RINDA RING  LEVEL03-16「虹の町、クールデルタ」



 そして私たちは、レンガの道の終わり、虹の町にたどり着いた!
「虹の町へようこそぉ!」
 ドーナツを半分に切ったような形をした門をくぐり、中に入る。おそるおそる周囲を見回していたところに、バニーガールみたいなお姉さんに話しかけられた。
「ここは虹の町クールデルタよ。私は案内ウサギのマーリン。
 この町の案内を聞きたい!?」

 お願いすると、マーリンは中央広場まで私たちを連れて行き、地図のカンバンの前に立った。
「ここが中央広場。噴水があります。あれが、ミュンヒハウゼン様の銅像。
 ミュンヒハウゼン様はこの町の支配者でーす」

 ミュンヒハウゼン。すごい名前だなーと思いつつ
「かっこいい……」
と呟いたのは、シロウだった。ちょ、あんた。
「あんた騎士だったらみんなかっこいいって言うんでしょー!?」
とつっこみつつ、いやでもほんとにかっこいいな。背がすらっと高くてさわやかで明朗な感じ。歯がキラッと光りそう。
「ミュンヒハウゼン様は、この建物の中にいらっしゃいます」
と広場にどーんと建ってる、カボチャ型の屋根をした建物を指さした。
「この町で売られたり買われたりする武器や防具やアイテム、この町で起こるイベントも、管理されていまーす。彼の前で嘘をつくことは許されませんから、気をつけてくださーい。
 で、町のつくりをご案内します。
 この辺に武器屋、この辺に防具屋、このへんにアイテム。このへんに……うーんと、適当に歩いてたらたどり着くと思うから、がんばってくださいねぇ。ではではー!」

 マーリンちゃんはちょっぱやで案内をすませると、そのまま去っていった。
 止める間もない。

 うーん? と私たちは顔を見合わせつつ、町を見回した。
 なんか、冒険者の数が少ない気がする。あんまり元気がないような。気のせいかな。
 それに虹の町というからには虹があるんだろうと思ったけど、全然そんなことない。どちらかというと、地味な町だ。

「バッチョー、ねぇタマゴを盗んでくるにしても、どうやったらいいわけ」
「お、ボクに質問してくるなんてサラっち、ほんとに困ってるんだねぇ」
「うん。わりと。で、どうなの」
「そうですねぇ……ボクは……」
 真面目な顔をしたような気がして、ん? と顔を近づける。
「なに?」

「よく、わかんなすー!!」

 そしてハチはぷいぷいーと尻をふりふり飛んでいった。私は、その辺に転がっていた石をつかむと、背筋にひねりを加えながら思い切り、振りかぶった。

 カコーン。ししおどしみたいな音を立ててハチは地に墜ちた。
「なんて素敵なワイルドピッチ……君の技にボクはめろめろ……」
「誰がいつめろめろじゃい。えっ!? ちょっとそこ耳かっぽじって聞きなさいよこのダメナビっ!」

「どうせ裏切られるんだから、あんなのハエと思って無視してればいいのにねぇ」
「きっとそこまでクールになれないんだよ、自分のナビだし……」
 シロウとノアが語り合っているのを背後に聞きながら、私はハチを踏みにじった。えいえい、こんなの裏切られた私のハートに比べたらっ!

「……すごい技だった」
 突然話しかけられてしまった。
 振り返ると、小さな女の子がそこにいた。いや女の子かというと……年齢不詳だ。真っ赤な髪を、左右のこめかみのあたりでくくっている。

 それよりなにより印象的なのは、背中にものすごい斧を背負っているところだ。身体よりおっきいんじゃなかろうか?
 装備もかなり強そうだ……。小柄なのに、戦士系なのか。すごいなあー。
 体つきとか関係ないのよね、強さには。

「見事な投法だ。どこであの技を身につけた?」
「えーと……あの、別に身につけたとかいうわけでは」
「感動した。失礼、私はビューネという。貴方は?」
「サラ、です。武闘家なんです」
「そうか。武闘家か。弓使いの方がその投法が活かせたかもしれないが、武闘家でも同じなのだろうか」
「とりあえずハチを捕まえるのには役立ってますけど」
「ハチ? ……ナビがハチなのか。初めて見た」

