RINDA RING  EVEMT03-21「シロウ、ツボが呼んでるよ」



 それでは三人揃ったところで!
 めでたくダンジョン探索、再開だった。

 正直言って、一階のマップは思ったほど広くなかったかも。もっと広大に広がる迷宮を想像してたんだけど、んでもやっぱり上から視点で、画面に映るダンジョンを探索するのと、いざその中にいるのとではやっぱ全然違うからね。あんまり広くても、全部踏破できないかも知れない。がんばるけど……いちおう私たち、時間に追われてるのよね、桃姫様の関係上。なんかダンジョンさすらってると、そんな感覚が薄れてくるけどさ。

「またユリアさん、襲ってこないよねぇ」
「面倒だよね」
『姫様の愛を取り戻せ』『姫様の愛よ永遠に』なーーんてイベントが発生してるんじゃなかろうか、あのひと。たとえリンダリング内イベントとして発生してなくても、心の中の最優先イベントとして……まあその、たとえばノアだって『世界の宝石を手に入れろ☆』と『最強の炎の魔法を手に入れる♪』というインマイハート・イベントが発生してるもんね。
 シロウだって、「騎士を眺めたい……」という熱い願いを持ってるし。

 私は、そうだな。もっと冒険したい、かな。このダンジョンも実際すごいデキだ。本当に鍾乳洞の中歩いてるみたい。世界にはもっともっと、すごいダンジョンがあるんだろう。ひとふりでモンスターをなぎ倒す伝説の剣とか、国をも焼き尽くすような猛烈にして至高の魔法とか……


 ぼんやりしてた。ダンジョンに集中しよう。結構敵の数が多くなってる。でもほとんどは、コウモリたちだ。ときにいやにHPが高いのがいるけど、ほとんどは苦労なく倒せる。今のところ、三人とも次のレベルになるまではまだ経験値が数百から千くらい必要だ。ノアが一番大変だ。魔法使いはレベルをあげるのに、他の職業よりもたくさん経験値を必要とするから。

「なんか。コウモリって、こっちがしゃべってる声に反応して襲ってくる気がする」
「あ、たしかにー! 黙ってたら来ないかも。ちょっと静かにしてようか」

と三人押し黙って歩いてたら、明らかにエンカウント率が下がった。
 ひゃっほー、コウモリには飽き飽きしてたんだぜ! なんて喜んだものの、だまーーーって攻略するのはあまりにつまらなく、コウモリの様子を見つつ喋ることにした。


「暗い! 暗すぎるぞよ! わらわのつまらなさもそろそろ最高潮じゃ、シロウ、そなた芸をせい」

なぁんて姫様が言い出したりしちゃうしさ。んで、シロウが変な顔芸披露してるしさ。一瞬で姫様の機嫌も直るし、なにこの輝く芸人、いや保父さんの才能。なんかモンスターをぶったたく剣の振るい方よりうまいような……いやいやそんなとんでもない。
 シロウのサンダーソードは結構な活躍っぷりである。普通攻撃に加え、ランダムで雷が発生し、攻撃が追加される。これが結構高確率で敵をしびれさせてくれるのよね! コウモリがぱちぱち帯電しつつ地面に落ち、動けなくなっているところを攻撃するのはやや心痛むような気がするけど。


 んで、このフロア。中央に回復の湖がある。大きな空間になってるそこからは、五本の短い通路が延びている。時計で言うと、一時、三時、五時、七時、九時の方面に。
 短い通路は全て行き止まりで、赤い石が置いてあるだけ。いじっても何も起こらない。
 そして十一時の方面に、それよりやや大きな道が延びている。
 私たちは、その道を三人で進んでいった。とても節くれ立った道だ。マップ機能がないと、ものすごく不安になっただろうな。
 右手の道は行き止まり。アイテムも何も無し。
 左の道は、途中にツボが置いてあった。高さ三十センチくらいの、茶色いツボだ。蓋がしてある。




*******




「シロウ、ツボが呼んでるよ」
「なんだよ! 俺に調べろって?」
「いや……ツボといえば、シロウかなって」
「いらないよ!」
 別に嬉しがらせようと思ったわけじゃないけど……背中にそんな物背負ったままじゃ、全くもって説得力がないね。
「で、開けようよ」
「待ってサラ。ツボ魔人とか出てきて、逃げられない戦闘になっちゃったら困るわ」
 ノアが壷を開けようとした私を止めた。
 む。むむむむ……そうだね。確かに、

 今回は放っておこう……という結論に達した。
 のんびりしてる場合じゃないんだ! 仕方ないんだ! ものすごく後ろ髪引かれるけど!

