LV3 story-6 世界で一番我が儘な姫君 〜運命一転〜 |
「民草の声を聞く、ですって〜?」 だったらまさに今私たちの声を聞いて! なんて心になってくるんだけど。 私たちはユリアさんを振り向いた。 「どこに行けばいいんですか!」 ユリアさんは、今のアリエッタ姫の声にすらほわほわしていた……。 「はぇ? え、っ……と、大ホールですね。 二階に下りて大きな廊下をまっすぐ北に進んでいくと、大きな扉があります。青薔薇の日でしたら、きっとたくさん人が並んでいるのですぐ分かるんじゃないかと……」 言われるとおりに走って行った。 このお城、大きいけどつくりはとても単純なのよね。私でも、まあ迷うことはない。たぶん。 ユリアさんの言う大ホールにもすぐたどり着くことができた。 しかし……! 「姫様ー」 「ありがたやありがたや」 なんて両手もみあわせた旅人たちがたくさんたくさん並んでいて、そしてアリエッタ姫参りをしていたのだった。 大ホールの中は、人、人、人。まるで冒険者博覧会である。 私たちほど今アリエッタ姫を求めている冒険者が他にいるかっていうのに、行列は割り込みを許さない。大ホールの中央、一番奥にアリエッタ姫は鎮座している。そして一歩一歩進んでくる旅人たちの話をきいているのだ。 「わらわに会いに来てくれたのかや? とても、嬉しいぞよ」 「姫様……!」 あああ、ここは単なるファンクラブなのか。 カウントは着実に減っている。 アリエッタ姫に冒険者が話しかける度に1から3くらいずつ。数字はランダムなのかな? 残りカウントは70……、多いかどうか、微妙なところだけど。でも減りが早い! 「うーんと……前に並んでる冒険者の数は、32人か……、どうかなあ。ちょっと危ないね」 ノアが眉を寄せて考え込む。 「ユリアさん……」 とシロウが何か質問しようとそちらを見ると、ユリアさんはアリエッタ姫を遠くに見つめて、うっとりしている最中だった。 うん、それファンとしての基本だね……。 |
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「ああ、うう、待つの嫌い〜」 いらいらしていると、シロウに 「まぁまぁ、のんびりのんびり」 とたしなめられてしまった。 「……ん? またウィンドウが……」 |
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「なにこの選択肢」 「え……と。ユリアさーん」 なんだか困ったときのユリアさん頼みになっちゃってるかも……。ユリアさんはパーティメンバーじゃないので、こういうウィンドウは共有して見ることはできない。 「あら、まぁ。私はそんな選択肢、見たことありません……」 と困った顔をしている。そうだよね、これって…… 「どういう選択肢なんだろ? ノア」 「うーん……分かんない」 よね。どういう展開になってるんだろ? 「私たち、アリエッタ姫のイベントをこなすつもりでここまで来たのよね。で、サラが保留にしちゃって……それで、なんだか変なことになってるわよね」 「ごーめーんーー」 「いや、責めてないのよ。でも不思議な展開だなって思って」 「そうですなぁ、ウヒョヒョヒョ」 出てきた。ハチだ。 「なんとなく煮え切らない! なんとなく不安! そんなときは、一発ばーんとやらかしちまえばいいんでげすよ、サラッチ。あんたはそういう女だから……フンギャッ」 「どういう女だ」 なんというか、私がハチをヒドイ目に遭わせていても、もうユリアさんも驚いてくれないんですが……、当たり前のこととして受け入れられてしまってるんだろうか。そうか。 ていうか、この場合一発ばーんとやらかすっていうのは。 怒鳴り込む、だよねぇ。 「ああ、でもそれはオススメできないことです。アリエッタ姫は乱暴な人間をとっても嫌われますから、ゲジゲジレベルにまで嫌われてしまうと、もう二度とお城に入ることができないかも……」 えええ。 「それって、これからお城関係のイベントがあれば、それに参加することができなくなるってこと?!」 「そう、なりますねぇ」 ユリアさんは遠慮がちに肯定した。 