RINDA RING  EVEMT03-12「おじゃまします、ガルディエントの洞窟」



 ふと気づいたんだけど。
 もしかして私たち、ダンジョン初体験みたいなものなんじゃなかろうか。
 ……今までを思い出してみると、最初に行ったのはゴースト屋敷だし、次のイベントはトルデッテの町の中だったし。本格的なダンジョンには、挑戦したことないのよね。
 明かりが必要なような場所に来たの、初めてだもん。
「私たち、なんだか変則的な経験積んできてしまったわよね」
「そもそも最初にゴースト屋敷っていうのがおかしいんだと思う」
「仕方ないわよ、あのイベント、無料だったもの!
  なんか今は巻き込まれ状態でいやおうなくイベントに挑戦してるけどさ、次はまたイベント屋さんで楽しげなイベント選んで挑戦したいわね」
「そっちも楽しいわね、きっと」
「でもお金が足りなかったりして……は、ははは」

 装備にお金かけたしなー。
  あと回復アイテムに結構つぎ込んだし、キャンディ代が馬鹿にならない。そして、さっき明かりとして「コウモリランプ(煙がでないタイプ) 350G」と、「たいまつ 50G」をふたつ買ってしまったのだ。それがとどめ、残金は……こころもとない。
  まあダンジョンの中をさまよえばモンスターにもあたるだろうし、稼げるだろう。
  そういやコウモリランプとたいまつを買ったのは、ランプはパーティ用のアイテムで、ひとつあれば全員の視界が明るくなるんだけど、もし中でばらばらになった場合、ランプを持ってる人はいいけど、他の人は真っ暗な中で恐怖体験ということになってしまうから。
  だからランプはシロウが持ってて、たいまつは私とノアが持っている。……シロウが洞窟の中でひとりぼっちでゴースト系のモンスターに出会ってしまう可能性を憂慮してのことだ。

 しかしこのランプ可愛いんだよー。「コウモリランプ」って名前なのは、上の部分に機械仕掛けのコウモリがくっついてるの。その子は私たちのそばでぱたぱた飛んで、明るくしてくれるわけです。白いタイプと黒いタイプがあったけど、私たちが選んだのは黒。
  これを魔法使いであるノアが手に持ったりすると、めっちゃくちゃ似合ってていい感じなのよね!
  でも装備してるのはシロウだけど。

 ぱたぱたぱたぱた、と羽の音を聞きながら私たちは洞窟に足を踏み入れた。
  なんか、ひんやりする。
  外は明るいのに、一歩中に入っただけでもう真っ暗なんだもの、さっきは驚いた。
「あ、もしかして地図とか売ってなかったかな〜」
「ないでしょ。もう一回戻るのなんかいやよ。とりあえず突撃!」

 突撃とか言いつつ、私たちは壁に手を当てて、ゆっくり進んでいく。そうせざるをえない。視界は良好とはいえない、明かりが見せてくれるのはほんの数歩の前までの距離だ。この道が狭いせいだけど……広かったらもうちょっと先まで見えるだろう。

 細い下り道がえんえんと続いている……
  迷う余地はない、一本道だ。

 音楽が。
  なんか重低音で低ーくリズムを取っていたかと思うと、

 ちゃーらー♪

なんてものすごくドラマティックに(……文字ではそう思えないだろうけど!)鳴り響く。
  最初そのちゃーらー♪ で飛び上がりそうになってしまった。すっごい、音楽まで素敵。ダンジョン探検、ちょっと怖いぞ恐ろしいぞモンスターだぞって感じ……

 なんていってるうちにコウモリが現れた!
「きゃー、いやー、うっとおしい!」
とノアが焼き払っている。コウモリって普通攻撃はよく避けるけど、炎が弱点なのよねー。ぴろぴろと細かい経験値がたまっていく。まあ、まだまだレベルアップには足りないけど。

 しっかし。その炎が照らし出す洞窟の中の様子……。
  鍾乳洞だ。自然が生み出す(生み出してないけど)スペクタクルだわ!

「やっぱり冒険って、洞窟に戦士と魔法使いと武闘家よねっ」
「んーーと、実際のところ僧侶系が欲しいんだけどなあ」
「サラかシロウが、回復系のスキル身につけること出来ないかしら? 私は無理だと思う。できたとしても、転職とか必要になってくると思う」
「あーー」
  スキルかあ。

「冒険者施設のひとつ、『学校』に通うことによって、スキルを身につけることが出来たりしますよ〜」
  カンナが言った。
「学校!? へえ。面白そうね」
「スキルによってかかる費用が違ってきますけど……」
  ……世の中結局はそれか!
  まあいいや、このイベントを無事クリアーできたらきっと、がっぽり儲かってるに違いないもんね! 根拠はないんだけど。希望として。
  シロウの背後のツボの中、姫様は「zzzzzz」て寝てるみたいだけど、ほんとに寝てるのかしら。あやしい。

「あ……、分かれ道だわ」

 指差した方向は、道がぱっきりと分かれていた。
「どっちに行きたい?」

「右」
と、ノア。
「左」
と、シロウ。
  ちょっっっと、みんな、心をひとつに!





