははは」
ハチは笑って去っていった。
「サラ、あなたは絵を描かない方が良いと思う」
ノアまで涙目だ。笑いの。
「うん、わかりやすくていいんじゃないかな。なんていうか……そうだね、『施設』がひらがなになってるあたりが親切かな……」
いらんフォローしやがって、シロウのやつ。
ドロー機能を使ってノアがとても綺麗なマップを書いてくれた。この子になにもかもまかせるとしよう。そうよ、地上40階建ての塔とか攻略に数日かかる巨大洞窟も、ぜんぶぜーーんぶこの子に任せたらいいんだあ!! |
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まずは市場に向かった。お姫様のキャンディを補充しないとね。こんなの安売りしてるアメで十分なのよ。味も多彩なものにせず、てきとーに……
青空市場か。
市場は盛況とか言い難い現状だった。ゴザを敷いた上に人が座ってて、ぼんやりと商品を並べている。
「おなべあります」
と書かれている。何に使うのお鍋って。
「お料理関係のスキルがあると、戦闘中にアイテムとして使えますよ。
あとはハンター系の職業に就いていたら、サバイバル武器としても使えます」
とカンナが解説してくれた。
ま、今は私たちには関係のないアイテム。
あっと、お菓子関係のアイテムを売ってる店を発見。
「あ、こんにちは……こんなものでよろしければ……買ってください」
「こんにちはー」
売ってるのはなんだか元気のない女の人だった。なんでもお店を開くためにこの町にやってきたのに、呪いにかかってアイテムゲットの旅にも出られない状況らしい。
「善神教会に行って、一万ゴールド払えば呪いを解いてくれるらしいんですけども〜〜、でもそんなお金到底……うううっ」
うわっ、教会にそんなサービスが。
私たちだってそんな、一万ゴールドをみすみす呪い消しなんかに使いたくないわよ!!
「アメは、これです……あとこれ」
普通のイチゴ味のアメ。そして……
「根性試しキャンディ。味はヒミツ……?
これください、是非ください、絶対ください」
速攻で買ってしまった。ちなみにシロウは気づいてない。ノアが気づいて、にやりと笑った。
「あうう、60ゴールドになりますー。あの、イチゴタルトはいかがですか。チーズケーキもあるんですよ。どうかお願いもう少し何か買ってってええええ」
すがりつかれて、イチゴタルトを買ってしまった。戦闘中に使うとまれに魔力が回復するらしい。
「そうねー、魔力回復系のアイテムはもっておくべきよね。呪いつきでダンジョンに行くことになったら、私の魔力回復するために眠ることができないもの。ランダムで町に戻っちゃうから。
今回、ラスボス相手じゃない限り、私は魔力を温存することになるわね」
「え!? あ、そっか。そうよね……なんか暗くなるね。やっぱり呪いはダメだよシロウ」
「集めないから……」
市場を出た。それから町をぐるっと反時計回りにまわると、武器屋関係の地帯になる。
私の「ドラゴンナックル」と、シロウの「固い鉄の剣」の耐久度を高めておくのも悪くないだろう、と店に入って依頼すると、
「はーい、武器渡してね。しばらくしたら戻ってきてー」
とひげのおじさんに言われた。
「ドラゴンのとこに行くのよね、私たち……。と思うと、もしかして耐久度高めるより、シロウには新しい剣を買った方が良かったかなあ」
「うーん、この町あんまりいい武器ないみたいだ。だから武器を変えなくてもいいと思う。それに、どんないい武器もってもドラゴンにかなう気しないんだけど、俺……」
「………………」
「………………」
そうよねえ。
でもとりあえず、なんか別の戦い方があるかもしれないし、ドラゴンの所にたどり着くことができるくらいの装備を調えておくことにしよう。 |