あえて秘するといったけど。
やっぱ。
なんというか。
私はハチを握りしめていた。次に、床に叩きつけようとしたところシロウに止められた。
「その怒りを別のところに向けるんだよ!」
「そうよ、もったいないわ今なら会心の一撃くらい連発で出せるくらいの迫力よ!」
ぐぎぎぎぎ、と歯がなりそう。
私……このままでは悪役じゃないの。いや、いい悪役でもいい。このハチにこの世のありとある災厄をおおいかぶせることができるなら、悪役になることくらい、なんの抵抗もない。
「サラさん、サラさん、しっかりしてくださいぃ……!」
カンナをみていると、ぼろっと涙が出そうになった。
「うっ……」
なんというか耐えきれなくなった。
「もう、なんなのようー! なんで私の地図が! こんなナビのせいでーーー!!」
ぎりぎりぎりぎりとハチをつかみながら私は嘆いた。嘆きたおした。どれだけ嘆いても、アイテムウィンドウに地図の文字は見つからない。ない。ない。かんぷなきまでに無い。
「うわあーーん!!!
地図のない冒険なんて。どないせえっちゅーんじゃこのバカッパチがあ! あんたナビでしょお!! ナビって言うのは、案内って意味でしょうが、あんたのしてることは邪魔なんだよこのトラップバチ!!! ばか! ばかばかばか!!」
床に叩きつけて踏んでも。
バレーボールみたいに遠くに打ち飛ばしても。
穴を掘って埋めても。
シロウの鼻の穴につめようとしても。
このココロ慰められはしない。
「いでででて、いたいよサラ! 俺まで巻き込まないでくれよ!」
「あぎゃぎゃぎゃ! す……好きなだけボクを痛めつけるがいい! そういう趣味というわけじゃないけどボクは元気にがんばってみせる!!」
そのときノアは私の背中に修羅をみたと、後に語った。
大暴れしてハチを追いかけ回すその様は、なんというか、ラスボスがハチだったらどんなことになるだろうかと推し量るのもオロカというかナニというか。
いやでもね。シロウにモンタ、これはいいコンビなのよ。落ち込みがちなシロウの肩に小さな手をぽんとのせているやさぐれたハムスター、いーじゃない。
ノアとカンナ。これは素晴らしいくみあわせよ。暴虐の徒ノアのオーラを善良なことばで薄めてくれる存在、癒しのウサギというの? 親切だしね。かわいいしね。
そうよ私もほんとなら、「ナビゲーター・なんでもいい」なんて選択してなかったら、かわいい犬でも猫でも、もうスライム以外ならなんだっていい、ぴったんこなナビに出会えたはずなのよ。こんな「三個百円ぽっきり」みたいなワゴンの底にいついつまでも残ってそうな貧相なハチなんか頭にのっけて戦ってなんてなかったわけよ。
「いいよサラちゃん! あと一ポイントでそいつは倒れる!
とか
「すばらしいよサラちゃん! 勇者イベントに突入だあ!」
なんてイイ感じにアドバイスと応援をくれるナビが、いたはずなのよ。
「なんでそれでどうしてこんなハチがなんの因果で私のナビなわけよ!!」
ノアは
「自業自得じゃないの」
と言った。
シロウは
「ピッタリだと思うよ君たち」
と言った。
…………ため息をついて私は「じゃ、行こうか」と一歩を踏み出した。
もちろん、
「バッチョが埋まったままだよサラ!」
「史上初☆ナビを倒した冒険者って名前が残ってもいいの、サラ? それはそれで面白いかなって思うけど、でもパーティメンバーにはちょっとゴメンて感じよ?」
「うわあ踏み固めない! 上で飛ばない!」
「私はマッチでもライターでもないんだから! ハチなんて焼かないわよ! リンダポイントあがったらどうするのよう!」
「いいから、もう、そのハチで我慢しなよサラ! いいって、おもしろいって、最高だって!」
説得の言葉の数々を耳にしているうちに、土の中からぼこっとハチがでてきた。
ぷい〜んと飛び出してきて、私の顔の前でホバリングし、ついっと顔を近づけてきた。
「怒ってる?」
「うん」
「………いっておきたいことが、あるんだけど。きいてくれる?」
しばらく考えて、うなづいた。
そしたら。
「石けんについた髪の毛って取れにくいよね。それがなんと石けんを尻でなでるだけでつるりと」
ノアは私の背中に戦うために生まれ血で血を洗い盾などもったことがなくひたすら攻撃攻撃攻撃しか知らないイノシシ武者の魂をもった阿修羅をみたという。 |