「え。それはダメよ」 ノアが身を乗り出した。 「これから私たちが宝石ハンターへの道を歩み出すにあたって、」 いつ、歩み出したのか…… 「アリエッタ姫は必ず重要になってくると思うわ! だって、彼女の目的と私たちの目的は重なるんだから」 私たちの目的というか、ノアの……ええい、そんな細かいことつっこむのはヤメだわ。この子がパーティにいる限り、それは絶対に完膚無きまでに、パーティの目的と化すに決まってるんだもの! 「ここで二度とアリエッタ姫と会えない身分になってご覧なさい。宝石がコンプリートできなくなったら、私、私……」 ノアはぷるぷる震えながら、しばらく力を溜めていたかと思うと、 「焼くわ」 と断言した。 哀れにはかないチョウチョのような私たちは、何を焼くのですかと質問することは、できなかったのでした。 つまり、選択肢を選ばなければいいってことね。 うん、そのくらいのミッションなどコンプリートしてみせる。まかせて。 「ブッ……クスクスクス。サラッチ……俺には分かる。あんたはここでただじゃすまさない女だ」 「すます女ですから。もう、あんたは口を開かないで。ここであんたにつっこんだら」 ウィンドウから選択肢を選ばなくても。「ちょっと待て」と発言したらそれは、選択したことになってしまうのだ。 そして私は、こんがりローストされてしまう。 「つっこまない、つっこまないぞー」 「でもさ、なんかヤバイよね」 「何が!? 私そんなにやばい!?」 「いや、カウント」 |
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「うぎゃあああああ、なにこのミジンコな数字はーーーー!!!! あんたちょっと、シロウ、なんでこんなことになるまでほっといたのよーーーっっっ」 「なんだよ、そんなの俺に言っても仕方ないだろ?! 人が並んでるんだから……」 て、いつの間にか私たちと前の人の間にものすごい間が開いていた。 選択肢について相談していたせいで、うっかり前に進みそびれていたのだ。 「危ない、危ない……後一人だよね。次に謁見できたらそれでカウントは間に合……」 私たちは慌てて走り出した。そして、 そこで、横入りしてきたのは! スライム型のかぶとを装備している背の低い戦士。私が、この城にやってくるときに、金色の風船を奪っていった、にっくき相手!! 「のんびりしてる方が、悪いんだぜ。どけよっ」 なんて押しのけられ、私は――――、私は本当に思わず、叫んでしまったのだった。 「ちょっと、待てぇぇぇーー!!!!!!」 って。 うん、ちょっと可憐にはほど遠かったかもしれないけど。 |
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大ホールは、しーんとしていた。 注目を浴びる、私たち。シロウがうああ、と小さな声を漏らしている。そしてノア様から怒りの波動が、怒りの波動が伝わってくるんですけどぉぉぉ……! しかも、話はそれで終わりではなかった。 「ふは、は、ははーっははは! われら、伝説の盗賊ブルーリボン団!」 身体が、勝手に動いた。 声が、勝手に出た。 「この城で一番貴重なものをいただくためにやって来たっ!」 叫んだのはシロウ。 そして、ノアが、 「……一番大事なもの、それはアリエッタ姫!!」 と、アリエッタ姫を抱き上げたのだ。 「我らの目的は、果たした! ではこれにてさらば!!」 「さらばーー!!」 私たちは運命の糸に操られながら、大ホールの中をぼかーんとしている冒険者たちを眺めまわした。誰も、動くことができなかった。 「そんな。そんなの、許しません!!」 ユリアさんの他には。 「どういうことですか! 姫様を返しなさい!!」 あうう、返したいのはやまやまなんだけど、どういうことかそれができないのよおお!! ユリアさんがこんなに怒っている顔は、初めて見た。 「伝説のブルーリボン団、ではこれにて」 「どろん!!」 私たちは、まるで決められていたかのように窓から飛び出して逃げていく。 運命は変転するって、いうか、これ、どういうことーーーーーっ!!? |