「はー、はー、はーー……」
走りに走って私たち、ようやく城下町までやってきたのだった。
ヴァルデンポンタス城は、風船をつかんでのぼっていっただけあって、出るにはやはり落ちる必要性があった。下りる専用の黒い風船があったんだけど、それをつかむのにかなり苦労したのだ。
……なぜならユリアさんが本気で追いかけてきたから。
なんというか彼女の背中に修羅を見た。
「早く、出入り口を封鎖しなさいっ!」
と、おそろいの軍服を着た姫様親衛隊に命令を下している。
ユリアさん、そこまでの実力者だったのね……なんて、感動している暇はなかった。
だってここでつかまったら私たちどうなるの!?
というか、今の時点で十分私たち、どうなるのっ?
城下町ジョナ・イースター。
その裏通り、宿屋の後ろ側に並んでいた汚れた木箱の上に座って、ようやく息をつくことができたのだった。
親衛隊にエンカウントした場合、私たちは戦うか逃げるかしかない。
しかも、5ターン以内に倒さないと、味方を呼ばれてそのままお城に連行され、牢屋の中に入ることになると教えてくれたのは、モンタだった。
慌てて私たちは全力で逃げることにつとめた。回復度外視で逃げることにしたら、いつも5ターン以内に逃げることはできたのだ。
「ああ、う……うえーーん」
「泣くなよサラ。お、俺も泣きたいんだけど」
「のぅ、誘拐団のくせに根性がまるで足りぬ」
「そうよ、二人とも。ここまでしたからには、そのテイタラクじゃ困るのよ」
「………………」
「………………」
それは単なる沈黙だったけど、シロウと心・同調させた沈黙だった。
ノアと、そしてノアが腕に抱いているアリエッタ姫……二人はなんとも凛々しい表情で私たちを見つめていたのだ。
「の、ノア〜……、怒ってないの?」
「怒るも何も、怒ったってどうしようもないでしょうがこの場合。違う?」
「違わないけど〜……」
「でしょ? だったら合理的に考えましょうよ。
お姫様を利用していかに大量にお城から宝石をいただくか。それが、これからの私たちにとって一番大事なことじゃない」
「違う! それ、違うと思う!!」
シロウがつっこんでくれた……。 |
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私たちの身体が勝手に動いたのは、特定の選択肢を組み合わせて選ぶことによって発生する、強制イベントによるものだった。
……時々そういうのが、あるらしい。このイベントに参加すると決めて、準備して、頑張ってクリアー! なんて着実な人生もいいけど、でもそれだけじゃ面白くないよね! ということで、プレイヤーをどっきり驚かせてしまおうというR=R社のお心遣いらしい。
「ええ。寿命が縮みそうなお心遣いですことね…………!!」
「むぎゃあああ、そんなに握らないでェ」
「で、で、私たちどうなるの!?
誘拐団? てか、ブルーリボン団て一体なんなの」
「あ、誘拐団の名前は、装備してるアイテムなどからランダムで決定するんですぅ」
カンナが教えてくれた。確かに私は、錬金術師ラガートにもらったブルーリボンを装備してますけどさ……。
「……今のところ、カルマが上昇してることはないな」
シロウが言った。
「盗賊とか、そういうのに一度手を染めたら、どうしようもないほどカルマがあがって、リンダポイントもうなぎのぼりになるってきいたことがある。
でも俺たちはまだ、そうなってない」
「そうじゃ」
とん、とノアの腕から地面に着地したアリエッタ姫。
得意そうな笑顔で私たちを見回した。
「ユリアは怒っておったが、わらわがたしなめれば許すじゃろう。
誘拐団かどうかを決定するのは、わらわの心一つ。わらわがこれは誘拐じゃと言えば、そなたらのリンダポイントはうなぎのぼり。
しかし、わらわの『一度お外を見てみたい……』といういじらしい願いを聞き届け、少々乱暴な手段でもって城から出してくれたのだとでも弁明すれば、そなたらはわらわの友人として許されるであろう」
私たちは顔を見合わせた。
ど、どーゆーこと……。
「うん。決めたぞよ。
そなたらは、わらわをつれて外に出るのじゃ! わらわ、一度竜なるものをこの目で見たいと思うておった」
一度、見てみたかった。
……って。
「じゃあつまり」
ノアが明晰に分析する。
「あの選択肢を出していたのは貴方で、私たちはまんまと狙い通りの選択肢を選択してしまった。つまり私たちは貴方の願いを叶えるための、スケープゴートになったというわけなのね……?」
「そういうと角が立つのう。別にわらわは、おぬしたちがあの選択肢を選ぶとは思うておらなんだ」
「でも結局こうなっちゃった」
「ああ、こうなってしもうたのう。うふふ」
いやな予感。
これからに対する、ものすごいいやな予感が胸をしめています、95パーセントくらい。
「やっぱこれ、返品してこない?」
「うーん……」
「これとはなんじゃ! 返品とはなんじゃ! わらわをもの扱いするでないわ!」
姫様は地団駄を踏んで悔しがるが……。
「うううー……でも、いいんじゃないかな。
このまましばらく姫様と一緒に行っても」
そう言ったのはシロウだった。
「おお! そう言うてくれるか。そなたはなかなか見込みがあると思うておったぞ!」
アリエッタ姫は喜んでシロウに抱きついていく。
その様子もとても可愛いんだけど……
「シロウ、あんたまさかそのちびっこの色香に迷ったんじゃ」
「迷うかよ! でも、こうなったら城に返品しに行くのはダメだと思うんだ。……アリエッタ姫は『わらわは誘拐されたのじゃ、とっても怖かった!』という可能性が……」
その瞬間のアリエッタ姫の微笑を、見てしまった。
……100パーセントぶっちぎってる。
「このままイベント消化するのは、元々考えてたコースだろ? ちょっと意外なおまけがついただけで。頑張ってイベントクリアーすれば、誘拐団てことにはならないんだし」
「そうねぇ……」
「逆に言えば、俺たちあのイベントに参加しなければ、どうしようもなくなるんだよ」
そのとき、向こうから
「見つけたか!?」
と言う声がした。
「いえ、まだ見つかってません!」
「えーい、このノロマ! いいからさっさと探しに行きなさい。
……ふふ、ふふふふ。見つけたらどういう目に遭わせてくれようかしら……」
とても、おそろしいことに、あれはユリアさんだ。
アリエッタ姫への偏愛が、私たちに対する成敗パワーとなって、今解き放たれようとしている。というかあの人、すごいサディスティックな香りがするんですけど……とっても怖いんですけど……ど、どういうことなのあんなに優しそうだったのに!!
