LV3 story-6 世界で一番我が儘な姫君 〜優柔不断は許されない〜 |
姫君のために戦う。 それはもちろん、冒険の華だ。ドラゴン相手に大立ち回り、戦果を華々しく捧げて、大喜びの国民と王様を前にして、姫君の愛を得て冒険者は、やがて勇者と呼ばれるように……。 て。私、女だから! このちびっこい桃の愛を得ても、何も嬉しくないから! 即座に頷くべきなんだろうな。でも、ちょっと迷いがあった。なんだろう、この奥歯にスルメがはさまったままどうしても取れない感覚……スルメじゃなくて魚の骨もうっとうしいよね。なんて経験をもとにした台詞を語ってる場合でもなくて……? 「は!?」 |
||||
|
||||
あれあれあれ。選択窓が立ち上がってるよ。 姫様はにこにこしたまま、固まっている。 他の連中はほわほわ状態のままだった。ので、私は…… |
||||
******* |
||||
「ごめん!」 「いや、いいよ。俺たちもまともに考えられる状態じゃなかったし」 「でもまさかこんなことになるなんて」 「別に構わないわよ」 二人とも私が謝るのを許してくれた。 姫様を前にして私が選んだ選択、それは…… 「ちょっと待ってください……」 だった。 姫様は「フーン」と鼻息をもらすと、 「まぁ時間はまだある。のぅ、そちは知っておったか?」 「はい?」 「わらわを前にして一度断ったイベントは、二度と発生しない」 「はい!?」 アリエッタ姫はどこか小悪魔的な微笑を浮かべた。な、なんなの。なんでそんな表情もとっても可愛いのよう。 「わらわを前にして断るは、言語道断。しかし保留という煮え切らぬ態度もまた、それに準ずる愚かな真似! もはやそちはこのイベントを断ったも同然! しかし、どうしてもこのイベントに参加したくば……あと240カウント以内にわらわをつかまえてみよ!」 イベント発生、だった。 その名も「逃げる姫様を捕まえて!〜そよ風のように」!! なんなのこの曰く言い難いネーミングセンスは! 二度と参加できないとなると、やはり「参加したかったかも……いや、したい。とっても参加したい。いや、参加できないといつまでも心残りになってしまう!!」という心理状態に陥ってしまう。 というわけでほわほわ状態を脱したノアとシロウに、状態を説明して、謝ったのだった。 |
||||
******* |
||||
「アリエッタ姫を捕まえて、もう一度イベント参加をお願いしないといけない訳ね」 「うん」 「で、彼女は今どこにいるの?」 「………………」 部屋には私たちの他に、ユリアさんが残っていた。 「ユリアさん! アリエッタ姫は今どこにいるか分かります?」 ユリアさんはぼんやりしている。 「……ユリアさん?」 はっ、と気がついてユリアさんはぱちぱち瞬きをした。 「どうしたんですか」 「えっ……あの」 ユリアさんはぽっと赤くなり、そして両手で頬を押さえた。 「何かあったんですか……?」 「あ、あの……恥ずかしい私」 「え?」 「久々に見る姫様はなんっっって可愛らしかったんだろうって思って……私、もう姫様のためならいつでもなんでもできちゃう……そんな自分が怖い」 全員ですーっと引いた。 「あ、ごめんなさい。気にしないでくださいね。 ……サラさんは姫様のプリンセスボイスをきいてもほわほわ状態にならないんですね。珍しいパターンですね。話には聞いていましたけど、本当にそういう人がいたんですねぇ……」 やめてください人を珍獣のように見るのは。 「イベントは一度断ると二度と参加できないです。それに、姫様のご機嫌が回復するまでの間、お城に入ることもできません。回復までの期間に関しては、ランダムですから……なんとも。 私も一度、お断りしたことがあったんです。いえ、お恥ずかしながらイベントをためすぎてしまって、限界を超えてしまったの」 愛は無制限でも、イベント数は制限ありだったのね……。 「そのときの姫様の悲しみといったら……、私これからは絶対に姫様に頼まれたことを断ったりなんかしない、と誓ったものです」 「はぁ……」 「姫様はわりと執念深いので、気をつけた方がいいですよ? ほら、カウントを見てください」 「だっ!?」 |
||||
|
||||
減ってるーー! や、当たり前だけど。着実な減りが焦りを呼びます。なんて冷静に分析してる場合でもなく。 「ごめんなさいユリアさん。アリエッタ姫はどこに行くと会えるの!?」 「えーーと、姫様は……ドレスルームで着替えたり、ティールームで紅茶をたしなまれたり、あと謁見室で公務をなさっておられたり」 「分かった、行きます!」 「あ、私もとりあえず一緒に行きますよ」 ユリアさんが一緒に来てくれることになった。 といっても、パーティ組んだわけじゃなくて、ただ同行しているだけなんだけどね。 ユリアさんの言うとおり、部屋から部屋へ動き回った。 ドレスルームでは ティールームでは 「残念ですが、アリエッタ姫はたった今出て行かれました」 ティールームでは 「残念ですが、アリエッタ姫はかなり前に出て行かれました」 謁見室ももぬけのから、廊下を走り回るうちにカウントは200にまで減ってしまった。 「ちょっと、休憩しましょ」 ノアが提案する。 「うん……ほんとにごめんね。あのときちょっと迷っちゃったせいでこんなことに」 「いや、いいよ。俺たちもほわほわになった罪があるし」 それはあんまり罪じゃないと思うのよね。 うーん、あのときなんで迷ったりしたんだろ!? というかあんな選択肢が出てくるとは…… 「でも普通は、受けると断るの二択よね?」 ノアが言う。 「ん……?」 考えてみる。 そうだね。確かに、普通はその二択のはず。 「なのにちょっと待ってください、ていう選択肢があるってことは、なにか意味があるんじゃない?」 「そう、かなあ……」 「私はそう思うわよ。それにこのカウントもなんだか怪しいし……」 |
||||
|
||||
姫様口調でカウントしてくれるこの窓。純粋な時間経過で減ってるわけじゃないみたい。私たちが何か行動を起こすごとに、減ってるのだ。扉を開けて中を確かめたり。メイドさんに話を聞いたり。 「姫様はお風呂に入られています」 なんて直接的なヒントをきくと、一気にカウントが5も減ったりする。 ……でもお風呂に行くと、そこはもぬけの殻なんだけど。 「あーん、ただひたすらカウントが減っていくんだけど」 「うん。ちょっと……あれ?」 シロウが声を上げた。ので、カウント窓をみると、 |
||||
|
||||
コメントがいつの間にか入り込んでる! しかもこんなちっさい字で。 カンナが、 「ヒントをきくとカウントが消費される模様です。50パーセントですね。えーと、92ポイントになっちゃいます」 と計算してくれた。 「どうする? ヒント、きいとく?」 「そうねぇ……このままじゃジリ貧だし、いいんじゃないかな」 「うん、俺も賛成」 と三人でそのヒントを聞くことに同意した。 すると、 「今日は青薔薇の日! ゆえに民草たちの話を聞くことにしようぞ」 とアリエッタ姫の特徴ある声が直接響いてきた。 |