RINDA RING  LEVEL03-15「ホラー教会」



1.「姫君のお願い」
(推奨レベル?)

  「一度お外を見てみたい……」
 可憐な姫君の願いを受け、彼女をお外に連れだそう!!素敵な冒険、華麗なドキドキ、ファンタジックドラマが姫を待っている!
 ……期限は姫が満足するまでなのじゃ!

 という窓を見たとき、ちょっぴり腰がへなへなになった。語尾がいっこだけ姫になってるわよ。
 そしてファンタジックなドラマを姫様が満喫するために、私たちは身を粉にして働かないといけないっつーわけよね?

「姫、キャンデーの時間じゃないかな」
「おう、忘れておったのじゃ。そなた気が利くのう……」
「そんなことないよ、じゃピンクのにする?」
「わらわ今は金色のが食べたい気分じゃのー」
 壷を背負ったシロウ君は、見事に適応している。


 次の冒険の舞台は虹の町クールデルタ。
 城下町から北西の方向に一日進んでいくとレンガの道があって、そこを進んでいくと虹の町に通じている。
 私たち、けっこうレベルが上がってるから普段の雑魚キャラ戦闘には全然困ることなんかないのよー……と言いたいところだけど、のんびりちまちま戦っていくにはあまりに時間が足りなさすぎる。
 それに私たち、誓いを破ろうとした罰でペンキが目に入ってるわよね。それで、戦闘において
「うわっ目が痛っ! 痛っ!」
「前が見えないーっ」
という事態にランダムで陥るのだ。そんな風になるのが一人ならいい。だけど、ランダムで全員が陥るのだ。
 それでバトルカブトムシに倒されそうになったんだから、やばいったらありゃしない。


「おーい、だいじょうぶぅ?」
 弓矢をもったおねーさんが助けてくれなかったら、あのとき全滅してただろう。
「へぇ。今から虹の町に行くんだ。うん、方向はあってるよ!」
「お姉さんは虹の町に行ったの?」
「ううん。あんまり行かない方がいいとかいう噂きいたから、近寄らないようにしてたの!」
 そうか……て、
「どんな噂ですか!?」
「近寄らない方が良いって噂」
 お姉さんは澄んだ瞳で答えた。
「具体的な内容は……」
「知らないの、あははごめんね! なんかやばそうだなーと思ったら即撤退、が私のスタイルだから!」
 私もできればそういうスタイル貫きたいんだけど、なぜだかどうしてだか危険に直行してるのよねぇ。
 てことはともかく。
「でも綺麗な町らしいよ。条件が合えば、町の真ん中を虹が通るんですって」
「条件?」
「さあ知らないけど、イベントかな。そうだ、イベントって言えば私最悪なのに当たっちゃって」
 お姉さんはぶるぶるっと身体を震わせながら語った。
「塔に生えてる薬草を採ってくるイベントだったんだけどね。
 ……ラスボスがオカマの魔女だったのよ!」

 ぶっ、と。口の中に何か入ってたら吹き出してただろう。
 あぶないあぶない。

「手を離したら薬草落としちゃうし、魔女は襲ってくるしで大変だったわよー」
「でもオカマなのに魔女っていうの? 魔男じゃないの……いやでもこの場合は」
 ノアがぶつぶつ悩んでいる。
「いや魔女ってのはきっとスタイルの話だから、性別なんて些細なことなんじゃないかな、この場合」
 シロウが見事に包容力のある意見を口にする。


 それが私たちとオカマの魔女の運命がクロスした、最初だった。
 ……なんてことがなければいいなと切に祈る。なんなのオカマの魔女って。

「んじゃ頑張ってねー!」
「助けてくれてありがとー。お姉さんもがんばってね!」



 そして私たちはたどり着いた。
 虹の町クールデルタのそばにある、教会に。





*******




「あ、夜になっちゃったね。この辺地形が森だから、夜はモンスターが強くなると思う。教会に一泊させてもらおうよ。あの男もすすめてたことだし」

 そうだ錬金術師レガート。あいつは虹の町では誰の言うことも信じるな、泊まるなら
この教会にしておけとアドバイスをくれたのだ。
 たぶん下らない嘘とかじゃないと思う。うん。

 地形によっては昼と夜のモンスターの強さがえらく違って、へたすると全滅につながる。森の神様みたいなモンスターと出会って、レベル20のパーティが全滅したってきいたもんね! カンナに。

 教会は、虹の町に面したところにひっそりと建てられている。背後に森を背負い、なんか鬱々とした暗い雰囲気。

「もしもし、誰かいませんかあ」
「もしもしって電話じゃない?」
「いいだろそんなこと」

 ぎぃっと音を立てて扉が開いた。
 中は、椅子が並んでいる。なぜか円形に。転んでる椅子もある。床にはなにか怪しげな文字が書かれてて、真面目に見入っていたノアが、
「YO MA NA I DE……読まないでぇ? なにこれ」
と眉を寄せている。

「なんだよこのおどろおどろしい雰囲気!?」
 シロウはびびっている。
 うーん。窓の外ではピシャーン! と雷の落ちる音がして、
「なっ、なに!? 天気変わった!?」
と扉の外を見ると、よく晴れている。
 ……でも教会の中にいると、ピシャーン! ごろごろごろごろ……ざーーーっと雷が落ちて雨が降り出した音が聞こえる。
 でも外はいい天気。
 なにこれ。