「さて、どうする。おぬしら」
にこにこしたアリエッタ姫。そして、 |
どうしますか? |
1 姫様のために、この命捧げます |
2 この話、なかったことに |
|
なんて選択肢が現れた。
……この窓、この姫様の心一つで出てきたり消えたりするのか。なんかちょっと、一度やってみたい気がする。なんてことはともかくーー……
私たちは顔を見合わせた。
「あ、ちなみに言うておくが、追っ手がうろうろしているのは昼間だけじゃ。夜はそなたたちも城下町を歩くことができるぞよ。
それに、わらわもお城から出ての生活は、そう長くは耐えられそうもない。……うーん、おおまけにまけて、3日間が限度じゃな。それまでにイベントをクリアーしてもらう」
3日間!?
あの、竜が出てくるイベントをこれから三日でクリアーしないといけないのっっ!?
アリエッタ姫は話を続けた。
「ついでに言うと、貧乏暮らしはまっぴらごめんじゃ。変な食べ物もごめんこうむる。一定時間内にキャンデーを捧げるがよい。捧げ忘れた場合、痛い目に遭うかもしれんが……まぁ、それはそのときの話じゃな」
キャンデー……。
「それに、わらわは歩くのはいやじゃ。このように便利なものがあるゆえ、おぶってもらうことにする。まかり間違っても走らせよう、などとはしてくれるな。わらわはそのような侮辱には耐えられぬ」
このように便利なもの、といって姫が出してきたのは、どこからどうみても、壷だった。
「……どっから出したのこれ」
「……見えなかった」
壷の中に姫様が入る、と。
なんだかたこつぼみたい、だよ、ね。
「……とまあ、わらわも謙虚じゃ。このような事態ゆえ、この程度の条件で許してつかわそう。で、どうじゃ?」 |
どうしますか? |
1 姫様のために、この命捧げます |
2 この話、なかったことに |
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*******
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「うわっ……、これ見てくれよみんな!」
とシロウが言うので見てみたら、
「あはははは、なにこれー!?」
「ぷっ……」
「うるさいぞおぬしら。さっさと出発すればいいものを、なにをぼやぼやしておる!」
シロウのアイテム欄に、
「・アリエッタ姫(壷入り)」
とあったのだ。
「アイテム!? アリエッタ姫って、アイテムなのー?」
「あははははははーっ」
「みんな、そんなにウケたら悪いよ……! ぷっ」
「ぬぬぬぬぬ、おぬしらぁぁ……」
姫は顔を真っ赤にして怒るが、いやしかしその風情もなんとも可愛らしい。
そのとき、
「いたぞーーっ!」
と姫様親衛隊が現れた!
「しまった、発見された!」
なんて口走ってしまったあたり、私たち誘拐団になりきってるのかもしれない……。
親衛隊はぞろぞろと並んでいる。剣を装備した軍人、3人だ。
「早く増援を呼べっ!」
と、戦闘音楽が流れ出す。
「シロウ……、アイテムならさ」
「え……?」
と、ぼそぼそ話しかけると。シロウは半信半疑で言われたとおりの行動に、出た。
つまり、
→使う
→アリエッタ姫(壷入り)
という行動にだ。
その瞬間、
「いやじゃいやじゃいやじゃあああああああああーーーーーーー!!!!!!!!」
という、大音声。
親衛隊はすぐにほわほわ状態に陥った。
その間に私たちは、逃げおおせた。
「人間を倒すと」
「モンタ?」
「リンダポイントが上がりやすい……だから、逃げるのが一番いい。アリエッタ姫の使用は無制限、できるだけ彼女を使って、逃げるべきだ……」
そ、そうか。お姫様完全にアイテム扱いだけど。これはこれで、オッケーてことなのかな?!
とりあえず……伝説のブルーリボン団、行く手は見えないけどとりあえず行動開始!! |