 嗚呼また言われたよこの台詞。手の中で
「何よ失礼ね! 見るんじゃないわよ、お安くないのよ!」
と謎のオカマ口調になっているので念入りにこねておいた。
「そんなことをすると、中身が出ないだろうか。ハチミツとか」
「ローヤルゼリーとか、出れば良いんですけどね!」

 ビューネさんは、なんでも城下町を目指していたらしい。
「方向音痴で、なぜかこの町にたどり着いてしまったのだ。待ち合わせをしているからできるだけ早く城下町に行きたいのだが……」
と言うので、城下町までの道を案内した。
「おお、ありがとう。親切だな。
 もし何かあればお礼をする。ではまた!」
 ビューネさんは意気揚々と地図を見ながら町の出口目指していった。




*******




「気のせいかなー」
「何が? ノア」
「ビューネさん、町の出口に向かってる途中で左に曲がったように見えたんだけど」
「…………でもこの町、くるっと円形になってるよね」

 中央広場の周りを道が取り巻いている。
 ミュンヒハウゼンの館を中央に、ドーナツみたいな形をしているのだ。

「まっすぐ進む限り、変な場所には出ないよ。きっと。
 じゃ、これからどうする……」
とシロウを見ると、にっこり笑われた。ペンキまみれの顔で。



 悪神神殿……といったらなんかおどろおどろしいイベントでも起こりそうな感じだけど。リンダリングの世界ではどの町にもある。悪神信仰の冒険者が死んだときは、悪神神殿で生き返らせてもらうのだ。ちなみにタダ。だけど、タダより高いものはないという教え通り、何割かの確率でゾンビになってしまうらしい。
「ゾンビになると、とても強くなる……特に夜。
 でも、だんだん腐ってくる……」

 モンタが説明してくれた。
「いやだ、俺は絶対ゾンビになんかならないからな!」
「でもシロウはなりそうな気がする。そういう逆ビンゴを絶対当ててくれそうな気がする」
「しないでくれ!!」


 虹の町の悪神神殿は、なんだかおどろおどろしい雰囲気に満ちていた。
「カンナ。悪神神殿に私とサラが入っても、支障ないわよね。矢が刺さったりとかしないわよね」
「はい、しないですぅ〜」
「なんか法外な請求が来たりとか」
「はい、しないですぅ〜」
「経験値が奪われたりとか、そういう不利益を被ったりしないわよね」
「はい、しないですぅ〜」
「金銭が奪われたりとか。意識を失ったりとか」
 微に入り細にわたり確認している。カンナは逐一答えている。なんて真面目な良い子だろう……ハチがハチなせいで、輝いて見えるわ!!


 一度悪神神殿には入ってみたかったのよね。
 すっごく興味ある! 善神神殿があんなに金に汚い場所じゃなかったら……いや、綺麗な場所でもあんまり善神とは合わないかもしれない。どっちかっていうと、悪神の方が性格が合うかも知れない……
 あれ。私、なんで善神にしたんだろ?
 ノアだって、ばっちり悪神の方が合ってる気がするわ。というか悪神信仰だと手に入る宝石がある、とか言われたらきっとその場でローリングするほど手のひら返して悪神に走りそうな気がするのよね。
「シロウー、姫様そろそろキャンデーじゃないの」
「あ、そうだった。でもまだ寝てるみたいだな。寝かしとこう」
「姫様に冒険を味わって貰うんでしょ!? だったらずっと起きてりゃいいのよ。目んたまかっぽじって戦いのすみずみまでみてるといいわ。ドラゴンとのバトルとの際は、盾になってくれると良いわ!」
「サラ、すさんでる」
「………………」

 あーうー。




*******




 悪神神殿は、場所によって規模が違うみたい。虹の町の神殿は……大きかった。
 膨らんだ柱が何本も建っていて、中世みたいな荘厳な雰囲気! もうもうとたちこめる煙が紫色で、不思議な雰囲気を醸し出している。嗚呼、ファンタジーって感じ。

 でも、
「いらっしゃいませ。今日は、どうなさいました……?」
 ベールを顔に着けたエキゾチックな美女にそう問われたとき、ふと思ってしまった。

 なんか病院みたい。


NEXT?



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