それからマップを見ながら、丁寧に道を探りつつ進んでいった。勾配が激しくて、降りていっても途中で道が消えてたりするのよね。
竜の洞窟は、入り口が山の上にあった。
といっても、派手な入り口があるわけじゃなくて、普通の洞窟がぽっかり口を開いてるんだけど……
「間違いないわ。あれが、虹の洞窟。竜がいる場所よ!」
虹の丘という場所ではあるけれど、虹は出ていない。
あの町だって、虹の町とかいうわりに、虹なんて出ていない。
地味〜な地形、普通の洞窟に見える。もっとおどろおどろしいのを想像してたんだけどなあ。入り口にすごい芸術的な装飾が施してあって、いざ冒険者よ竜に挑戦せよ! みたいな感じで出迎えてくれるんじゃないかと。
「これじゃちょっと拍子抜けかも」
「なにいってるの。本番は、この洞窟の中にあるのよ」
「…………そっか。入り口なんかに惑わされてたら」
「あっという間にピンチかもよ。さしあたっては洞窟に入ってみないと、私たちのレベルが通用するのかどうかも分からないけど」
うん。推奨レベルってものがあるわよね、ダンジョンには。
リンダリングの世界ではモンスターのレベルはリンダポイントに関連してるんだけど、ボスのレベルはその限りではない。リンダポイントに比例してる場合もあれば、固定レベルなボスもいる。
ガルディエントがレベル40で固定! であれば私たち、敵う要素があんまり無いけど、リンダポイント比例であれば、まだ戦って勝てるかも知れない。……でもね、竜だもんね。そんなあなた、レベル20に至ってない私たちが敵うような相手なわけがない。
「あれ? あそこに人がいるよ」
シロウが指さした。
洞窟入り口の近くに商人が立っていた。身長くらいの看板が隣に。
「安いよ」
てシンプルに書いてある。
売っているのは、ポニーテールにした女の子だ。商人特有の大きなかばんを装備してる。あれ装備してると、所持可能アイテム数が何十倍にもなるのよね。
「こんにちは〜。よければ商品みてってね」
「こんなところで商売なんて。儲かってる?」
「んんん。ぼちぼち? かなあ。儲かるところは競争率が激しくて……。私まだどこのギルドにも登録してないし、こういう自然系洞窟の出店だと、店舗代がかからないのよね」
うーん、商人界にもいろいろあるんだなあ。
「でも私は商人としてがばがば儲けて、いつかカジノをつくってみせるわ!」
「カジノか〜……」
カジノ大好き。いつか世界最大のカジノってところに行ってみたく思う。
「……もっとおもしろいものとかって、ないかな」
相手は目を丸くする。
「もっとおもしろい……?」
「や、今ちょろっと思いついただけなんだけど。イベントを行うための、館みたいなやつをつくってみるのはどうかな。
カジノだとお金を賭けるけど、そちらでは名誉を賭けるの。
たとえば騎士コンテストとかいって、騎士を集めて人気投票したりとか。そういうの。みんなの自慢の武器や防具を披露するのよ」
「ああ。コンテストはあると思うんだけど、でもそれ専用の見せ物小屋みたいなのは、ないかも?
う〜ん、なんかそのアイディアいい感じかも! もしできそうだったら挑戦してみても、いいかしら」
「いいわよ。自分じゃ絶対しないし。
で、アイディア料ってわけじゃないんだけど。薬草とか安くなったりしないかな……?」
もお、買い物上手! と背中をたたかれつつ、薬草とか別の回復系アイテムをいくつか買った。
残念ながら根性試しキャンディは売ってなかった。
「あ、でもここだけの話ですけど」
カンナがこそっと話しかけてくる。
「アリエッタ姫を戦闘でアイテムとして使うと、姫様との友情ポイントが下がります」
「……道具扱いするなってこと?」
「下がりすぎた場合、アリエッタ姫はパーティから離脱してしまいます! その場合、えーーと、リンダポイントがですね……」
「馬鹿上がりするってことかしら」
「間欠泉のように」
どーーん! と上がるリンダポイントの様、想像できた。
怖いよ〜。そんなに上がってしまったら、もう普通の旅人として生きていけなくなるかも。だって、フィールドに現れるモンスターのレベルはリンダポイントと連関してるんだもんね。もし馬鹿上がりしたら、フィールドモンスターと戦えない・レベルが上がらない・そもそも普通に旅ができないってことになってしまう。
「それでも抜け道は、ある……」
モンタが言った。
「そのときはきっと俺が役に立つ……」
なんか裏街道な情報、いっぱいもってそうだなこのハムスター。
「ほんと、個性豊かよね、ナビって。
こんなに役に立たないのってハチくらいじゃないかしら」
「ふぇっふぇっ。王様は実は裸だって、みんな、知っ・て・る」
とバッチョがつんとほっぺたをつついてきた。
意味がわからんよ意味が。
で、無事アイテムを供給しつつ、私たちは洞窟に近づこうとした。
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