RINDA RING  LEVEL03-14「錬金術師との再会」



 ラガートはこの前みたときとは服装が違っていた。
 黒い、裾の長い服。なんか、いよいよ悪人じみて見えるわよそのコーディネート。

「なにはともあれ、元気そうだな」
 そのなにはともあれの内容が悪すぎるんだ。と、自分の口から言うには抵抗があった。
 眼鏡は微妙な笑いから立ち直ると、いやにさわやかテイストな笑みに顔をチェンジさせた。眼鏡の錬金術師がきらきらしたスマイルを浮かべているその様子は……パンチパンチキックローリングソバットに値した。

「元気は元気ですけど」
「睨むな。自分たちが悪いんだろう? 誓いを破ろうとしたんだから」
「あんたこうなること知ってたの!?」
「当然」
 ラガートは意味もなく前髪をかきあげた。
「お前たちは運のいい方だぞ?」

 なんか、見える。この男がこのシステムを利用して悪辣な真似を繰り返してきた様子が、なんか目に浮かぶ。きっとカルマとかものすごーく高いんだろうな。システム上のポイントは低いにしても、世界中の方々から怨念を送られてそう。

「誓いを破った者はランダムで酷い目に遭う。ダンジョンにテレポートしたり、『私は誓いを破りました』としか発言できなくなったり、後は……アイテムが全てやくそうに変わったりな」
「げっ」
 一応、慌ててアイテムを確認してみた。が、そんな事態にはなってなかった。よかったああああ。
「じゃ、この汚れはいつとれるか知ってる?」
 私たち全員、顔が判別できるかどうかーって状態。ちなみにシロウと一緒にかぶったはずのお姫様は、ばっちりすてきな桃肌のまま、今はくかーくかーとお眠りになっている。ちくしょう寝顔も可愛いんだな。
「知らん」
 ラガートはあっさりそう答えた。
 あっそう……。

「じゃあ、商談にはいるとするか。お前たちが所有している女神像を出せ」
「…………………………」
 ノアは全身からいやそうなオーラを放っていたので、
「ノアっ、がんばって!!」
思わず応援してしまった。

 ラガートは手の中の女神像をいたく丁寧にしまうと、
「じゃあ、代金は3000ゴールドだな」
「ちょっっっと待ちなさい!!! さっきこの女神像、時価で7000ゴールドってきいたわよ!?」
 ノアが全力で文句を言う。
 そうよそうよ。さっき確かにきいたわよ、7000ゴールドって。
「仕方あるまい。お前たちは何があろうと俺に女神像を売ると誓った。それは、こういう事態を示している……そんなことも分からずに誓ったお前たちが悪い」

 神様。
 神様。
 一発だけでいい、こいつを殴らせて。

「なにその悪行三昧!! そんなことしていいと思ってんの!?」
「もちろん、いいと思っている。当たり前だろう?」
「でも、そういう真似をする人とはこれからもつきあっていけるとは思いません」
 お? シロウが珍しく怒ってる。
「これから、あなたと結んだ誓いを切るための方法を探します」
「ふん。そんなことをしても、こちらが了承すると思うか?」
「あるんですね、誓いを切る方法。だったら俺たちは絶対に実行しますよ」
 シロウはたたみかけた。ノアがうんうん頷いてる。
 お、ラガートが眉を寄せてる。
「でも、あなたの態度次第ですよ。
 ……何故か、このパーティは運がいいみたいなんです。俺、前のパーティじゃこんなにさくさくイベントをすすめることはできなかった」
 そうなの?
 ノアを見つめると、肩をすくめていた。

「何が言いたい」
「このパーティなら、次に女神像を手に入れる可能性が高いんじゃないかと思います。
 仲良くしておいて、損はないんじゃないですか?」

「……ふむ」
 ラガートは考え込んだ。
 そしてシロウの背後のツボを見つめた。

「それはもしや、この国の姫君か?」
 ツボの中で姫様はとっても幸せそうに眠っている。
 一瞬たたき起こしてこの性悪眼鏡をほわほわ状態にしていただこうかと思ったけど、なんかほわほわしたコイツが想像つかなかったのでやめといた。なんか、気持ち悪いかも知れないし。

「そうか、誘拐団イベントか……ふむ」
「なんかこのイベントについて知ってるの?」
「そういうイベントがあるという話は、きいていた。発生率が異常に低い、とも」
 うーん。
 確かに、私たち運は……いいのかも?
 て、ちょっと待って。今の私たちペンキかぶってるわよ。それでどうして運がいいとかいえるかな。
 いやでも妙におっきなイベントに遭遇してる、と言われればそれはそうかも。