「あのお……」
「うわあ! びっくりした」
 いきなり話しかけられてしまった。
 そこにいたのは、青白い顔をした神父さん。ひょろりと背が高くて、でっかい三白眼で、目の下にはクマがあり、たれ下げた十字架の重みで首が折れそうなほど痩せている。
「あの……扉、閉めてもらわないと雰囲気でないんですけどぉ……」
「あ、すみません」
 ぱたんとドアを閉めた。
 うん、これで嵐のBGMを堪能できる……じゃなくてだな。

「ひ、ひひひひひ。いかがなさいましたぁ……?」
 神父さんは、カーズさんと名乗った。
「あの」
「いや、言わなくても分かります。酷い呪いだ……これだとさぞや苦労されたでしょう」
 あ、私たち頭にまだペンキかぶってた。これ、なかなか落ちない。
 というか呪い!? 罰だから、時間が経過するまでとれないのかと思ってたよ。でも解いてもらえるなら断る道理はない!全然ないっ!
 死にかけたくらいだし、城下町の教会で呪いを解いて貰えば良かったかも。でも城下町を出るときも熾烈なユリアさんの追っかけがあったもんなあ。次出会ったときは、剣の錆にしてくれるうううう、て叫ばれたもんなあ。
「解いてくれますか!?」
「はいはい。もちろん……解いてあげますよぉー……くくくくく」

 な、なんかいやな感じ。

「解くのに何か必要なものはありますか!?」
「はい、ええ。もちろん……お願いしたいことが……」
 カーズさんは凶悪な顔に影を入れてうつむいた。
 なに。この展開。
「なんですか」
「あの……言いにくいんですけどね」
「だから、なんですか」
 ノアがじれて答をせかすと、カーズさんはええと、となおうつむく。

「あの……一泊してってくださいな……」
 カーズさんは顔を覆い、そんなことを言った。


 教会に一泊するのは、拷問だった。
 少なくとも、シロウにとっては。

 ベッドに横たわっていると、
「くっくっくっく……」
「キャアアアアーーーーーーーーーーッッ」
なんて声が聞こえたり、どんどん床をたたいてる音がしたり、雷が落ちたり、ホラー臭満点なのだ! なんなの、この教会。






*******




 朝が来るとシロウはぐったりしていた。
 ノアは機嫌悪そうに、
「気分悪い」
とぷいと横を向き、私はと言えば、
「サラさんは全然元気そうですね!」
とカンナに言われてしまった。

 カーズさんはよく眠れましたか、とききながら私たちに朝ご飯をくれた。
 朝ご飯といっても普通のメニューじゃない。

 絢爛豪華なイチゴケーキなのだ。
「アイテムとしてプレゼントもできます」
というから試しに貰ってみたら、
「イチゴのケーキ……気に入らない相手にぶつけることも可!」
とあった。パイ投げみたいなものか。

「じゃ、いっぱいもらっときましょ。回復アイテムはいくらあっても足りないものね!」
とノアがパンと手を叩き、私たちはアイテム欄に2、3スペースを空けつつ、イチゴのケーキをゲットした。

「ありがとうございます……もらってくれて。
あの、呪いを解いてもよろしゅうございましょうか」
「あ、よろしゅうございます」
 カーズさんはお守りを手に、祈りの言葉を口にした。

「おお神よ、病めるものたちを救い給えっ!」

 目を閉じていると、まぶたの向こうでぴかぴかっとした。
 すると既に見慣れていたペンキのあとが、ノアから消えていた。

「……あれ?」
 でもシロウからは消えていない。
「ノア! 私は!?」
「サラのも消えてるよ。シロウだけ消えてない……」

「すみません、それはきっと……シロウさんは悪神信仰なのでは」
 あ、そうだった。とシロウは自分でも忘れてたらしい。私も忘れてた。みんなで忘れてた。

「悪神信仰の教会に行って、呪いをといてもらってくださいね」
「カーズさんありがとう!!」
「いえいえ、こうやって功徳を積むことも神官として必要なことなんです。お礼なんて言わないでください」
「ううん、でもありがとう! ものすごく助かりました!」

 きくと、カーズさんがこんな怪しげな教会兼宿屋を経営しているのは、
「教会で人助けをしよう! 100人の冒険者を助けたあなたは、神官の技がレベルアップします!
 宿屋は以下からお選びください。
 ■ノーマルタイプ(1000ゴールドご負担いただきます)
 ■豚小屋タイプ(50ゴールドご負担いただきます)
 ■豪華絢爛タイプ(50000ゴールドご負担いただきます)
 ■ホラータイプ(500ゴールドご負担いただきます)」

 ……で、そのホラータイプを選んだものらしい。
「よりにもよってそんな! ノーマルタイプで良いじゃないですか!」
「ところがそのとき財布の中には900ゴールドしかなかったんですよー……ホラー嫌いじゃないし、まあいいかなっ、て」

 カーズさんはにたりと笑った。シロウは文句を言った。……口の中で。


NEXT?



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