RINDA RING  LEVEL03-02「我誓撲滅案内蜂」





 あえて秘するといったけど。
 やっぱ。
 なんというか。

 私はハチを握りしめていた。次に、床に叩きつけようとしたところシロウに止められた。
「その怒りを別のところに向けるんだよ!」
「そうよ、もったいないわ今なら会心の一撃くらい連発で出せるくらいの迫力よ!」
 ぐぎぎぎぎ、と歯がなりそう。
 私……このままでは悪役じゃないの。いや、いい悪役でもいい。このハチにこの世のありとある災厄をおおいかぶせることができるなら、悪役になることくらい、なんの抵抗もない。
「サラさん、サラさん、しっかりしてくださいぃ……!」

 カンナをみていると、ぼろっと涙が出そうになった。
「うっ……」
 なんというか耐えきれなくなった。
「もう、なんなのようー! なんで私の地図が! こんなナビのせいでーーー!!」
 ぎりぎりぎりぎりとハチをつかみながら私は嘆いた。嘆きたおした。どれだけ嘆いても、アイテムウィンドウに地図の文字は見つからない。ない。ない。かんぷなきまでに無い。
「うわあーーん!!!
 地図のない冒険なんて。どないせえっちゅーんじゃこのバカッパチがあ! あんたナビでしょお!! ナビって言うのは、案内って意味でしょうが、あんたのしてることは邪魔なんだよこのトラップバチ!!! ばか! ばかばかばか!!」
 床に叩きつけて踏んでも。
 バレーボールみたいに遠くに打ち飛ばしても。
 穴を掘って埋めても。
 シロウの鼻の穴につめようとしても。

 このココロ慰められはしない。

「いでででて、いたいよサラ! 俺まで巻き込まないでくれよ!」
「あぎゃぎゃぎゃ! す……好きなだけボクを痛めつけるがいい! そういう趣味というわけじゃないけどボクは元気にがんばってみせる!!」

 そのときノアは私の背中に修羅をみたと、後に語った。
 大暴れしてハチを追いかけ回すその様は、なんというか、ラスボスがハチだったらどんなことになるだろうかと推し量るのもオロカというかナニというか。


 いやでもね。シロウにモンタ、これはいいコンビなのよ。落ち込みがちなシロウの肩に小さな手をぽんとのせているやさぐれたハムスター、いーじゃない。
 ノアとカンナ。これは素晴らしいくみあわせよ。暴虐の徒ノアのオーラを善良なことばで薄めてくれる存在、癒しのウサギというの? 親切だしね。かわいいしね。
 そうよ私もほんとなら、「ナビゲーター・なんでもいい」なんて選択してなかったら、かわいい犬でも猫でも、もうスライム以外ならなんだっていい、ぴったんこなナビに出会えたはずなのよ。こんな「三個百円ぽっきり」みたいなワゴンの底にいついつまでも残ってそうな貧相なハチなんか頭にのっけて戦ってなんてなかったわけよ。
「いいよサラちゃん! あと一ポイントでそいつは倒れる!
とか
「すばらしいよサラちゃん! 勇者イベントに突入だあ!」
なんてイイ感じにアドバイスと応援をくれるナビが、いたはずなのよ。

「なんでそれでどうしてこんなハチがなんの因果で私のナビなわけよ!!」

 ノアは
「自業自得じゃないの」
と言った。
 シロウは
「ピッタリだと思うよ君たち」
と言った。

 …………ため息をついて私は「じゃ、行こうか」と一歩を踏み出した。
 もちろん、
「バッチョが埋まったままだよサラ!」
史上初☆ナビを倒した冒険者って名前が残ってもいいの、サラ? それはそれで面白いかなって思うけど、でもパーティメンバーにはちょっとゴメンて感じよ?」
「うわあ踏み固めない! 上で飛ばない!」
「私はマッチでもライターでもないんだから! ハチなんて焼かないわよ! リンダポイントあがったらどうするのよう!」
「いいから、もう、そのハチで我慢しなよサラ! いいって、おもしろいって、最高だって!」


 説得の言葉の数々を耳にしているうちに、土の中からぼこっとハチがでてきた。
 ぷい〜んと飛び出してきて、私の顔の前でホバリングし、ついっと顔を近づけてきた。
「怒ってる?」
「うん」
「………いっておきたいことが、あるんだけど。きいてくれる?」
 しばらく考えて、うなづいた。
 そしたら。