 はじめのイベントでは、単なる幽霊屋敷かと思いきや、はじまりの魔女についての情報をいろいろ知ることができたし。
 次のイベントではこの眼鏡男と出会うという災厄はともかく、女神像を手に入れたし。
 ……そしてこれからのイベントではファンタジーの象徴、あこがれのドラゴンと出会えてしまうという超スーパーラッキーに……いかん気持ちが落ち込むわ、やめておこう。


「そうか。ふむ……確かにお前たちは運がいいのかも知れない。だったら、少しは投資する価値があるのかも知れないな。誰も手に入れたことのない女神像を手に入れる可能性も考慮すべきか……そのへんの情報を提供していいかどうか、確認の必要ありだな」
 ひとりで喋って、そしてラガートは頷いた。

「分かった。この女神像は、5000ゴールドで買ってやろう」
「ちょい待ち!! 2000ゴールド足りないじゃないのっ」
「すまないが、手持ちの金がそれだけだ。元々値切るつもりだったからな」
「…………」
 くくくくくくく。
 足下見られるにもほどがあるっ。




*******




「その代わりといってはなんだが、アイテムをやろう」
「なに!?」
「魔法使い用に、この銀色のナイフをやろう。敵に必ず当たる。しかし、100ポイントしかダメージを与えることはできない。耐久度は5回まで。大事に使え」
「……そりゃどうもー」
 このナイフ、はじめは「100ポイントだけなんて役に立たないわよ、しかも耐久5ってどういうことよ」て思ったけど、その実とってもお役立ちアイテムであることが分かったのは、少し後の話だ。
「あとは……そうだ、この回復のツボをやろう。ツボの中にくすりが入っている。アイテム欄をひとつしか使わないのに、回復は20回だ。素晴らしいだろう」

 なんでツボが集まってきますかうちのパーティ?
 いいけど。いいけどさ。

「シロウくん、ツボが呼んでるわ。装備なさって」
「なんでだよ! 俺、もうひとつ背負ってるだろ!!」
「だいじょうぶ、これは装備するツボじゃなくて、アイテムのツボだから。もってりゃいいのよ。あんたが持ってると戦闘の最後のターンで回復することができるから、とてもOKな感じなのよ」
 シロウは戦士だから、行動がターンの最後になりがちだ。
 ターンの最後に回復しておくと、次のターンで敵の攻撃を浴びるときに心強い。

「次のイベントは……そうか、虹の町に行くのか」
「そうよ。そういや、さっさと行かないと制限時間ありなのよ、私たち」
「その町のことは知っている。虹のおりる町、クールデルタだろう」
「じゃあ、虹の谷についても知ってる?」
 ノアが訊くと、ラガートは首を振った。
 ちぇ。
「行ったことはない、というだけだ。話にはきいたことがある。
 虹の町の北に、虹の谷があるということだ。そこには竜がいる、という話もきいた」
「ふーーん?」
「詳しくは言えないが、気をつけろ。虹の町では、どんな話も信じるな」
「え?」
「虹の町の外に、教会がある。中の宿屋は使わず、そこで一休みさせてもらうといい」
 なんだろ。この煮え切らないアドバイス……。
「分かったか?」
「はぁ……」
「そうだ、イベントが終わったらこの城下町に戻ってくるだろう? そのときにまた会おう。ナビを使ってもいいし、暗黒教会で邪術士レイモンドと言えば、俺に連絡がつく。どちらでもよい」
「たくさん名前をお持ちで……」
「まあ、お前たちはさっさとペンキを落とすことだな。じゃあな、私は忙しい。失礼する」

 言うと、ラガートは去ってしまった。
 こっちだって、こっちだって忙しいわよー!! とやつの消えた空間に叫ぶと、
「やめなさいよ」
とノアにたしなめられてしまった。




*******




 とりあえず。地図を確認する。
 虹の町の位置を確認し……アイテムも、確認。ここに来る前にシロウの剣なんかは、武器屋さんで整備しといたのよね。
「時間に余裕ができたら、服ももっとおしゃれしたいよね」
「ねー」
「じゃ、行こうか!」

 そして私たちは、夜が明けた城下町を出て、次なる冒険に出発した!!


NEXT?



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