さて。
これから、私たちのすることするべきことは、竜の洞窟に行って卵を取ってくることだ。
姫様から解放されないといけないし。キャンディー代もまじでばかにならない……時間がたてばたつほど、私たちの体力じゃなくて財布のほうに大打撃がくるのよ。冒険してると痛感するんだけど、お金って大事よね。
だけど。
「うううーーーーん。
ねえ、みんな、提案なんだけど」
「なに?」
「あいつらの会話、気になるからさ。盗み聞きしに行かない?」
私の画期的な提案を聞いて、二人は固まった。
「待ってくれよサラ! そんなお茶しようって感じで軽く言われても! リンダポイントが上がる気がするし、それに見つかったら俺たちどうなるんだよ!」
姫はシロウの背中のつぼの中でゆっくりお休みだ。空気中に「ZZZZZZ」の文字が飛んでいる。
「大丈夫。さっき部屋の中観察したけど、柱と屏風があるから、入り込んでもばれないわ。
タイミング見計らって、入りこんじゃおう」
「そうねー。なんか未消化だし。気になるわよね、確かに」
ノアがのった。
「盗み聞きしよう」
「しよう」
「そういうことになった」
「そういうことになった、じゃないっっ!!」
シロウの説得も私たちには届かなかった。いやー、この子悪神信仰の癖に私たちより常識的? わはは。
「汝もワルよの〜〜」
ハチがささやきかけてくる。
「仕方ないよ。だって、なんか気持ち悪いんだもん。
あのミュンヒハウゼン。私のカンでは悪玉なのよね! 絶対しっぽをつかんでやるわ。
……あれ、どうしたのカンナ」
カンナは汗をかいている。問いかけると、ぴるぴる耳を振った。
「あううう……」
「止めたってダメよ? あ、でもリンダポイントが上がるなら、上がる前に教えてね」
ノアが言うと、
「えーーと、今回の場合あがりません」
「なんで?」
カンナはうなっていたが、
「ホントなら『忍び込みますか?』ってウィンドウが立ち上がる予定だったんだよ〜。
だけどその前にサラっちが提案しちゃったってわけだよ☆」
バッチョが言った。ものすんごく嬉しそうに……!!!
それを聞いたノアとシロウが爆笑する。
「なんだ心配して損した!」
「ほんとー」
ノア、あんた心配なんてしてなかったくせに! でも。ちょっとだけ、ショックを受けた。
「サラさん……なんてうすよごれた発想を!」
「うすよごれって、なによそれぇ!!」
「カンナ、とどめをさすのはやめてあげて?」
ノアが庇ってんだか庇ってないんだか……しかし、カンナの澄んだ瞳がつらかった。 |
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頭の上に乗ってくるハチを叩き落としつつ、私たちはミュンヒハウゼンの部屋の扉の前に立った。
そうっと、そうっと扉を開ける……目の前にあるのは、屏風。部屋の中からはそれが邪魔になって侵入者が扉を開けていても見えない仕様になっている。
防犯的にどうかと思うけど、侵入イベントを起こすための部屋なんだから、屏風のひとつやふたつやみっつは当たり前に取り揃えてあるわけだ。
この部屋は横長の長方形の形をしている。結構広い。大広間とまではいかないけれど、東西の壁に二人立てば、相手がわりと小さく見えるくらい離れている。
南側中央に、今私たちが入ってきた扉がある。目の前の屏風があり、左と右どっちにも進めるけど。
ミュンヒハウゼンがいる位置は北東。西向きに座って、あの神父とおしゃべりしているだろう。そこがゴールだ。確か、椅子の周辺に観葉植物みたいなのがおいてあったから、そのへんまで行けば盗み聞きできるんじゃないかしら。
で、私たちはそーーっと部屋の中をのぞいた。
メイドのルルはほうきをもって掃除中だ。くるくると目線の向く方向が変わる。