「石けんについた髪の毛って取れにくいよね。それがなんと石けんを尻でなでるだけでつるりと」


 ノアは私の背中に戦うために生まれ血で血を洗い盾などもったことがなくひたすら攻撃攻撃攻撃しか知らないイノシシ武者の魂をもった阿修羅をみたという。




*******




 森を出た。
 すると、一面の平野……かな? 遠くにまた違う森が見えるけど。この国は緑が多いからね。ついでに晴れが多い。雨とかふったりするんだよね、このゲーム。天候によって出てくるモンスターが変わるとか……。雨の時にだけ出てくるモンスターがレアアイテム持ってたりとかね。
 それが宝石だったりすると、きっと吹きすさぶ嵐の中ルンルンとした鼻歌をききながら全身ずぶぬれになってモンスターが出てくるのを待つことになるんだわ。きっとそうだ。

「ほら、サラっちの武器! 実は『ドラゴンナックル』だったんだよ。すごいよねナックル。ウフフうーそでしたー☆ なんてつまらないこといわないからどうか口をきいてくれないかな、なんてちょっぴりセンチなひとりごと……」

 あー、世の中には雑音が多いわ。でも平気。私、一人で生きていくの。雑音なんて耳に入れずに歩いていくの。


「あ、看板だわ。城下町はこちらって。
 ……黄色い道、この道をたどっていくといいんじゃない?」


 なんだかでっかいミミズを駆逐したりしながら道を進んでいった。通りがかる人たちと挨拶を交わしながら、北西に進んでいく。
「魔法使いの塔ってイベントに挑戦するの! レベルは12よー」
「そろそろ職業について真剣に考えた方がいい頃よね。魔法使いでしょ? 魔道師とか魔法剣士とかあるわよねー。そうそう、神殿には行った方がいいわよ〜」
 戦士の二人連れのお姉さんにノアがからまれていた。
 黒い服のオーソドックスな格好のノアが物珍しい、なんつって。ほうほう、しかし魔法戦士ノアかあー、想像つかないな……。この子はあくまでも魔法を使うタイプと見た。シロウは例えば暗黒剣士とかいいかもね。運が悪いあたりなんとなくピッタンコな気がする。

 私、
 私は――――、どうだろうな。やっぱ肉弾戦専門のままでいくかというと。うーん、たまには魔法を使ってみたいなあと、思うわよね。やっぱ楽しそうなんだもん。でも専門的に魔法を使いたいかというとそうでもない。
 ちょっと思うのは、僧侶スキルもちの武闘家ね。回復魔法はないと、やっぱこの先つらいと思うんだわ。
「ココロのオールを失ったアナタの相談に乗りたいと思う、ボクはナビなんですが……」
「………………」
「進路、それはココロの旅路。進路。それは成績が足りない君の、宿題が終わってない君の、教師殴っちゃった君の、遅刻ばかりこなしてきた君の悩みそのもの。進路……」
「いいから一直線に言いたいこと言え」
「あ、うん。
 ボクってこのままでいいと思う?」
「………………」
「あっ、ちょっと待ってェェ、冷たい目で見下すだけっていうのはヤメテェェ。
 ココロの地図を失ったあなたの、オールになりたいボクの……」
「実際地図失ってるんだけどさあ」
「あ、うん、そんなことよりね。城下町にはいろんな施設があるんだけどね。やっぱりモンスター狩り場に行くのがオススメだよ。んでモンスターを倒した数を調べてもらうんだー。ハンターシステムっていうのがあってね、設定した種類のモンスターを倒していくと、その数によってアイテムがもらえるんだよー。
 たとえばケモノ系とか、虫系とか……あうっ、な、なぜ握りつぶそうとするんですかッッ」

 なんだかね、真面目にナビをされてもむかついてしまうんだけどね。もう、どうすればいいんですか。



 そして私たちは黄色い道を進んでいく。
 黄色い道で思い出す物語があるなって考えてたら、遠くに蜃気楼のように都があらわれた。空を風船が舞っている。ふわりふわりと宙を漂っている。
 緑色の石でできた町。別に眼鏡をかけなくても目がつぶれたりしない……、豪奢な町。世界で一番幸せな国王のお城。たくさんの色とりどりの旗が飾られている。
 丸い円弧をえがくアーチ、黒い帽子をかぶった門番が立っている。

 城下町ジョナ・イースター。そしてヴァルデンポンタス城。
 私たちは国の中央にやってきた。そして……、王様がこの世で一番大事にしている宝石のようなお姫様にひとめ、会いに来たのだ。


NEXT?



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