*******




「なんだかさっき、そっちからいやな声が聞こえた気がするんだよ」
「私は右に行きたいわ」
  青ざめたシロウが訴えるも、ノアは首を振る。根拠はなく、単なる希望みたい……?
「多数決で決めたらいいんじゃない? サラはどっちに行きたいのよ」
「え。えっと、こういうのって多数決で決めるの、よくないんじゃない? 話し合って決めようよ!」
「そんなひよった意見きかないわ。大体、ダンジョンの中でいちいち話し合ってる時間があると思うのがおかしいのよ。即断即決。宝箱開けるときはあんな即断するくせに、たかが道でどうして迷ったりするわけ?」
「あう。うううう」

 実は私。
  宝箱とか、ボスに突撃とか、そういう決断は早いんだけど。
  どっちの箱にするとかどっちの道にするとか、そういうのにはちょっと優柔不断だったりする……だって。

「あ、今まで使ったことなかったですかね。多数決システム、です! 窓を立ち上げて、どっちか選んで、全員が決断ボタンを押しますと、一番多数だった意見が分かります。こんなダンジョンで意見が割れたときには役に立つ機能でなんです」
  カンナがそんな新機能(我々にとっては未経験だもんね)を紹介してくれた。

「でも今その機能使っても、サラが右を選べば右。左を選べば左になるってだけの話じゃない?」
「そ……そうかもしれませんけど」
  カンナが困っている。
「あの、俺もう右でいい気がしてきたんだけど」
  ああっ、シロウが譲ろうとしている。
「なんなの! だったら左でいいわよ私!」
  ノアが怒った。なんで機嫌が悪いのよう。
「右にしよう! けんかするくらいなら右でいいよ」
「なんなのよそれ。左でいいったら」
「あーーもう、みんな。今こそ多数決システム使おうよー。うらみっこなしで」

 一応道を探ってみたんだけど、光が照らす距離にはなにもない。少し先まで歩いてみたけど、限界距離に至るとそれ以上いけなくなる。パーティメンバーは一定の距離から離れることができないらしい。
  盗賊だったらもう少し遠くまで調べに行くことができるらしいけど。それは例外。
  イベントで離れ離れになることがあるみたいだけど、それも暫定的にパーティから外れたことになってるらしい。だからメンバーに会えたら自動的にパーティに戻る。
  限界距離は職業によって違う。戦士と武道家は距離が短い。魔法使いは比較的長くなってるけど、しかしもし下手な敵に当たろうもんならHPの低い魔法使いは一撃即死の可能性があるもの。無茶はできない。

 で。
「右に決定ー!!」
……ということになった。

「えー。左入れたの誰?」
「私よ」
「俺は右にした」
  そんなこと言い合ってたら、「あのう、そんな風に話してしまったら、多数決システムを使う意味がないんですけど」とカンナがあわあわしていた。
  うん。確かに意味ない。でもいいんだ、方針が決まったら後は恨みっこなしだもんね!

 私たちは右の道に進んだ。
  すぐに道が分かれてるんじゃないのーと思ったんだけど、予想に反して一本道。しかしさっきに比べて道が細い! 敵が出てこないからよいものの……ちなみに先頭は私。真ん中にノア。シロウがしんがり。ダンジョンは平地と比べて、背後から攻撃される可能性がぐーんと上がるんだ! 挟み撃ちもあるみたいだし、気をつけないと……。
「せまいよー。せまいよー」
「ここで水がどっと流れてきたり、巨大な玉が落ちてきたり。ゾンビが出たり」
「やめてくれよ。怖いよ!」
「あ、ちょっと道が広くなった……?」

 私の身体がぽん、と空間に飛び出た。
  そのまま私は硬直する。
  私の背中にかぶさるようにしてノア、そしてシロウも出てきた。右側の道はこの空間につながってた……らしい。
「…………!」
  私の視線の方向を追ったノアが口ごもり。
「……え?」
  そしてシロウが小さく声を上げた。

 その空間にあるのは、地下への階段。
  そして、その前にいたのは……巨大な緑色の竜だった!





NEXT?



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