ミュンヒハウゼンと神父は向こうで話している。もちろん内容は聞こえない。時々笑ったりしているけど、基本的に深刻そうなイメージかな。
屏風が並んでいる。こちらからA、B、C、D、Eとする。屏風の裏に三人ぴったりくっついてしゃがめば、彼らの視界からは見えなくなるみたい。
タイミングを見計らって移動しないと、ルルに発見される。発見された後はどうなるか……ううん、考えたくないよ。
「サラだけが挑戦するって、ダメなの? 一番すばやいし」
ノアがカンナに質問してる。カンナはぷるぷる首を振った。
「パーティは一蓮托生です。一緒に挑戦してください」
「ナビとプレイヤーも、一心同体なんだヨ☆」
私の頭の上のハチも好きなことを言ってる。お前と一心になったことはない。同体は、まあこの頭の上に住んでる状態がそうだと言えなくもない。しかし心はとっても遠い。
「しどいっっっっっ」
私たちは、スタート地点からダッシュを開始した。
まず、A地点に到達。ルルの視線の方向は、一定のタイミングで変わる。だからしばらく彼女の様子を眺めた後、移動する。
パーティが一蓮托生とは言え、三人でいっせいに移動しなくてもいいみたい。
ただしA地点に三人で到達しなければ、B地点にいくことが出来ない。ルルがB地点に移動するルートを頻繁に見るからだ。
「おそうじ、おそうじ、ルンルンルン……」
ルルは気ままな鼻歌を歌いながら部屋を掃いている。
「あのさー」
「なに?」
「私さ、あんな鼻歌うたってるやつ、わりと許せない」
シロウが屏風Aに到達する前にずっこけかけた。足元に人形が転がっていたのも悪かった。
「笑わせるなよ!」
怒られた。
「あ、でも歌……ちょっと集中してきいてみて」
ノアが私たちを制した。んんん?
「もしかしたら……」
「おそうじ、おそうじ、ランラララー♪」
ターン。
「おそうじ、おそうじ、フンフンフーーン♪」
しゃがみ。
「おそうじ、おそうじ、タラリラリーン♪」
視点固定。
そしてルンルンルン、は動作継続……
ルルの歌と動きには密接な関係があることを、ノアが発見した。
後は歌を聞きつつ、次の動作を予測すればいいってことよ!
AからBに行くのはタイミングをみて、結構簡単だった。しかし問題はそれからだった。
行くのは私が最初、次にシロウ、最後にノア。ノアはルルの視線の方向をみて、私たちに指示を出すのだ。しかし、C地点に行くのには、ルルはそっちへ4秒おきに視線をやるのだ。
C地点までは、5歩程度の距離。私なら2秒。シロウは4秒。ノアは5秒かかる。つまり、どうやってもノアが引っかかってしまう。
「私を置いていって、ですめばよかったんだけど。
三人一緒じゃないとダメなのよね……」
あああ、ルルがにくい。
「おそうじおそうじタラリラリーン」
あれ?
シロウがじっとルルを眺めている。その手に、さっき転びかけた原因となった、人形がある。
それ、もしかして、アイテム?
「ちょっとシロウ、それ貸して」
「え? なんだこれ」
無意識で持ってたのか。まあ、いいや。
それはなんの変哲もない人形だった。
私は、それを。
試しに思いっきりルルに投げつけてみた。
どっかーんとそれはルルの後頭部に衝突し、ルルはほうきを持ったまま前のめりに倒れた。
「!!!!!?????」
ルルの周囲に記号が飛んでいる。
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「サラさんっ、なんて乱暴な。それは床にそっと置くだけでいいんですーーーーっ」
カンナが騒ぐ。ほほう。
「せっかく掃除してるのに、こんなのがあったら台無しだわ」
ルルが人形を握って層つぶやく。
そしてぽーーいと人形を背後に向かって投げ捨てた。山形の起動を描いて、人形は屏風Aの裏に落ちた。つまり、元の位置に。
「グッジョブよサラ!