「あの……」
「なにカンナ」
「宝箱にはときどき罠が混じってますが、つぼに罠というのは、あんまり聞いたことがありません。つぼがメインのイベントでもない限り……」

 引かれた勢いで後ろにダッシュし、即中身を確認したけど!

「サラ、早すぎっ!」
「だってだってだって気になるんだもん、仕方ないじゃないいい」

 つぼの中身は、紙切れだった。
 紙切れには、こう書かれていた。


道しるべ
3−5−7
資格あるものだけが世界に導かれる。
親指は1、人差し指は3、中指は5、薬指は4、小指は0

裏道しるべははじまりの魔女に至る階段。竜を足の下に敷く者がそれを得る。




*******




「…………あ、これお任せしますね」

 好奇心が満たされて、私はおなかいっぱい。後のことは、こういうことに素質のある人に任せるべきだと思うのね。ノアさんとかノアさんとかノアさんとか。
 シロウ? ああ、桃姫様に目隠しされて、両手で空をかいているわ。
 ノアはそんな私たちに突っ込む労力すら惜しいらしく、紙切れに集中した。えーーと。その後ろからでっかいモンスターが襲ってきてる気がするんだけど、気のせいかなーー……

「……じゃないっ! みんな、敵だよ敵――っ!」

 私の警告に全員が注目した。現れたのは、ムカデ形みたいにたくさん足の生えたやつ。ダンジョンアームというらしい。「噛むぜ」といわんばかりのナイフの刃のような牙が二本、口(というか穴)から飛び出している。目が三つ。赤いのが危険っぽくてやな感じ。

「触りたくない! 魔法、魔法でお願い!」
「さっきから聞いてたらわがままばっかり! 武闘家魂みせてみなさいよ!」
「いやーっ、シロウ、剣でぶったぎって!」

 シロウはなぜか文句を言う元気がないらしい。ため息をつくと(しかしつぼを背負った状態では、いかにアンニュイでもお笑い路線である)剣を構えた。逃げるという選択肢はない。なぜならあいつ、行く手を阻んでいる。というかなんとなく中ボス……いや小ボスっぽい。

「こんなところで薬草無駄遣いするわけにはいかないよね」
「何言ってるの、経験値貯めとかないと後できっと泣くことになるんだから、サラ、背筋のばす!」
「行くぞ!」

 戦闘開始だ!

 ダンジョンアームは口を開けて威嚇体制を取り、私たちを見下ろしている。
 こういう大きいモンスターって、弱点があるんだよね。たとえば目とか。そこに攻撃が当たると、普通よりダメージが増える。
 まずは私の攻撃がヒット! しかし大して効かない。10ポイントダメージって、なんだそれ!
 しかも、ムカデもどきの目が怪しく光ったかと思うと……

「っっ、きゃー!」

 後ろから尻尾が襲いかかってきた。思いっきり背中を打たれ、地面を転がる。ムカデは頭を高く上げ、転がった私たちを睥睨している。意思のない目が気色悪い。大ダメージってわけじゃないけど、HPは一割ほど削られた。
 立ち上がる。シロウとノアはまだうずくまったまま動けない。しばらく行動不可にする効果があったらしい!
 やばい、ノアにはこの攻撃が効いたみたい。ゲージが赤くなってる……!
 そのことに気づいたのが遅かった。私はすでにムカデへの攻撃を選択していた。

 取り消しを願いながらの攻撃は、ムカデに大したダメージを与えることはできなかった。

 私が行動可能になる前に、ムカデの頭が襲い掛かってきた。その頭がまっすぐにノアを狙う。まずい、あああっ、死んじゃうーっ!



NEXT?



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