虹の谷に向かう前に、
「レジスタンスに危険を伝えますか?
→伝える
→伝えない」
という選択窓が立ち上がった。
町の入り口のところに、レジスタンスのメンバーたちが集ってたあの場所でみかけた、女の人が立っている。彼女はこちらをちらちら気にしつつ、話しかけてこられるのを待っているような感じ。
「どうする?」
「伝えた方がいいんじゃない?」
「そうね。洞窟から帰ってきたらかれらが全滅していた……なんて後味悪すぎるわ。教えてあげましょ」
ノアの言葉に具体的な想像がふくらんでしまった……うう。伝えるわよ!
「あらー。あんたたち。これからお出かけ?」
気をつけてね……え?
………………
そんなことがあったの?
へえー。わざわざ教えてくれるなんて……ま、レジスタンスとして当然のことかもしれないけど。礼は言っておくわ。ありがとう!
じゃこれから対策会議だわ。来る?」
「対策会議に
→行く
→行かない」
という窓が立ち上がる。
「会議、出るう……?」
「時間かからないならいいけど。うーん、でもなんか変な役目負わされても困るわ。ミュンヒハウゼンの屋敷を見張っておけ! 強制! みたいなことになったら」
「そうだな、じゃやめとこう」
シロウが、行かないを選択する。
すると女の人は「せっかく会議なのに……ぶつぶつ」と文句を言いつつ、去っていった。
「あの人、私たちにこの町の呪いおっかぶせた人じゃない?」
「ああ、思い切りベンチすすめてくれた人だよね」
「ふんだ。なんでわざわざ同意もしてないレジスタンスの、つまんなそーな会議に出ないといけないのよ。これから楽しい宝石ゲットの旅に出るんだから」
「…………もしかしてノア。竜の洞窟なんて、宝石の前にはかすんでる……?」
ノアはふっと笑った。
「このリングワールドにはね、『永遠迷宮』っていう変化し続けるダンジョンとか。空に上り詰めた後にジャンプして谷底に落ちる『世界で一番高い塔』とか、モンスターと延々100匹戦い続けることが義務づけられた、『格闘王の庭』とか、それはもう大変そうなダンジョンがいっぱいあるのよ」
「…………うん」
「それに比べたら!
洞窟? 竜?
シンプルきわまりないわ! なんの苦難も感じないわね!
知恵と勇気の前に、ドラゴンなんてねじ伏せちゃえばいいのようー!」
た、たのもしいー!
たのもしいのに、なんで涙が出ちゃうんだろう!?
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虹の谷に向かう道を、マップで確認しつつ。
私たちは外に出た。ホラー教会もまだある。でも、私たち別に消耗してないから、泊まる必要はない。教会の前に神父さんがホラーなたたずまいでおいでおいでしていたので、シロウの足が速くなった。
虹の洞窟までは、少し距離がある。
地形はちょっと荒れ気味。隆起が激しくて、なんか高原を竜の爪でひっかいたみたいになってる。
だんだん高くなっていくんだけど、やがて丘が見えてくるはず。
「ふむ。そなたら、わらわのキャンデーはちゃんと買っておいたようじゃのう。
よきかなよきかな」
「姫様〜。外の世界を見てみたいとか言ってたけど、こんな感じで満足したのかなあ?」
姫は余裕たっぷりにつぼのなかから外を眺めた。パノラマで、180度。
「そうじゃのう。
つまらぬのう。単なる丘陵山岳地帯じゃ!」
なにが丘陵山岳地帯か!!
拳を握っちゃいそうになる……いやいや。だめだめ。
「でも、世界は美しい。フーセンのような大男と、禿げてるくせにパーマーなんて名前の俗物の、下らぬ会話よりは楽しめる」
「あれ? 姫様寝てると思ったのに」
「ZZZZZZZZて言えば寝てることになるのじゃのう? うふふふ」
「……油断ならないなあ」
この地帯には、空飛ぶ敵が出てきた。
しかも嬉しくないことに、ワイパーン! 翼竜だ。ミニワイパーンが一匹なら私とシロウの攻撃がヒットすれば倒せるんだけど、三匹もつるんでこられたらやや苦戦する。
しかもミニワイパーン、五匹に増殖しようもんなら、
「我等を生け贄にブラックワイパーンを召喚!」
みたいなフォーメーション組んで、地面から黒いでっかい翼竜が出てきちゃうのよ!
最初は
「レベル、稼いでみよー!」
てことになって、戦ってみたけど。
……一撃でシロウのHPが三分の一削られたもんね! もしノアにヒットしてたら、一撃死よ。全く。
「でもさー。あれ倒せなくて、ガルディエントが倒せると思う……?」
「……思わない」
「ちょっと頑張ってみない?」
「でも、ノアが当たったら……やばいよ」
「ちょっと考えてることがあるんだ。
もし倒されたらほんとにすまないんだけど、もう一度だけアレと戦ってみたいの」
ノアが主張する。
私とシロウは、顔を見合わせたけど、そこまで言われてNOと言う理由もない。まあもし全滅したとしても力強く虹の町に戻るだろう。誰かが死んでも、頑張って生き返ることができるよう……資金を。
「サンダーソードを売ればいいのよ」
「待ってくれ! これは! これだけは!」
「……冗談よ」
「聞こえなかった! 今、冗談じゃなかったよな!?」
で、ミニワイパーンたちと戦った。防御していたらちくちく攻撃しつつ、仲間を呼び集める。
そしてしばらく我慢していると、五匹のミニワイパーンたちは召喚儀式を始めた。
この儀式、なかなかかっこいいのよね……。召喚ていいわよね。
この世には召喚士て職業もある。結構レベル上げめんどくさそうな感じがするし、自分で戦えないのはつまんないかもしれないけど、でも召喚てロマンよねー。
いやそんなのはともかく!
