RINDA RING  EVEMT03-09「盗み聞きします」



 まあ、そんなこんなで、私たちは盗み聞きポイントまでたどり着いた。
 シロウは特になにも失敗しなかったけど、
「次はカタストロフが起こるんだ」
なんて自虐思考にはまっている。そこにノアが
「そうよねー。サンダーソードなんて手に入れちゃったくらいだもの、次は悪いことが起こるターンよね」
言っちゃったりするわけで、あああツボが似合いの戦士様が、ドツボにはまってる……なんて。ぷっと笑ったら、

「あんたぁサイアクだぁ」

とハチにささやかれて驚きの余りハチを握りしめ床にたたきつけ踏みにじり地面に同化させるところだった。

「しぃっ、サラ、騒がないでよ。見つかっちゃう」
 怒られてしまった。


 ミュンヒハウゼンとパーマー神父は、ひそひそと話している。
 いかにも悪い奴らの秘密会議と言った感じ。
 レジスタンスの面々は、こいつらを敵と見定めてるけど、いかにも……だね。なんというか証拠が無くても分かる。絶対こいつら犯人だもん。

「サラは探偵向いてないね……」
「なによ。結構カンはいいのよ」
「R-R社のゲームに、推理ものがあるんだけど。探偵になって事件解決するやつ」
とシロウが「ファンタジーに相応しくない」会話を始めそうになったところで、モンタが止めた。モンタっていいよね、もふもふしてて。
 それはともかく。こいつらの会話だ。




*******




「レジスタンスのやつらは、怪しげな活動をはじめています。
 そろそろこの屋敷に攻め入ってくるかも知れませんな」
「そんなことになったら、困るよのう〜。
 のう、パーマー。そなた、戦えるのかの?」
「……私は神父ですから、回復はお任せください」
「といってものう〜。まろも、そろそろ平和主義として、のんびり生きていきたいと思っておる……そのためには、この町にかけられた呪いをなんとかしなければならないんじゃろう……。
 しかしのう……、困ったのう……。

 ガルディエントはまろと会話をしようとせんし。
 うかつにやつの巣に踏み込めば、戦闘になる。
 そうすれば、地下にいるあやつの牢屋が崩れてしまうかもしれん。
 あの洞窟、ちょっと地盤がゆるくなっておるから」
「困りましたな。
 そもそもガルディエントが怒り狂っているのは、我々がタマゴを奪ったから。
 ……そのタマゴを渡せば、きっと怒りも解けるでしょうが」
「タマゴはあやつが持っておる……。うむむむむ。どうすればいいのかのう〜。
 このままずーっと、町が呪われ続けていたら、まろたちの運命も危うくなってしまうし……」
「あの男は地下迷宮の中にいるのでしょう?
 でしたら乗り込んでいき、やつを倒し、タマゴを取り上げたらよろしいのでは。
 あの男とて、交渉の道具としてタマゴを使おうとしているのでしょう。本気でタマゴに執着しているわけでもありますまい。もしかしたら、説得に応じるかも……」
「むむむ、むりだ」
「なぜです、ミュンヒハウゼン様。
 どうしてあなたはあの男の説得に出向いてはくださらないのです」
「……な、なぜって……」
 だらだらと汗を流しながら、ミュンヒハウゼンは応えた。

「この身体で、あの洞窟に入ることができると……?」

「……………………」
 パーマーは長々と沈黙し。
「…………いささか難しいでしょうな」
と無難な返事をしたのだった。

「呪いがとけたらとけたで、また厄介なのじゃ。
ガルディエントは正気を失っておる。爆発的な力をため込んでいる……噴火前の火山のように。
 竜はゴーストを作る。呪いを解けば、そのゴーストが、町に襲いかかってくるだろう。『虹の町竜に襲われ壊滅』なんて事態になってしまったら……まろは……まろは……。
 きっと王様の使いが来て、牢屋に入れられてしまうのじゃ。
 もう、ほんとに八方ふさがりなのじゃよ。パーマー」

 ふたりは長〜く暗〜いため息をついた。それはまさにため息ハーモニー。行き詰まった男たちの、悲しい二重奏だった。
 メイドのルルが時間を告げにやってきた。
 パーマーはやや元気なく、

「しかしレジスタンスのやつらをなんとかしなければなりませんぞ、ミュンヒハウゼン殿」
「ん〜。んんんん〜。
 そうじゃのう。だったらまろの兵をさしむけて、全滅させちゃうというのは、どうかのう」
「まあそれがよろしいでしょうな。
 二度と反抗しようなどと思わぬよう、叩きのめしてしまうとよろしいでしょう」
「しかしまろの兵たち、今東の洞窟にゴブリン退治に行ってるからのう。帰ってくるのは1日後じゃのう」
「それで十分。レジスタンスたちが決起したところを、完膚無きまでに、倒してしまいましょう。
 微力ながら教会で使っている者たちもお貸しします」

 会話がうさんくさくなってきたぞー。
 そしてパーマーはまた来ます、と言い残して部屋を出て行った。





*******




「のう、ルル……」
「はい、ミュンヒハウゼン様」
「この町とまろは、いつまでもつかのう……?」
 ルルは困ったように首をかしげる。返事ができないようだ。するとミュンヒハウゼンは
「…………さがってよろしい」
と告げた。


 私たちも、もちろん声をかけることなく部屋を出て行ったのだった。


 ミュンヒハウゼン邸から離れて、ようやく息をついた。
「うう。謎が増えたね……」
 町の呪いは、ガルディエントによるものだとか。
 ガルディエントは怒ってるとか、嬉しくない情報が増えたし。

 んで、洞窟の中の「あの男」てなんなんだろ!? ミュンヒハウゼンが閉じこめてるってことは……。

「黒衣の魔道師……? なのかなあ」
「でもそいつはミュンヒハウゼンが倒したとか言ってなかった?」
「だよねえ。黒衣の魔道師がほれた相手の旅人? かなあ」
「なんか、その旅人さんを加護していたのが虹の谷の竜とか言ってたわよね。それって、ガルディエントのことよね。で、この町を呪っているのもガルディエントよね……」
「うーん、そのへんはもう推理できない領域に思えるな」
「そうね。もうこれは、行き当たりばったり行くしかないわね、きっと。
……竜の洞窟、行きましょ」

 ノアはまるで、東の草原でスライム倒して経験値稼ぎましょ、みたいな気軽さで、言った。

「…………えーーーーっと。
 もう、情報収集、終わり?」
「これ以上は時間制限もあることだし。躊躇してても仕方ないわ。
レベルが足りないかも知れないけれど。そのときは、洞窟で回復できる場所見つけて、しばらく籠もってレベル上げすればいいのよ」
「そうだなあ。
 でも、回復アイテムだけ買いだめしていこう。ツボもあるし、もてるだけアイテム買っていこう!」

 ああ、シロウも乗り気になっちゃった。
 でも、そうだよね。確かに、躊躇しててもしかたない!


「行っちゃおうか、竜の洞窟ーー!」

 三人で、おー! と声を合わせた。



NEXT?



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