「ナビゲーター……」
そいつは、全然可愛くなかった。なんだかオモチャ屋に山積みになって売れ残ったぬいぐるみのハチ、ってな顔をしていた。
「はい、ナビちゃんて呼んでくれてもいいですよ」
「却下」
思わず即答してしまった。
だ、だって、ナビちゃん♪なんて、可愛く呼んでいい容貌では全然ない!!
先に行ってる友達から話は聞いていた。プレイヤーには、たとえばゲームしてるときに出てくる説明ウィンドウがあるけど、そういう説明をしてくれるキャラクターがつくって。たとえば「このアイテムは回復用だ」とか「このダンジョンはまだレベルが足りないからやめとけ」とか、アドバイスしてくれる。ナビゲータにもレベルがあって、あがるごとにくれるアドバイスのレベルも上がっていくとか。(たとえば「伝説の武器をゲットするにはあのダンジョンに入ってボスのヴァンパイアを倒すのです」とか、初期状態ではナビもそんなこと知らない)
そして友達のナビはすんごくかわいいウサギ型。
「戦ってると心配してくれるんだよ」
なんて、嬉しそうに言ってたから、私もきっとかわいいナビを使うんだわと思ってたのに。
思ってたのに。
「なんでハチ!?」
と地面を蹴飛ばしたくなった。
ハチはまたもや肩をすくめるような格好をした。
「いやはや、私が到着する前に戦いが始まっているとは思いませんでした。ハハハハ、あなたホントに運が悪いですね。最初の町に着くまでにモンスターと接触する確率は7パーセントですよ! クッククク、いやー、おもしろ」
地面の石をひっつかんで肩を回転させる勢いで投げつけた。
石は見事的中し、ハチは地面にぽとりと落ちた。
「い、痛」
「い、痛、じゃ、ねぇっっ!!」
ふんづけた。
「なに? あんた。あんたがとろとろしてるからモンスターにあったんでしょうが。あ? 7パーセントだぁ? 数字披露してる間があったらまず遅刻の理由を言え」
「ひ、ひぃぃ、トイレに行ってましたぁ」
「なんでハチがトイレに行くか!!!」
より深くふんづけて、言った。
「チェンジ」
「………え?」
「チェンジ。ナビゲーターチェンジする。できるんでしょ? 友達はウサギだってのに、なんで私はハチなのさ」
「だ、だって最初の設定のところで『NC:ナンデモイイ』を選択したでしょーー!」
「………………」
したような、してないような。
「……それ、NCがなんなのか分かんなかったんだけど」
「NCというのはナビゲーター・キャラですっっ! ナンデモイイなら自動的にランダム設定になるんですよーー! ああう、痛い痛い。ハチはハチなりに可愛いところもあるんですから、踏んじゃダメ! ついでにチェンジ不可です。あなたがサラである設定を捨てて新しいキャラとして旅立つのであればチェンジできます」
「え、そうなの」
足を離すとぶーんと宙に飛び出した。
「でもその場合新しいIDナンバーを使わないといけませんからぁ」
「はぁ」
「もう一個『リンダ・リング』を買って下さいね。じゃあ、サヨウナラ〜〜!」
そしてそのまま飛んでいこうとする。
「ま、待たんかーーー!!!」
「イヤデース。僕は暴力主人反対派デース。アバヨ、ドメスティックバイオレンス女」
と、尖ったお尻が憎い。飛んでいこうとするハチを睨みながら私は再び石を握り、振りかぶって、投げた。
我ながら剛速球である。しかも、石。
カコーーン!! と。
後頭部に石が激突し、ハチはひゅるりと地面に落ちて、ぷるぷる震えた。
「な……ナイスピッチング……井川もびっくり」
「井川もびっくり、じゃねぇ! もういっこリンダ・リング買えるわけ、ないでしょ!! あんな馬鹿高い値段設定してるくせに。あんた、R=R社の回し者!?」
「僕は清く正しい……社員」
「ちょっと! 今度逃げようとしたらハチミツ漬けにしてやるから。
とりあえずあんたで我慢してあげます。だからちゃんと仕事を果たしなさいよね。村はどこ、村は。さっさと連れて行きなさいよ」 |