ブラックワイパーンが、地の底から召喚されたっ!!
「フグォォォオオオオオオオオオオオオオ!」
吠えながら、ブラックワイパーンは私たちを一人一人ターゲット化する。その間にぴこぴこ攻撃すればいいんだけど、こいつのHP全部でいくらあるんだろ……。シロウで50。私で35くらい、削れる。
しかしノアの魔法! 炎が……
「あれえ?! ノア、なんのアイテム使ってるの」
「うふふ。これ、さっきの町で手に入れた……
根性試しキャンディを! 姫様に使用っっ!!!」
うわ。
うわわわわわわわわ!! それを、ここで使っちゃうわけ!?
驚いてる間にノアが、姫様にキャンディを食べさせてしまった。
す、すると……
「むぐむぐ……
…………ぐ、
くはぁぁあああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!
なんなのじゃ、なんなのじゃこの味は。
ひどいのじゃだめなのじゃ、うわあああああああああああああああああああああああああん!!!!!!」
姫様のボイスが、炸裂した。
ブラックワイパーンに。
すると、ブラックワイパーンがぴよぴよ状態になった!
「ごめんね、姫様!
じゃあみんな。今のうちに、一斉攻撃よーーーーー!!」
ノアが杖を向ける。
シロウのサンダーソードが炸裂。追加効果でカミナリの一撃!
そして私のドラゴンナックルは、ドラゴンに特効! 運が良ければ、二回攻撃。
ノアは炎。……ブラックドラゴンには、炎がきわめて有効!!
「ぐおおおおおおおっ!」
途中で我に返ったブラックワイパーン。しかし、時既に遅し。
だいたいHPが1000くらいだったみたい。ノアの最高魔法が当たれば、150もダメージが当たるし。ぴよぴよ状態の間にかなりHPを減らしたおかげで、かれが正気に戻っても私たち、危機というほどの危機には陥らなかった。
そしてずずーんと音を立ててブラックワイパーンが地面に倒れたとき!
シロウのレベルが上がった! ノアのレベルが上がった!
……私だけ上がらなかった。うわーん、こんなときちょっと悲しい。いいけどさ……タイミングだから。それに、ブラックワイパーンを倒した喜びがそんなこと、かき消しちゃうもんね。
「やったー! ノア、さいこー!」
「作戦大成功!!」
私たちは手に手を取って喜びを分かち合った。でも、
「ううう。ひどいのじゃ……そなたら、わらわをなんと心得ておる!?
まだ舌がぴりぴりするのじゃ……ううううう、うぇ〜〜ん」
……姫様が泣いてしまった。なんともはや、可愛い。
「ごめんなさい、姫様。
どうしよう……シロウ」
「姫様、口直しにキャンデーあげるから、許してくれないかなあ?」
「うううう、そんなことでわらわのハートはなぐさめられないのじゃ! そなたらは、そなたらは、うわーーーん!!」
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姫様が泣きやまない。
そして私たち、忘れてた。
外をうろつくことがとても危険だってこと……モンスターじゃない、彼ら以外の敵が私を追っているのだということ。
「あなたたち。
姫様が泣いているではありませんか」
そんな声がしたとき、私ったら
「そうよー、どうしたら泣きやんでくれるのかな」
なんて口走ってしまった。
「貴方達が姫様をかどわかすから悪いのですよ……?
自覚なさい、犯罪者ども」
「へっ?」
そして私たちは。
私たちが来た道に、彼女が立っているのを見つけた。
騎士、ユリア。姫様の親衛隊。第一のファン! その執念と怒りは、今や最高潮! みたいな!
「うふふふふふふふふ。
ここで会ったが百年目……どれだけあなたたちを憎いと思ったか……今すぐに、教えてあげましょう。この剣で!!」
「う、うわーーーーっ!!」
私たちは脇目もふらずかけだした。
まずい。あれ、非常にマズイ。まるで勝てる気がしない!
だって剣を構えた背後に、鬼の顔が見えたよ!!
ブラックワイパーンより怖い。
「ちょっ……待ちなさい、あなたたち!
姫様を置いていきなさーーい!!」
やっぱり追いかけてくる。当然よね。
「ほほほほほ。そなたら、走るがよい。走るがよい。
つかまったらわらわは、『いやがるわらわを無理矢理連れ去ったのじゃ……』と証言するからのう。うっふふふふふふふ」
「っくーーーー!」
全力で走る。
まずいよう、あんな足の速そうな人、すぐ追いつきそう。
……後ろを確認する。
すると。
「待ちなさいったら……! あうっ」
と、ユリアさんが転んでいた。
なに。
ドジッ子……?
その隙に私たちは、どんどん距離を離していったのだった。
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