RINDA RING  EVEMT03-13「語られる、実像の一面」



「う、うわーーーー!!?」
  私たち、驚いて武器を構えた。
  いきなり? いきなりなんだっていうのおおお!?
  竜。ものすごく、でかい。だけど、時が止まっているみたいに、微動だにしない。

 しーーんとしている。
  いつまでたっても戦闘曲が始まらない。三人で顔を見合わせ、ひとまず胸をなで下ろした。

「なんだろ、これ。いきなりラスボス……かなあ」
「そんな粗末なダンジョンには思えないけど?」
  ノアが杖で自分の肩をぽんぽん叩きながら、言う。……だよねえ。

 向こうにあるのは、階段、かな? 巨大な爪の並んだ足が、下り階段のところに乗っかっている。
  それを避けて階段を下りるのは、不可能だ。小人にならない限り。

 そしてそして。
  この小さな部屋の片隅に、宝箱がある。普通の宝箱とはなんか、趣が違う。よくある宝箱は赤地に金の縁取り、といったカラーリングだけど、これは緑色に金の縁取りだ。

「サラ、待って」
「なによう。いきなりあけたりしないから!」
「前科があるから、一応止めたの!」
  止められはしたものの、しかしみんなその宝箱に関しては「開けて……みる?」という気持ちだった。そこでじゃんけんをして、負けたシロウが箱を開けることになった。

「がじゃじゃじゃじゃどぅわーーーー!!」
「うっわああああ!!」

 耳元で叫んでみたら、シロウがひっくり返りそうになった。うん、いい反応だ。褒めてあげたい。

「うるさいよ!」
「ごめんね、なんか驚かさないと悪い気がして」
「やめてくれよ!!」

 ぷんぷんしつつシロウは箱に手をかけた。





*******




 出てきたのは……オルゴール。かな。これは。木でできた、小さな箱だった。
「い、いいか。開けるよ」
  シロウがどきどきしてる音まで聞こえてきそう。私とノアは、固唾をのんで開かれるオルゴールを見つめている。

 そして開かれた蓋。聞こえてきたのは、予想したようなオルゴールの音色ではなく。
  声、だった。

「…………旅人よ。私は、ガルディエント。私の声が聞こえますか?」

 理性的な、女の人の声だ。

「そこにいる私の身体は、本物の身体ではありません。
 もし地下に行きたいと望むのであれば、戦闘を宣言し、倒すと良いでしょう。
  簡単なことでは、ないでしょうが」

 その声音は静かなものでありながら、抑え込まれた迫力に満ちている。
  人の声でありながら、人のものではない……そんな感じ。

「……私の過ちの話をきいてくれますか?
  私は、このダンジョンの奥で、卵を守っていました。私の大事な子供。なのに、あの日……卵は奪われてしまいました。必死になって、探しました。だけど、卵がどこにあるのか分からない。
  ある日、現れた魔法使いが言いました。

『卵を奪った者は、クールデルタの町にいた旅人に違いありません』

と。だから、私は思いました。時戻しの魔法をひとにかけてしまえばいい。
  クールデルタの町は竜の加護を受けた町。あの町で憩う者は、竜の息吹を受ける。その者たちに、呪いをかけてしまえばいい……すべての旅人があの町から出られなくなってしまえば、卵泥棒も、きっと戻ってくることになる。

 虹の町クールデルタ。あの町の虹は、そのとき消えてしまった。
 そして……卵は戻ってこなかった。

 卵は……どこにあるの?

 虹の町から虹が消えてから、これで十日がたつ。
 あの町に戦いの火種がある。私には見える、もうすぐ争いが起こるでしょう……だけど、私はあのとき敗北してしまった。黒い稲妻に打たれ、動けぬ身です。

 旅人よ、どうか私の声を集めて。そして真実を見いだしてください。」





「うううーーーん……」
  悩みながら竜に見上げてみると、



『竜はものかなしげなまなざしで、旅人を見つめている……

戦いを挑みますか?』



なんて窓が立ち上がった。

「あわわわ、ノー! 断じてノー!
  いいえって、選んでいいよね?」

 誰も止めはしなかった。私たちドラゴン様相手に経験値稼げるほど、レベルため込んでないのよね……。

「参考までに聞いていいかしら、カンナ。このガルディエントに戦いを挑んだら、私たちの勝率は何パーセント?」
  カンナはしばらく悩んでから、
「……0.2パーセントです」

「なにそれ。いっそゼロって言われた方がいいんだけど。万が一勝てるかもしれないの?」
「可能性は、ゼロではありません……アイテム欄や、過去の会話、すべてにヒントが詰まっていますから」

 カンナはそういうけど、ドラゴン、今まで見たモンスターの中で一番大きいのよね……。強そうなのよね……。まるで勝てる要素がない感じ。
  うう。後ろ向きな己が情けないけど、厳然たる事実を前にして、そこでなお「やればできるかもっ!」なんていえない。

「モンタ、ドラゴンと戦えるレベルってどれくらいかな?」
「…………推奨レベル、25だ……」
  むっつりとモンタは答えた。うん、全然足りない。
  シロウがレベル12。ノアが8。私が10だもんねー! 半分にも至ってないじゃないのさ。でもこれでも頑張ってあげた方ではある……と思うんだけど。いやさ、そんな一生懸命レベルだけ上げてるわけじゃないわね私たちパーティ……。

「レベル低い方がいいこともあるヨー」
なんて、珍しくうちのハチが話しかけてくる。
「なに? なに?」
  ハチはくりんくりんと尻を回しつつ、
「い・ろ・い・ろ。プッ、クスクスクスクスクス」
「はい、ハチミツ5ゴールドぉー」
  握りしめた。

 地下への階段は気になったけれど、私たちはそこから地下に行くことができない。
  となるとこの部屋は単なる行き止まりだ。私たちは、戻ることにした。





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