今ルルは人形に集中してた。つまり、サラとシロウが先に屏風Cに行って、次に私が挑戦するタイミングで人形を投げつければいいのよ!」
「あ、なるほど」
「サラ……そうなることを見越して人形投げつけたんじゃないのか……?」
「やあね、もちろんそうに決まってるじゃない! 当然よ!」
私がいくら肯定しても、シロウは疑惑の眼差しだった。
A地点まで人形を取りに行く。それは私一人が往復すればいいことだった。
そして、人形を使って全員C地点に到達ことができた!
「わーーい、そうだ念のために私だけ最初のとこ戻って人形とってこようか?」
提案したけど、
「無理ですう」
とカンナに止められた。
なんでも移動できる範囲は、A←→B、B←→C、C←→D、D←→Eで。
一人でCからAに戻るのは無理らしい。全員で戻るのは、いけるらしいけど。(行くより戻る方が難易度低めに設定されているらしい)だから人形をゲットしてここまで戻ってくるのは無理なのだ。
「まあいいか。仕方ないや、……?」
そして、私はB地点に釘付けになった。
赤地に金のラインの入った、豪華そうな箱。あれ。あれって。
「あれ、宝箱じゃない!?」
私が騒いで指さすと、二人もそっちを見た。
「あ、ほんとだ」
C地点からB地点までは簡単にいくことができる。もはや宝箱をゲットしてくれといわんばかりの。
「私、開けるね!」
「ちょっと待ってサラ! そんな分かりやすい罠……」
三人でB地点に着いたとき、私はあっさり宝箱を開けた。たぶん、薬草とか、あるいは次の地点に行くためのお役立ちアイテムがあると思ったのよね。うん、まさか。
ウーーーウーーーーーウーーーーーウーーーーって、部屋中に轟き渡る警報が鳴り出すなんて。
まるで消防車。耳をふさがずにはいられない。そして私たちは、ルルがゆっくりとこちらを見、
「侵入者……」
とつぶやくのを見た。
あと2回 という文字が視界に広がり、そして……
そして、私たちはスタート地点に戻されたのだった。
よかった、いきなり戦闘とか追っ手がついたりとかそんな嫌な展開にならなくてーっ! ただでさえ追っ手ついてるのにこれ以上増えたら。
「サ〜〜ラ〜〜」
「ああ、ふたりとも怖い顔っ! やだごめんってば、怒らないでよう」
「ばか! 宝箱をなんの相談もなく開ける人がいる!? もしトラップだったらどうするつもりなのよ実際トラップだったわけだけど!」
「そうだよ、危ないだろ。こんな場所にある宝箱なんて、怪しいじゃないか。まさかこんなとこに伝説の武器があるわけもないし。いいとこミュンヒハウゼン写真集くらいだろ!」
「や、やだそんなの。見たくないよ〜」
「反省しなさい!!」
てんこもり怒られた。
まああれはトラップだったわけだ。
B地点に到達して安心しているプレイヤーを陥れようとする悪辣な……!! はまあおいといて、気になるのはあと2回の文字。もしかして後2回失敗したらこのイベント失敗ってことになっちゃうの?
「そうなんじゃない? みんな、気を引き締めていきましょ!」
と気勢を上げたノア。
彼女が次の失敗者だった。
C地点に行くために、人形を投げる。後はノアが走ってくるだけ。
そしてノアは、BからCに来るその中間地点で、
「きゃあ!」
派手に転んだのだ。
もちろんルルはこちらを向く。そして、さっきと同じく
「侵入者……」
とつぶやいた。
あと1回、の文字を見てから私たちはスタート地点に戻らされた。
「……ごめんなさい」
ノアがとっても反省している。
「いいじゃんいいじゃん、ドジっ子魔法使いって、結構希少価値だヨ!?」
ぶーーんと飛び回りつつバッチョが意味のわからんフォローを入れる。私はハチの尻をむんずとつかむと床に投げつけた。
「ま。いいよね」
「そうだよ、問題は」
シロウは泣き笑いみたいな顔をしている。
「次失敗するとしたら俺じゃないかなーと思うんだよ。
で、俺が失敗したらきっとひどいことになるんじゃないかと……」
その言葉を聞いて私とノアが凍り付く。
「そ、そんなこと、ない……よ?」
スライム並に弱いフォローになってしまった。
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